粋宇瑠璃
《粋宇瑠璃巻之二》

飲食男女の道は。人の大欲そんすと。ひたふるに花街にさまよひありくたはれ男の。仲居料理人などの。 宿這入茶屋は諸事心やすく。自前宴の会席。急雲雨の仮衾にしてこぞる人へ入こみ。食悦ほど恋の手がゝりは無と長の丸のと連歌歟。 芭蕉派の点のやうな物振舞に。元来ぜゝ貝屋の娘や弁当引の姪なれば内証では有。何の遠慮もなく。 いさゐかまわず食悦せしを。扨は我にうちとけて斯すると心得サア恋のきゝかけ出来しとヤツチヤしてこいと出かけて見るに。 思の外はぢかれぬ。我はまぶ他は客じやとおもふ客と。まるまるのうぬ惚から。そんな目に出合て端た銭損すること也。 全躰茶屋は口嫖所にした物が。けつく中宿や。友達の所での。後朝のぜい冷ましく。たまたま。たかのおとしのやうに。 往た茶屋で。一せきに歌曲かず十四五上た。かり子あがりの藝子呼て。つき出しの留理の丼鉢をたゝいて。 野田の藤まふて戻り。翌日髪結床で。みなが夕はさへたげなと嬲ばサアゑら酩酊で覚へなんだ。 藝子五六枚ゑら宴。近年のゑら壺。内はゑら不首尾と。ゑら尽の口嫖も。余慶たてゝも些たてゝも。 十年帳尻茶屋へ招提にゆくもの也。或所へ出入の道具屋。扨木菴の一行物の見事なが出ました。語も能ごさりますアヽ初祖大師に達磨とござりますと。 達磨大師に訓点附てよむ道具屋。此得意の旦那も周章もの。道具屋とらへて咄しには。物には凝も大がいがよひ。 此頃茶に余魂を入ましたら。指に茶杓だこが出来ていたむが。意地わるふ取れんと鉦打ておいた銀の為替が取組で来て。 翌受取筈じやが此茶杓蛸の痛さでは。金が改にくからふといへば。こちらも調子あわせて今橋の旦那様へ弐拾五両で。彼瑠理雀を手を打ましてござりますが。 それはそれはよう転ります。どふでも莫邪が剣も持人によるで御座りますといへばサアよそへは利根なもの持ておいでなさるのと。 お定のねつ述懐。序ながら問ます餌はやはり生餌で飼かのとは。主客相倶に先陣あらそふてのすかたん。しかしこんな男が銀ためるものぞかし。 又恋やら欲やら。昼夜のうち打粋といふものあり。洗金に黒びろふとの格で近比殊にはやりぬまづ最初に後家茶屋の取持で。 自前の藝子文附るにも。会ぬ先から懐胎ごみ節季間金何ほど。手付に金壱両などゝ。乳母をかゝゆるような色事。 十露盤づめでつながつて居る内。此茶屋へ入こむ若い客のうちに。此藝子に執ねき心ありしかど。黄白おしに。 この斎藤別当にしてやられし無念さに。彼親仁に舞雲雀と醜名つけしぞおかし。どふいう訳ぞととへば。 上から鳴て居るという事のよし。此げいこの鍵屋おつめ女郎もぬからず。いつまでも此ようにばかりはいやじやわひナアわしや。 まゆが取つてしまひたいが。いつそかゝ様よちよつぽり。おきやでもさせておくれんかと。 あどない熊手にひつかゝりしは。此与九郎兵衛常々いわるゝを聞に。連中の吉郎兵衛はさてもたつしやな。 夕も百万辺六座勤たと言おるが。おれもよしがへしまではやるがといふやうな。 むくつけおやちどの割考てつい相談しまり。勘定づくの妾宅やら。現銀帳合店代の出見世やらの。果は大かた人に蜜会はお定りなり。 妾も内の子供の。はなかづが上るにしたがい。奢が付て千倉が通もて来るはの。老松町の古手屋が入込はのといふと。 母親までが今の内に宿坊へ永代経上ておこふかのと。我物不入の鶏さばき。夫に引かへ年始の礼にさへ狐いろのかはたびを。 はきありく粋とのが。びつくりしてがみがみ叱ると。福原のくづれ口妾もけたいくその竿竹で。外の蜜夫のことちらちら顕して隙取下地。 ぬすんだやつが梵妻と勾引た気で。先も世間へ憚ておもてへ出しにくいを見こみ。三百日の逆ねだり。 夫とはまかぶらの。見ぬきやうのにくさ。素人が唐黍の根のおもわくちがいで。米の下り請た心地で。 嗚呼壱升入つぼは。五合な浮世じやといわれしもおかし むかしは王侯大人と言へど。仏の道にいれんとおぼしめせば。 わきて智恵さとくまします児を。僧となしたもふとかや。されば智識も高徳も出たまふ。 今は六根具足せぬはの。魯鈍で跡目おぼつかなしの。放蕩からの徹入道。難病からのでも坊主。などゝ尤らしきはすくなく。 山疵虫入手垢つきの。直びけ代物の集り所のやうなりしぞかし。夫ゆへいよいよ寺詣は。 寺ぐるひと変じて。十二浜からうちしきの色上が出来たが。当講中もだまつていられまじと。本願侈に力みがつき。 随分目立やうに借がさがよからふ番付は弐万壱ばんからしるさふと富の札にさへ無ばんを書といへば。 こちらから手前の一家のごふく屋びゐきで。まくが能からふとの論。やがて腕づくになりかねまじき勢。 和尚は聞耳つぶし。黙念と殊勝らしきつきし。本堂の天井は永代くわんけの貨物とわざとはらずにおき。 一建立のむかつき旦那は。無がましとそさうなおもわく。俗家にはおもひの外女房といふ義理のほだしが有れど。 てらの内証はいさゐかまはず。たまたま生ついて魚肉きらいの僧は。まり蹴の脚気病の様にいわれ。薬喰に些精進してみやうかといふくらい。 これら世間でらの持まへ歟。なる程木食上人の反吐には猿がたからふが。余は常の犬悦なるべし。それから見ては。 権大僧都正直院蒻屋権兵衛殿が。命がけのあら行し。大峰参数十度の大願。頼もせぬに病気のいのり。 身ものはり込で新客勧。寒中に汗玉ぎらして。ざんげざんげ。誠に行者も感応のしるしには。一代息災で三十三度の大願もみち。 死る七十まで壱升飯くひかねぬ元気。産婦も。癆やみも。放蕩息子も。腎ばり親仁も。なむ行者大ぼさつで。 本服さそとやり付律儀さ。骨髄の正直さを。河豚汁と。山上詣と。蜜夫とは。命しらずの三たわけとそしりしは。 めいわくなるべし。扨世間寺の僧の諷経に立れしとき。旦中が平伏したるとき。しわぶきの声おとない。 中啓叉にかまへ。乗物までゆかるゝ付。ニハカたのみたらばよき肝なるべし。又談義のとき高座にあがり。 むせうに殊勝らしく。咳はらいと舌なめづりばかりでは。聞人も無。一きわ調子はり上て。声いろまじりな説法は。きつゐ殊勝な仏くさい事がなふて有がたいと。 けしからぬ聴衆。和尚も勝ほこつた。はな角力の気で。一きは出来もよく。夜前の読下は悉多太子は。 閼羅ゝ仙人につかへ給ひ。菜つみ水くみ。八丁あなたの清水より。日に廿荷の水よりも。主の心くみかねて御苦労遊ばしました所でござりましたが。 かのあらゝ仙人と申ますは。ほく天竺成合の庄。橋立の庄。ゆらの庄。合て三庄の主にて。からき目みせてせめつかへば。 山椒とも又異名せられしはかりの名。まことは提婆達多は我なりと。どてらにかはる肌着の小具足。十王頭の小手すね当。 錫杖扇の両の手に。戸口でわめきし有さまは。実ちよんがれの大将と。こつがらゆゝしく見へにけりと。 今見るごとき導師のいきほひ。聴衆の面々うつゝをぬかし。銀箱めイヨ寡婦倒めと。 ぞくぞく小躍して悦べは。扨歌七か悪も観音の慈悲。岩子が愚痴も文殊の智恵と。是生めつほうなときやうも。 つまる所はくわん善懲悪の道理にかなへばこそ。後の方の遅参の聴衆は。聞へぬわい聞へぬわいとわめけば。 講中罷出東西東西御神妙に御聴聞の程を希奉ます。扨見ますればうしろは殊のふせりこみました。まへはすいてごさりますれば称名の声もろともに。 高坐近くへ御つめ下されませと。制すれど猶かしましく。仏法はんじやうもいつしか。鉄砲はん昌となりぬ。誠地ごくの沙汰ばかりでもなく。 極らくの沙汰も是に准じ。寺から里への納豆の曲物さへ。挟箱の中が水玉紙みるやうに。丸いに大小が有事ぞかし。 又今さらいわゐでも知れた事ながら。我国は神国なるに産土神および。我氏神其余の八百万の神を祭らず今昔物語に有。 いけにへ取そふな淫祠めきて。たゞ明神とばかりとなへて祈る事はやりぬ。本より両部にてもなく食卓のやうに。ごたまぜにして祭らるゝ。 祭文をきくに。小男鹿の八の御耳ならで。七の尾をふり立て聞しめす。 わかさ小だいが九かみゑめたみ。かんごん震そんちこんだ乾敬白ホヽヽ ヤツチヤ ホヽヽ ヤツチヤ とは。奇妙な祝文なり。実に万物の霊たる人として。かやうなる異端を信ずるはつたなし獣がいのりたくば。 麒麟白沢など社いかゞあらん。すべて一果は何事によらず流行するものなり。其流行の不易になりたること有。又あなといふこと有。 既負惜といふこと。まだ三十年にならず不易の野語のやうになりたり。扨借屋札はりし空家を家守に尋るに。 先約有との答も不朽の穴歟。湖竜斎が春画を見て。てめへがそふゆつたとゆつたてゝ。おいらんが証人だから。 むかふの住吉屋まてあいびなと廓法言も。武家も男女も。一こみの。はめ句し。江戸見て来たするは。 秋葉講の代参にやとはれ四文銭のうらに波数の廿四有は。少い事覚へてもどりし人の穴也。明楽学ぶ人の唐音の端扮を覚へて。 何どき漢へゆきても。世帯の出来るやうにおもはれしも。鳥がなくあづまの人は。物は図無鋸を借てくんさいといへば。 しらぬ火のつくしなまりは。あればつてん太かのこをお借有といふ。京大坂の人にいわすればアノナ大きな鋸かしておくれといふ事のよし。 我日の本のうちでさへかくのごとし。障子ひとゑ唐を尊んで。俗おどしの詩をつくらんよりは。まのあたりの日本を仰で。 難波江のふかく浅香山あさきをもくみて。敷しまによりくる人かずに入たし 河津广もふろくといへる人。 十日頃の月ならで。余ほど角のとれたるが。遊里にて付合て見るに。不動愛染のごとく。そんようとはきつゐ違にて。 内心の柔和さ。はまらぬなりに宴調子もあはせ。さすが人がらになつかしき所有て。からぞめきはせられぬ場見へたり。 尓はあれと余所のきぬきぬに少しも想像らず。明六の太鞁より。勢こふでかけ来りしは。 昼顔の朝なゆふなのつゆをしらず。裏御堂の時の太鞁起わかれ待宵も別の鳥も。 出るも入もたいこが合図。笛をそへてつゞみ歌のあはれなめりやすに合たら。ゆうれいのやうなるべし。 天気の能日は青楼の閨中から。いくたびとなく庭に出て。扇子を立てしるしの竿とし日足を見て時をはかりサア帰去来といふと。 尻引からげ久太郎町を東へさして。真一文字に山王祭に神輿におくれし法師のごとく。人がら崩はしりゆかるゝ姿はつみなくぞおもほゆ
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坪田 敦緒 / tsubota@ep.sci.hokudai.ac.jp