龍宮苦界玉手箱
《龍宮苦界玉手箱上》

こゝに又かの浦島と一ッ長屋の佐次兵へは先年四国を巡つて猿となりしが。どういふ事か蟹と近付にて。 かの乙ひめを買はんと龍宮へ来り。中の丁のあしべ屋もゝ蔵といふ蟹が見せへたづね来たり。やみくも柿の種をまきちらして奢りければ。 蟹も馳走に焼飯を出してもてなす。さるとかにがやきめしと柿の種と取替へたといふもある事とみへたり。
さるは一ッたい悪洒落者にて。乙ひめをかふやうな客ではないゆへ。かにもよいかげんにあしらい。 河岸へでもやつてねかさふと決めておく。
作者曰。かきのたねでおごれるなら。だれでもおごりてたそ。

こゝのかみさんはけへけへしいさうで。あたまで飯をたくやつさ。
きのふも御噂を申ました。もちつとて今日も江戸へまいる所でこさりました。さてさてさてお久しぶりた。


猿は毎晩乙ひめが方へかよへども。けふもしまひ。あすも約束といつて。一寸顔も見る事もならず。 これは合点のゆかぬ事といろいろ工夫をめぐらし。若い者ゝくらげに○印をねぶらせ。どつこいと承知させて。 乙ひめが様子をきけば。くらげは忽ち金に目がくれ。このころ乙ひめは浦島といふ客ができ。 昼夜揚詰なりといろいろにおにをしつけて。わざと気をもたせる。

ようごぜへやす。わたしが飲込みやした。今夜はむしをこらへて初名代となされまし。おまへもある客人だものを。
おれもさる御方さまといつては相撲場て通つたものだ。てめへ働きしだいで千住の茶屋くらいは買つてやるは。 などゝ。あとの手を引かけておく。今時の山だしには油断がなるものしやァねへ。


こゝの…猿の科白。
きのふも…蟹の科白。
ようごぜへやす…くらげの科白。
おれも…猿の科白。

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坪田 敦緒 / tsubota@ep.sci.hokudai.ac.jp