潜蔵子・百銅五舛安心
《潜蔵子巻之中》
《百銅五舛安心之三》

    ○疣で鯛との教
町人の信仰し奉る西のみや夷三郎殿は金銀沢山に持て。あらゆる物ずきしつくし。色酒も鼻について栄曜のしかたにことかひて。 しやれたたのしみがしたひとの出かけ。烏帽子きてつりしたまふと覚えては大きなるちがひなり。つどつど其よしをいはば。 先以てあたまはらりやうが。白刃振てかゝらりようが。唯あやまつて居て立あがらぬが肝要。ふまれてもたゝかれても。 腰をさすつてこらえて居る事。それ故此尊の徳を称して。三年になりぬ足たゝずしてとはきこゆ。次に全釣をこのみ給ふにはあらず。 自己の本性ついやさずと。他のものをしてやる工夫を。疣て鯛とのこと。何ほどこらえにくひ処に居ようと。 損さへなくば。岩の上にもあたゝまるまでの堪忍。そふいふて常中疎慵かまへて。すはつてばかりといふわけ。 ゆめゆめなき故。随分はたらけといふせいぶんに。極寒にも両袖まくりあげての襷がけ。よろず世界の事に。 気をはらず行たひ処したひ事。唯こらえる教。此道理を合点して。精さへ出さは。いのらずとても神や守らん。 しかるに。近きころは。身の上しらぬわる物ずき。詩文剣術柔法に心を尽ず人多し。たとへ其術得たりとまゝよ。 けんあい間つもりあいきのはなれは。うまれもつかぬきうせんすじを。手製にこしらゆるといふもの。昔在金うり吉次といふ者。 牛若の御供して。折々鞍馬へまいりけるに。剣術のならひたく。毎度僧正房へ願奉りしも。町人の不用事なり。非力の角力。 肥漢の軽捷とて。にあはぬ働きは怪我のもとひと。師の御房おしへさせたまはず。後に奥州下向の時。熊坂がをしいれにも。 なま兵法なら大疵なるべきに。かゞみ居たればこそ無事なれ。とかく工商の輩は。其業に勉焉て。顧主のかたへは七重のひざを。 八への塩路。鳴渡の梶ゆだんなく。おそれうやまひ奉らば蛭子の宮の御心に。自然とかなひもて行て豪富長寿なるべし

尽ず…原文のまゝ。
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坪田 敦緒 / tsubota@ep.sci.hokudai.ac.jp