にはくなぶり
《にはくなぶり》

  卜居
我艸堂の前は武塔天神の南の馬場につらなり。芳園に隣り泉に名あり。水は深きにあらざれども。地に声有て菊の井とよぶ。 市人の室を養ひ。行人のたすけと成。流は岡を旋て一村を抱く。高蓬風をいたみ。苦竹春色あり。草は名だゝる花を諍ひ。 曇りをあきらめ朝日にいざよふ。うしろは鷲峰山の鐘声算ふるにいとまあらず。西を望めばかぎりをはるかにして山樹雲にかくるゝをねたむ。 窓には落日を繋ぎ。まばゆくもぬかづき一日こゝにつきぬ。秋雨の漲りは麓の疆をつらぬき。松桂を洗ひて滝波小庭を埋み。 満湖の扁舟をよはしむ。たちまち迅嵐箔を飛し。渠を巡つて水声情を牽て流れ。かはけることすまひの手をかへすよりもはやく。 いづくの舩をか行。さあれば漸月影ほがらかにして世に声なし。時ありて宮寺の行かひ。老は若を杖にし。 若乃と一ふしをうたひ漁翁を欺き。歌吹海の瀬まくら。阿漕がうらの闇夜を妬ず。 限り有ける命なりけりと思ふやは。又遠きをはからざるたぐひならんやと。孤灯に志を斗るに。閑を破る事夜ごとにかくのごとし。 あるは来らず。さあらぬは訪ふこと稀々ならず。心の行に欲がたし。閑所はいづれのところをか求む。傍人答ふる事あり。
   閑居は地にあらず
   閑人はくるしむ
   閑寂は閑をなやむ
予常に四閑をおもふに。其閑のいたれるは恒の産なり。粗糲をいとはず。みづから熟して茶を喫し。夙夜にこゝろをゆだねて。 坐に三尺ふすに六尺。以一丈に足らず。其たのしみを知つて閑をたのしむは誰をかいふ。東麓の散人勃翁也。
    河東へうつりし日      淡々
 きのふ京明日をしらふの継尾哉
    その秋           仝
 諂らはぬ日こそ安けれ黄鶏頭
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坪田 敦緒 / tsubota@ep.sci.hokudai.ac.jp