満仲
《満仲》
まんぢう。心におぼしめす。それ。人の一大事は後生なり。末の子を一人出家になし。われらが後生をとはればやとおぼしめし。
びぢよ御ぜんと申て。十二歳になり給ふ若君をめして。おほせけるは。なんぢ。寺へのぼり。がくもんし。ほうしに成。
われらが後生をとぶらひてたべと仰ければ。びぢよ御前はきこしめし。あら何ともなや。人のうへにだにも出家のすがたは。
こゝろにそまず思ひしに。いまさら我身にあたつて請ける事の。むようさよとは。おぼしめされけれ共。
ちゝの仰にてあるあひだ。ちから及ばず。りやうじやう申されければ。やがてなかやまといふてらへのぼせ給ふ。
まんぢう。かさねておほせけるは。なんぢ寺へのぼりせば。がくもんさいしよに法花経をよくよみおぼえ。其外よろづのぎりをしるべしと。
御やくそくありければ。りやうじやう申。てらへはのぼらせ給へども。御経あそばさん事は。なかなか思ひもよらず。
むりやうの木のかはをはぎあつめ。よろづのかづらをもつてくさり。よろひ。はらまきなんどゝいひ。木なぎなた。
木だちをつくつて。多坊のちごをかりもよほし。とびこえはね越。はやわざ。すまひ。ちからわざ。かゝる武芸のまねならでは。
一かうよるひる。たゞてんぐの矢とりのごとくなり。ししやう同宿けうくんすれば。結句却而ちやうちやくす。寺一番のあくぎやうは。此若君一人のちやうぎやうなりとぞ聞えける。
舞台芸術に戻る
坪田 敦緒 / tsubota@ep.sci.hokudai.ac.jp