好色十二人男・遊色控柱
《遊色控柱巻之三》目録

かけづゝに角屋敷禿がざれに時市がへらす口
太夫様もこぬるふして
これ一はいおしやうしや

《遊色控柱巻之三》

  かけつゝに角屋敷
             かふろがざれに時市がへらず口
             太夫様もこぬるふして一はい是ハ気の毒や

島原のわかれも。新町のきぬぎぬも。よしハらのおさらバも同し物うき朝。霜ふり月宵のけしきも替て。はつ雪軒にふりつもれバ。かぶろの三弥が。まだふれ小雪と。つまにうけて時市かねて。 いるにうち付。こりや。なんじやとおもやるといへバ。ぬからで。よし野ゝ山を雪かとみれハと。うたひながら。腹をもたてず。つらをしのごひける。 太鼓持のやくとて。夕ハ無理酒にあひをさせられ。埒もなきあほう口。後にハおとがいのまハらぬ程云て。女房共の。かくす事まで人中にかたうせ。いづくの人やらしらぬ者でも銀けさへ見へれははや付こみ。 こりや。旦那の御用ならバ。八まん。いづくまでもじやと。いろいろのけいはく口気に入ても金子一歩か。やうくれて。二角なり。此大臣。御国者にて揚屋の座敷。太夫の一座。 いまが初なれバ。諸事太鼓まかせにして。酒事もさのミながくせすして床に入り。二つ三つ何かはなすとき。かの男の声して云やう。此大せつなる銀たして買からハ。ふるてゝ。ふらせてをくものか。 こりや。男か気にいらねバ手足のあることゝの。日本をまハる小判であふとおもへと。女郎をひきよすれバ。ふりはなし。一時ばかりせり合て後。女郎いひけるハ。扨々こな様ハ。 御仁躰にハ似合ぬ。さもしいそれほど小ばんがけつこふなるものとおぼしめすか。女郎と云者は。かねでなづむ者にてなし。いきかたひとつの物なるに。ほんに。あたみられぬといふてふりいづるを。 すいさん成買女めと。たぶさ引つかんで二階より下へつき落せバ。内の者共きもをつぶし。上を下へとかへして。亭衆がりくつくさきつきに。 一座の友立あせをながし。此里初ての人なれバ何事も我々にめんじて。かんにんいたすべし。あの男ハ。北国で誰あらふぞ。佐渡屋の金七とて。およそ拾万両の身躰。此度ハ態と。此度ハ態と。 此所へかねつかひに斗きて。気にいりたる太夫ハ。八まんねびきにする気ざし。可然やうにと。腹立の角を黄物にてをらせ。それじまひにして其夜はかへり。明の日。かの男を友なひ行て。 亭主昨日のはなしに験見えて。今日のまハりやう。格別きハをミせて。女郎さまハいづれをと云バやはり昨日の女郎をと云。旦那是ハ御目利。此里に女郎おほしと申せども。あの太夫様にます事なしと。 やがて人をつかハし。まづ勝手にて。此大臣の訳を太夫にはなし。すへハ御為になる御方と。昨日の咄に十倍まして云ふくめ。さて太夫様これへ御出といへバ。大臣きみわるそふにして。 昨日ハ酔のあまりにそそふいたしたしかしこれもふかき恋ゆへと覚しめし。諸事堪忍といへば。太夫聞て。是ハ近比迷惑成御一言。わが身ごときの者にとやかく御申ゆへあんまり虚言らしく。 あたまから思ハれたいとの仕掛と。わるずひまハり。誠か偽かの御しんてい。見極ために昨日のしかた。いま思へは悔しさよといへハ。太鼓の弥三郎こりや。太夫様うまひハと。 盃を改め。酒事初じめ。かぶろあつめて鑓踊。近年仕出し人形の仕方浄瑠璃勧進相撲の土俵入のまね とかくする内。夜も半の比に成しかバ。皆々床とりて入にけり。 太夫心に思ハれけるハ。昨日のしかた。いかにしてもにくし。こよひも帯とく事有まじと思ハれしが。なまなか。初会のごとく。振だてして。またからきめにあわんよりハと。 思われけるか。心よくあひしに。其後彼男つれをまねき云けるハ。此女郎。難波にかくれもなきはりのつよき女郎のよし。聞及しゆへ。せつかく心を尽しに。其甲斐もなき太夫どの。 殊に夕のやうすもあるなれハ。いかさまにもと思ひしに。存の外の相違なり。たゞしハ夕部のあれげしきにおそれてあひたまひけるか。いまハ何をかつゝむべき。こふ申それがしハ。 京のさる旦那が末社の神。しいしの喜助と云者なるがふるかふらぬかかけにして。三会目までに此君にあいなバ。町の角屋しき金千百両添くださるゝはつなるに。 三会目まで行つかず。二度めの情に慥成しやうこを取。其夜都に帰りけり。替りたる仕かけに。さしもりはつの太夫殿も。こぬるふして是ばかりハ。一はいまいりた

《好色十二人男巻之二》目録

 好色十二人男
  巻之二
   目録
(中略)
      いき過た面ざし
             恋の仕かけに腰のぬけ所
             凉に余る凉のふち瀬


《遊色控柱巻之五》目録

さりとハ違ふた人の形四条のすゝみ床ハ高なしの楽あそび
若衆の小尻とゝめハ急な所の
             入聟

《好色十二人男巻之二》
《遊色控柱巻之五》

※本文は遊色控柱による。好色十二人男における題目は※を附して示す。

  さりとは違ふた人の形
 ※いき過た面ざし
涼ハ四条河原に極りて。たのしミ深し色をたしなむ艶女。声をあらそふ美男。こゝハこゝハの出立に。分限ほど宛の伽羅の香。銘々の潜上に血気血気の楽遊。年毎に見馴てさへ。 肝をたんほらの拍子にひやし。からだをつてんの音になげ打人心。ちとたしなまんせのぼんさまさへ。衣を袖におし込。高宮島の頭巾に。国々より持参の小哥。爰を大事と念入て。 張揚るつりがね声に。かばやきの一節。鯉の細作りを命のせんだくとの相図言葉。それ呑と云まゝに。唐がらし酒のあばれ呑。旦那旦那のむさぼり銀ハ。夏をこさぬこの噂。扨洛中ハ申におよバず。 近国遠国の方よりも。祇園絵の心当。直石かけ町のほとえいに休らい。灯のあがるより。早くわめき出有様。ちやちやと正躰なく。 我をわすれたる老若。宿のうき事をさらりとながす涼床に。盃をうかめ。上から下へながす肴に。茶屋のかゝが一ふし其日過のかたかたも。質札をしちに置て。似合似合のたのしミ。 其中にもなまじやれな。よい事知らぬかたかたハ。むせふに声をかぎりに。集銭床の色見へて。銘ゝの身ぶりに。口ゝのはやり小哥。肴むさぼるつきは。 喰ぬが損と云ぬばかり。扨上人の出立ハ。しつほりとかふこうに。床数をならべて。四五人ハおほい分。世間の噂をたのしミて。切声の物語。盃を銘々におさへる声の聞へず。 さりとてハ面白さ都なれハと心有人ハ。見物に行も多し。こゝに西国方の牢人に。戸山九八郎とて三六の角前髪。器量人に勝れて。なさけの道に通達し。弓取ての早ハざ剣術の銘人。 其外武芸に残りなく。力強く長高く相撲のめいよ双なし。見ると其儘そつとして。女ころしの眼尻に。木男も腰ぬけて。思ひもかけぬ僧もなし。其国の出来武者と国守の御ほんそう。 昼夜の出仕大切に。御そばはなれぬ出頭を。ねたむ世界のはかなさハ。讒言の人有りてかりそめに御勘当をかうふり。船に帆あけて難波かた。四つはし辺に立やどをさだめ。 秋風の中空に関東をかせぎて。身を安全に名を上ゲ。武家のほまれを取るへしと思案半に送る日の。友同志にさそハれて祇薗絵に上り。すぐに涼に出られし。弐尺三寸のさしぞへさめざやの志の巻柄。 金鍔のぬりかくし。三尺壱寸の同じ刀を短気みぢかしと横たへ。首からまたのはへ出べき草履とりに。八角のつえをもたせ。涼床のほとりをはいくわいして居られしか。小尻とがめの口論にすでにあやうく見えし時。 二八に足らぬ少年。深あミ笠に長刀。身命をなけ打て。二人の中へおし分ケ入。御れきれきと見へたるかたかたの此場にての口論。御人躰に似合ず。侍ハ相たがひ。かんにんならぬ事有バしつほりと契約し。 人知らぬ野辺に出。御本意をとげられよ それがしも若年ながら。仮名字を首にかけ。花房吉三郎と申者。参かゝつてのあつかいに否といわせぬ物ごのミ。是非と有れバ不調法ながら。 それがしが御合手にと力字足をふむまゝに。物こしの尋常に誠を述る人がら。両人もはぢ入てたがひに礼儀尤に立退ほどに成しかバ。少年九八が袖をひかへ扨もあやうき御有様。見る目に汗のとめどなく。 はつとばかりにむねせかれ。其まゝかけ付らひし。甲斐の黒駒浪わけておさまる今の御うれしさ。さぞよろこバせ給ふらんしかし此ほとりに連二三人催し。一樽をもたせ候あれへ御入。 御気はらしと手を引て行けれバ。九八余りのうれしさに。思ひも染ぬ御少年。口論の御あつかひさへかたじけなきに御ねんごろなる御一言。いかなる御方に御座候やまことせんだんハ。 二葉よりかうばしきとハ。今目前の御若衆。只今死る命を御かげにより助る不慮のゑんのつな。君か刃のためしにハ何時もそれがし。命たすけの命とりエヽせめて御宿を見届ケ。 一生の思ひ出に枕ならべて一夜切。腹かき破つてと云へバ。少年ハ手をしめうハきな殿と見立たが。違ハぬ今の御一言。さふした事ハ後の夜の。又出来心有もの也。こなたへこなたへと打つれて。 三条河原打すぎ。と有所に床をならべ。少年四五人酒呑て居たりしが。いづれも頭巾に髪かくし。大小をよこたへ。吉三おそしと飛出。小源殿の恋こそハ成就したる目出度さ。 吉三殿の御手柄たのもしいたのもしい。いざ此方へと手を取つて。床にだき上ケざゞんざ浜ばたの恋ハざゞんざと。同音にうたい上ゲ。あやかり物あやかり物と手ゞに肴を一節宛。 吉三もともにうた飛ながら。悪性な殿さふな。道すがら私に少しづゝの濡衣小源様の御そ様に。おほれなされての取次に。私がはたらきと。そろりそろりとひとりづゝ。 いつともなしにはづせバ。小源ハひとりうれしげに。九八郎に寄そい。家来どもがはたらきに。不思儀のゑにしさりとてハ。結ぶの神の見すてなく本意をとぐるうれしさ。 おのさまの御すがたを一目見しより恋となり。かれにかくとかたれば何とぞと分別し。急な恋の事なれバ。思案出ぬと云内に。吉三が智恵の文珠より。あつい所があらハれて。 術に人をまハし。こじりとがめに喧嘩仕かけ。あつかい済でかやうの儀。今宵ばかりハ私が二世の殿子とたのミます。かさねての御ゑにし。神も知られぬ身の勤。御心打とけて。 夜半切なる手枕に。甲斐なく立ん名のミこそ。君が為にハおしからじと。打もたれの給へバ。九八ハ夢の心地にてむかしが今に至るまで。若衆の木男にほれたためしハ有明の。月の地からはゆるとも。 又と有まじき面影。流石都と余念なく寄添バ人々小夜着打きせ。火をしめししばらく音のなかりしに。御むかいの六尺女房たちが参たるよし告けれバ。小源ハ夢の心地にて。さりとてハあさましや。 勤めの身ほど憂ハなし。しかし御縁の尽せずハ。来々月の十七夜。三年坂におハしませ。ひそかに御げんなりませんと。かたきやくそくゆびきり仕。残り多げに見ゆる時。四十に余る女のかいがい敷そばにより。 頭巾大小をうけ取一つによせて引からげ。八助に持せたり。最前ノ若衆不残女になり。源さまの御乗物と。呼よ利はやく六まいがた。はかまにはおりの刀さし数十人立よれバ。お吉下部に申つけ。 兄子さまの御のりもの。それそれと取よせ。九八郎をむりに乗せわかれわかれにぞなりし。九八ハ十方を失ひ。いづかたへ舁行ともしらねども。先の首尾こゝろもとなく。よし命をすつるばかりとおもへバらちハ明事と。 くわん念をする内に四条室町の辻におろし。駕籠引かたげかへりけれバ。九八四方を打ながめ。問々宿所に立かへり。それよりもわすられず関東の沙汰ハ扨置。地黄丸を腰につけ若たよりもやと未明より暮るまで清水一の日参。 好色第一の男となり。うかりうかりと其日おくり。かゝる事も有事にや
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坪田 敦緒 / tsubota@ep.sci.hokudai.ac.jp