温泉の垢
《温泉の垢》

そらのけしきおもしろふ晴渡り木の葉うこかすほとならねと。湯のかささふ風のうらゝかなるに晴残たる四方の霞ゆ気もあつめて立ちのほる。山の木たちも時しりにしけりかさなり深きみとりの色まさるに。 此里に聞古せしうくひすならめ山深くさへつるを。珍しき心地すれはきかまほしくて耳かたむけぬれはかたへの杉の杜に鷺のおとろおとろしくむらかりさけふにけおされて聞わかぬそ。あなにくきや。鐘の音木魚のひゝきなとかすかに聞ゆるは山の法師も短か夜に寐すこしぬらむ。 格子よりなゝめに辻を見やれは。われと同しく病みぬるものにや眼にうすきぬかけて面湯に通ふもあり。又はたかにて走るも有り。こめろの盆に豆腐もり行そ醒の客に塩湯にて用ゆる薬ならん。わらんへの多くつとひてのゝしりさわく。何事にやと見るに。鷺のすごに綱つけて。引ありくなりけり。 ヤ引ヤ引留めや。そなにがへに引ぱるなでごとや殺してしまをさ。これみれ口明てだまつていたトメナニけづしのばね。おぢやこれノウ。たんほさ連ていれひきとらせろてそしよてよかろ「と皆うち連てきそひ行に八十に近からん齢と見ゆるうばの髪は白妙なるを黒ききぬにて包み青くまたらに絞りたる着ものゝ。 あつふくれたるに。はゞいとせはき丁子いろの帯引まわし。丸く細ききぬにて。裾のうしろは股の見ゆる程くゝり上たれと。前は地を引はかりに腰たわみ。杖にすかり。かた手は躑躅に黄なる花交て。ずゝに持そへ仏念じつゝあゆみ来る。杖たて腰のしわなゝきてウハヤレヤレ子共や子共や。みちよけなヱマツとかになろツヤ。 はやくにかせや「といふにウ引おらやつとしめたもの。おらやたしなウハそれあんのやおらお観音さまのおしみの鳥て。若ひよつと殺してもしたらソラほんに即座にばちあたろワラヘヱ引ナおらなしたて殺そばしとべてもせるてないしおらびきてもくわせさらはけつてくたはることよ。ノウおち。 ソラソラたべやけつ又脊病みこいてねつからあひあからねツヤ。はやくいきみからくらわせつけて。ぼへちやウハヤヽ又きかねかきへらたちやコラヤコラヤおれたのみたに。 ほんにごしよのためたおれくれたともて山さにかしてくれちや。そのかたぜんくれるさかへかよてもかつてくゑはゑやほんにめんこい子共たや「といへばワラヘそんたらおらにかそ「といふもありワラヘおらやつとしんめこいてしめたものやた「とて追たて行も有りすこし年たけたるを見ゆるか年タケヤゝわねはらはらばさまぜんくれてるてさかへ。 先つにかそて年タケ童目まちろきなとして。すこし小声になり年タケそしていまにばさまいつてから。またしめてこて「といふそ此里のならわせわらへ迄えまなひしならむ。耳の遠きにやしらて懐よりさんとめをりの袋いたしておのおの手を出すに。 くはりなからウハムウこれまつ。おさんせんなふ足せともがし。どつちしたもは同しことやサヽゑ子たはやく山さ連ていて。はなせや。そしてのや。犬だの烏だの見付けねよたとさよ「といへは耳につきて何か小声にさゝやきつゝ。うち伴ひて山の方にそ抱き行を見送りてウハなむまいなむまい「と唱へ居る。浅き頭巾に白き手巾にて包み。 眼はかり見ゆるおのこの鍬かたけいとふこわ高くばさまお寺参りするかむし。たつちよてゑそむし。ウハアラヤマツあのがきへらてものアハ事ばんじのかけた遊びばりするてことや。わねはらも見付たらはほんにごしよの為たに。わりくいてくれちや「こゝらふりむき見れと。 わらわべも見へさればヱヽ何かしいふかし。此ばぶでもの。只々ごしようごしようとてそれよかあんまり内てこやかましく世話てもやかねばゑと「いゝ捨て行けと眼とち居るにそえしらてウハそらわねはらも聞たてあろツヤあのいつでら。 わけ旦那しよだでけマツ殺してくつたでさしたればいまアマツ人の家さいつておりさ入れられで居さしやるでヱマツ。ほんにばちでもの。おかなヱンだでことや。おらお観音さまでものは。あらだでいさしてノウ。 「と眼をひらぎ見でウハムウいづの間にいつたばね。としよりにひとしてさべさせで「とつふやきながらなむなむを。ちからに歩み行。おもて座敷は朝帰りのおそぎにやあるしの女房こめろもろ共に掃きさわくけわひいとさわがしヲヤだつでなあげで置だで。おらふん付けだちや。イヽきたなきたな「とかた足にではね行ばヱ引又そゝ八や。はくわらもて来て取れや。又子共も子共だね。かだつけねどでもがし。 せめでそけだものをば取てゞもいげばゑどもは「といゝつゝ。あちらこちらの酒のあどぬぐひてウ引よごれだちやよごれだちや。よごれねもはよぐねどもがし。ちよ年秋けだなアマツ「とひとり言いふも。こどわりになん見ゆはるこや。よつほもはやく掃除せやアイかゞまやこらしなマツかぎの中さいつちよふんどし入れで置だでム引新し絞りだども此緒のマツきたなこどや「といふに客の人さまおしはかられぬよべの客しよわせでいつたであろねうらさでももていて干て置げや。 わせものに事けだノウ「とつぶやぎ居だるに二八斗りのおうなの。紙にでひんゆひ上け。びんはりとやらんいふもの。牛の角のよふに見へで。島織か染色かもけぢめ。分がらぬ程。光るを着て。帯がでらに前垂引かとゐなど。ふぐらがに。にぐからねど。まだ汐風の気ぬげやらぬか。眼少しはれで。ねむけなる。声して。戸口より。二八かゞまや。けさ座敷さかんざし落でねけがしンウニヤウ。そげだものアハ。ねけ。 ふんどしだればあるけツヤ二八おらおもしよぐなちや。どさマツ落したで七度焼か二八ンウニヱ。此ぢよそげん町さ入れでうだせだ。白梅の銀のなし。おら大ごとしたちや。せめでも壱本のなででもあればゑごどのノウ「と柱によりそひのふれんのしわのしつゝうれわしぎぞ。実に哀なるわざなりけりあんまりのむだものね。 よべも夜中時分であろが。しとみなどグワチミチでいわせでそどさ出だ音どするけツヤあのげださわぎでも。落した事よそして今から。郷ぢよしよさだの。ゑもの着たりさしたりしなヱンや。これがらちとこりれちや。ほんにゑひぎで四百もらつてがら。壱歩あでのものなぐしてマツ。 馬鹿だ二八ウ引あの壱歩で出来ろばしな。弐貫六百かゝつたしなヱ引こげや。なんぼもなぐしてツラ。又もらへばゑツヤ。そしてよべなだんだが座敷中さ。へどついで。跡しまいもしなで。いつたツヤ二八イヽおらしろばしな。ほんにしぬ程くやしちやどさマツ落したやら人にひろわれだであろちやノウ「と言ながら泣ぬばかりに出で行。向ふの屋の門口に髭黒なるおのごのきせるくわへつゝ手ふとごろにし立居でヒケクロなして今さ時分そげだざましてありげばね。 そげだざま見だらばソラ。だれも百も出すめツヤ二八フン「とばかりにいらへもせで。懐にさし入れで行ぬ。はや格子に日のさし入り鳥の声所々にあき人のつとひそゝめぎ。賃馬の鈴のかまびすしぎ。鐘の音こそなげれ巳の刻過ぎぬらんと思ひぬヒケクロヤ引ちよす。此ぢよの黒徳はへてかつたかヲウ徳はへてかつたぞヒケクロ十五つぶがニンニヤ十粒さしよでの馬下にやつて。ごはさまのばんそうで三樽だしたどなヒケクロホウそれよかつた。 肉のつたらたつちよなろでばヲ引そだもな。じたいかばねゑもの。アイ戻りに「とわがれ行。あさ黒にでいとあでに瘠たるおうなの。浴衣に帯もせで。まゆかぐしにはちまぎし西湯の前に来て瘠女モシかなじめのかゞまや。戻りあづらものしたさがへ。ちよつどよつてくさせよ「笑してモチおらさがな町さだればやだぜ。せんどもおがつさましただがいやみいわれで。おれ迄あげつらしたぞ。なぢよた事かし書てやつて見られたかし。 おらほんにこりこりした「と大きなる口開て笑へば瘠女ウ引いげすかねそなにいつつもいつつもやろばしな此かゞまでものへ。きのな門之助どがら傘借できたな戻してくれでごんだしなモチアイアイ心得ました「と笑ひながら。もぢいの箱に笹の葉もぢ添。あちこち格子うぢうがゞひ行ぬ。戸口に浅黄の合羽きたるおのごの五十に余りなん齢と見へで脊ひぐぐ肥ふぐれで色赤ぐ柄におふいかけし短きはかしさいて深ぎ菅の笠ぬぎながら親方モシかさまゑ日和でごさる「といふに声聞しりしにや。 出むかへてヤレヤレナア是はよぐ御出なされましたノシヤアヤアおれも先度がら来たぐで居だども。村用ひまなぐそれさ又病人などあつて来かねました。まつ皆おまめで一段でござる女房おめでもおがわりもなぐでは。おめでだふござります「となごりなぎ笑をするサ引サ引よさおはんなさましよちや。九助どもねつからごさらね。まめで居さつしやましたがアヽこれもおれど一しよに来たども。ちと脇寄しておつつけ来るつもりだむし。やれやれぬぐい「と扇遣ひながら座敷へあがりて。孕み女の腹帯せし様に。前より抱へしたんなとりていど古代めぎたる革の紙袋に緒の付だる柱にかげ。青色に三がい松の紋つぎたるあわせぬげば。 下たには白がぢの島織なるひとへめぐ物着たり湯行ながら振りかへりてヤアかさま人遣つてくれさせよ。あの九助あい方と坊さまもよアイアイ。はるこや。鳥渡先いてこちや。そしてのや。徳どさいて肴来たが聞でこいやアノ甚内どの客まだ立ねげだもや。 そして安の一坊かしヲイ「といふ所へ戸口にで安の都どの箱おごしてくれどし「といふにぞハヱそんだら広も都坊さいけちや。コラ向かの。さん子や。座敷さいて。もていけやア引「といらゑて行を見るに。髪赤ぐ肩のほどり迄そぼちかゞりたる。猩々とやらんいふもの思ひやらるゝばかりなるを。手巾にで包み。袖なぎ繻袢に前だれ引まどいたる後に紅染の色しらみたる脛かぐるゝ迄かゞりたり。 箱の上に積み重ねし木枕おろし提げ行なから夜な夜な替「と唄ふ此里に面白ぎうだならめど。小めろにはしさいらしぐなん思ふに。かた手にで鼻つまみ門口の柱にぬぐひて出ぬ。ゆあみし終りて浴衣のまゝにで床前に座りぬ。たばご盆茶などもぢ出又高つきに餅と豆煎りたるに。串柿盛りそへ持ていでどれも今に来ますとし。安の都坊久左衛門の客さ成だていますさかへ。広の都坊こいていましたそしヲ引あれもゑ芸だで。此ちよう賑がだがノシイヱねつからお客しよごさらねノシ。せん度さ馬喰しよで。がゑ賑だけどもがし「なとなにくれと咄に。かの餅の箱抱で。 あないもなぐつと入りてモチおやがつさま此じよお久しぐござりますノシござつたでもあろけどもおれ見つけもふさねがのイヤイヤ久しぐこねで。ヤヽいつ見でも替らねで。まだわげでモチムウだつてな。おら又此およいろもつたものし「などゞされるモチおがへなされましよちや「とさし出すにイヤイヤそげだものに一生用ねモチムウナ。親がつさまでもの酒ばりそなひいぎさしては。むま味みんな別々だんだぞし。親かつさまでものアハ。かたほ付ぎばりさして。 ほんにかだかだで恨みて居るものあろ「と咽の見へる程笑へばほゞ笑みて能く又さまさまの事覚で居るばぶだで「といふは訳ある事ならん。此里に三十余年もすぐせし。なるべけれは。くまくま迄知ぬ事なぎなるべしモチナイ後がだ「と立て行。日のいどふ照り登りたるに。さりとては又あめがしたなど口ずしたらんと思ふばかりに木履音ひゞがし紫の浅黄うらなるに。白地の帯しりへ高がに結び。袖口よりくれないのつまはづれ隠るゝ斗りに成たる。かだぢには似合ず見へで。白からぬ殊更に紅こちたき程にぬり。唇なとむくつけき迄あかし。髪は油多くつけたらめと。つやなぐ。島田わげのしりへ倒まなる程高ぎに。かんさしばれんのやうにさしたり。 口さかなきやうなれと二三本もむくありぬへしと見へぬ。汗巾口にくわへて。格子より鳥渡のそき見て入りぬ。かゝまやゑおてんきたのし「と笑して手をつき会釈とも見へぬ斗こゝみぬこれはよくはやく。九助もおつつけくるそんたか。おせひてクラ吉野姉まもおせ。甚内どの客また立ねか「といふに胸つふれたらめとさあらぬ躰にてとこの客しよたクラ町しよあのしよアマツ今日てこふたすか指おりてクラ三日居さしやるよへな戻るてこんたけノウマツ「とてかたわらに置しきせることわりもいわすとりてのむあの子なんていふ人たとしらねかクラン引ニヱ「とかたむく鼻少し動きぬ最一度呼にやつてくれ「といふにそ。つと立ていきぬやゝありて挑子盃持ち出てクラあねまこねても先ひとつあからましよちや「いとはるがにへたゝりたるに手をのべてつく。 むねすまねばにや三つつけのみて飲ねけともちとあい頼む「と投けやれはけしき斗のみて汗巾にてぬくひてさしぬ小めろしを手のひたしもの持出ていまきますとし「と言つゝ。立ちしまゝにかた手にて突き出すつゝきてさかな五種六しな出れとわつらわしけれはことことしるさす。また年若く頭の青きかふすまにつきあたりて。内にいりぬるにクラもちと左り「といふに坐り広ノ一親かつさま是はよくお出なされました是は是はこたいきてこさりますヒロこれは姉まお早ふ。ヒロイヤ鳥渡七兵衛とさ箱取にやつてもらつてくさせちや「と腰よりきせるぬきてのむ。折節年たけたるおうなの。脊そひへたる白地の浴衣に紅ひの細帯まへに結ひて。手をかさし格子うち脇目に見て通るを。 手をならしコレコレ姉ま。ちよとよつてくれ「といへは振りむきもせて行を。猶手をならしつゝ格子迄走り出てまねけと。いらへもせてきせうせいしは皆偽と小声に唄い行ぬ。いかなる事にやム引いつもいつも気随たやつた「とつふやきなから座に帰りて。又のむも心はうわのそらにやあらん只辻のかたのみ詠めかち也胸は二上り三下り「抔うたふに女は見てわらへと気もつかぬにや。ほめなとして居るあわずにいんては此胸か「とこわつくるにイヤ又人遣つてくれ「と待侘ぬるけわいそ。理になん九助やれやれいきたいいきたい「と手巾にてぬくひつゝ入り来るを見れば。 脊高く骨あらわれていかめしきおのこの白き繻袢かたはた抜ていとこわ高かにイヤイヤ是はふないきれだけたちやこのけにちようにあつい事ねた「といふを出迎て笠取前の格子に結ひなからクラなして又こけにおせばしな「といわれてにくけなるほゝ笑みてよくわねはやくきていたのクラはやらねおばてものいつつもこうたんたそし「と笑ひぬヤ引ヤ引親方待くたひれさしたてあろノンシヤ引ヤ引まだおせ事であつた。さつきから待かねた「といふは心のうちの見ゆるものならは。此男の事にはあらさるへし。 裾引まくりてどさと座りてヤレヤレいそいたイヤマツ大谷さいたことし。やれやれあの親父とふも六敷ばりしかけるで。おれ程のものもぎよつとしてあつた。あの谷地アノシイヤイヤ。まつまつよさてもはれちや。のちにきくにイヤしかし先きゝどされちや。いゝ分ンニヤンニヤこゝて咄すなちや。あしたてもよろつときくに「といふにすこしわきまへさとりたるにや。うなつき。 まだらにふすへたるひら骨の青く大きなる扇遣ひ居るクラこの汗が「とてかたわらよりぬくうヤレヤレ水沢から大日坂ひとりにした。田もとよ人きも消して立ち見するけ。イヤマツよさ「とて立しかアイタヽけぢた「といふは鴨居に頭うちしなり皆笑ふあまり高もこまつた。九紋竜かへは丁とにやい角力た「ど又笑ふヒロおくら姉まアハへそなめるよてあろ「と三絃のばちて膝うちて笑ふ。是迄幾度か小めろははしれと今こんといゝし斗に。 いつも替らぬいらへにて永き日もやうやう西にかたむきぬかのおのこあかり来てヤレヤレゑきひたゑきひた「と座りてヤ引吉野とさいつたばやクライ引またさつきからこねものこねものム引又こはやくこいばゑこと。とこいたやらおれいてつれてこかよイヤイヤおつつけこちやね。若又ひよつと物いひても出るとよくな「といふそ齢のつもりたるさすかにおとなしくなん。よのつねの人待さへ心あわたゝ敷ものなるにまいて此方はいふもさらなり。きせる指の先きに廻しまさくりなからヒロ誠に又もつてたこんたシノ「といふところへ吉ノこわちやこわちや「となりわめきて格子前にて憚る所もなく小便してよろほひなから内に入りぬヤレこわこわはる子や水ひとつくれで。 サ引サア引めんとふた「とひさくにてひと息にのみつくしア引やうやういきたいきた。かゝまや。またおみしかけねか「といふを見るに丸く肥て色白けれと飲みつゝけしにや。少し青みて脊はひくからねと。いとふふとりたれはたかからす見へ黄なる島織の共裏なるに黒き繻子の帯。腰の下に落ちかゝる斗に引まとゐ髪は詰てゆひたるに。あちこちこほちかゝりてつらつきまみなととりたていへは。よき所もなけれといとなまめかしくあいきようありア引よたよた「と笑ひよろほうさま力なしなてつゝ座敷に出るをクラヲヤコノマツよた事や「と笑へはナニへらほふ。すきけんた「と地踏してつと脇によりそひ。せなしたたかにうちたゝき。おとろおとろ敷笑て家のひゝく斗にどさと居り。膝によりそひ臥せは。心のうちは笑ならめと。 殊更にむつかりたる顔してあんまりよてけつかつたツヤ。こけたおばおらいらぬ「とつきはなせはヲ引しよ。おらもこけたやきもち親父いけすかね「と股つめるノシほんに九助親方やおれもはやく立てろとおもてのたてもたてもほんにこわくて死ぬよたでゲツフそたともおれよたもほんにみむなしん実たぞ。ノウ九助親方「とて又よりそひ臥せはかんさし抜て髪のそひちたるをなてそへつゝなしてまたこのけにぶちこれたはや「おきあかりてウ引アンノシ。おれマツ三度だか逃たごとよ。そすると見付られて引ちり込まれてたゝかれたりふまれたりしてほんになりうちいたくてならね「と眼なとすりていふにそ。あわれなりと思けるにや。 和らきてサ引よあひれちやさめるム引おらひとりやたちやノウ「と又膝にかゝれはヲ引おれもさつきからはろと思ていた「と立に。すかり行にそ帯はとけ落ぬ。ム引めんとふた「とて着物も抜すつれは下には紅ひの褌まとひたり是もや「と座敷中になけたり年経ぬるならん肉色にあれと股のほとりなとかさの跡四見へて。その余の細かなる此頃治し疥癬の名残りにや赤黒し廿に三も余ぬらんと見ゆるに前の黒からぬそいふかしくなん湯のうち見へされはもらしぬ。 いとふしわかれたる声にてひとつ心なと唄ひまた笑ふ声なとゝほくきこへぬ戸口より使小女甚内のお客今たつさかへ吉野姉ま鳥渡きてくれとしクラもんじなくよて寐て居たさかへ。今に起してやりませよと使女ほんにかしクラナニ股うそまけろはや。くう台寺てあるまいし「とてあたり見廻して口おふいたるいかなる事にやサ引坊さま。何かおもせ事一「といふにかな違ひなる京鹿子てにをはわからぬ程鼻にかけて三絃の手つけこまかにせわしたはこ盆うちなとし誉る。こめろ気とりて。大鞁小つゝみ持出るに。引寄ておとろおとろ敷。打にさわかし。小つゝみは。唄ひなから間とふに。うでば。拍子よし。格子より。女の声して九紋竜ヨウヨウ「といふを見てコレコレ姉ま。 おあい一頼む「といへは頓にもいらて。やうやうとしてあちこち詠めなとして入りぬ。かの脊長けのおのこにもおさおさおとるましと思ふ脊にて。いとふつふこへたるに。なとふときかこく粧ひ。ひたい眉墨なと。所せき迄。けわひたる。上臈めきて。似合す見ゆれと。笑ふけわひ。こほれて。あいきよう。つきたりソラ「とて盃投けやればしゞみ貝のよたノウ「とて手にも取らて。かたへにありし。茶椀とりて。飲むにそ。その人は。しらねと。名にし逢ふ。九紋竜なるものならめ。と思ひぬ二人もあかり来て是は姉まよくヲヤヲヤ。たものはしめたナニ。おらちつちやものきらいた「と笑ひて親かつさん上げます「と突出すにコレハ又余りはやいてなか暮れな。 うちにつふれろや「といへはわけものはやいたしな「と言なから大鞁引寄せうつに手しなありて。拍子なと。妙におかしいさとかさしと謡ひ初めてまたかけろなとはやす迄。唄の数多けれは。しるすにいとまあらす。のしろ柳町と唄ふに皆いとふ酔たるさまにて笑ひのゝしればまたたそかれなれと。格子に人の多くつとひ覗くにそ。座敷は暮れぬ。例の鷺の音山寺の鐘とりませてさわかしきに唄はやしはやみぬ市たち帰りのあき人ならん。戸口より商人かゝまや一日市しよから届てくれてあつられて来た。これ「とて投け行ばはる子や。たゝま。きめりとさ。いていた。もつていて見て貰つてこひやム引アノ座敷のお客しよてもよかろそしヲ引ホンニそたや。あがりも付けていけちやアイ「とて大きなる燭台さけ行にいと軽けなる銅にはあらさるへしこれよんて見てくさせとしヲ引「と起上りてイヤイヤおれアハ町しよの状よむ事へだた「とて投けいたせは。 燭引よせ。ちとそりて。遠くはなして見るヲ引あした若しよ。富振舞て。くるて。こんたね。かさまさ。そいへちや。そして坊さまも頼んて。置て。くれてきた若しよばりたらば。勝右ヱ門さまこさるめちやクラ又みの屋の兄さま梅野つれてこちやのなちよたおなこたはねクラきれいて随分ゑともがしあまりやせたヲ引きたなよた。そしてうなばり女子たてよたしてけんけんとて。おらねつからすかね。 おら男たつてもあけたおはかわねクラそして又あの髭たお医者さまおとり子連てこちやヲ引又あれはなせろはや。 おとりよくおとれとも今年あんまり尻ふとくなつた「抔とりどり咄すにいまひとりは膝に添ふしたりおらもおとり見たへとも帰らねばならねでんたクラなしてしな。久しくとてござていてあしたもあそんていがせはばゑそし座敷ふさけてこゝのめいやくたクライ引アノちようつさイヤイヤ湯治しよ来ていさした旦那しよたげたてばクラヱ引ひとりたかの。 ねつから音も出さねて静た事や野暮た人たのこゝさ来ていてマツ「といふはわかかたち言の葉迄かきつゝり居たらんとはゆめしらぬなるへしとかたはらいたくなん辻にはかの居つゝけし客ならんいろの里々と唄ふに送る女にやあやしけなる声して弥生の節句は取分て「抔される町人ヤア金しゆふ貴公のでつちにおれか羽織も持せてくれたかおうさぬかるものかへコラあちば爰のゑいたなヲ引しめつたしつこいなホヽちかいなの真なかた。 イヤこのくらいに貴様は村はつれ迄送つてくれる気かへ。コリヤありかたいなといふ聞ゆるは今帰るなるへし。いつの間にや二人はいりぬ床いそきの色気とりたるならん。夜具なと持ちはこひ妻戸ふすまさすにそ座敷は見へす。脊高けは奥の間に入しならん声の聞へす。こちらの座敷の咄けわひおかしけれとかきつゝけんもうるさければ。もらしぬ人の声もやうやう静りあんまのほのかに聞ゆるは夜もいと更けぬらん納戸のかたに何かさゝやくに耳たつれは。初めきかされは何の事かもわからねと亭主とふも込つたもんたせめて盆前迄と頼むたとも。そふそふにならねと役人しよもいふし。 ソレアノ今さしかゝつてなちよになろばしな弐歩や三歩の事たれば。早速さいがくもなろとも先よく役人しよ頼めばゑそし亭主イヤイヤ脇々の借銭なと違て。脇々のまださしつかへもなるでし。去年からの事たすかへ。そのけた事もいわれなし。ヤ引あの親方さはなして見れちや。あした。 ならね時えたしム引此ちよ小なかの作助来てはなすけ。あの親方も近年なわるくなつて。先おやかたのかつて置た田地もなから半分なくしたてし。そして又近け頃新田さかゝつてたまされて損したてし。そしてあけにあすんてばりいるすかへ。おかたも身上持もよくねけたしこれももつともたともがしおかつさまてもし
明る日妻戸引ひらき夢おとろきぬきのふつゝりし反古の枕のかたへに有を見れば。かた言にて筆とまり墨のいとふ付きたる。かきなから眠しならめ。短か夜の猶寐たらぬ心地すれば。湯あみなとして暫し椽に出て四方詠めやれはきのふ俄の暗さ雨もよふすにやありけんそらのけしきおほつかなきまてくもり渡り金の峰の木立もおほろに見へてふもとのかたにやかんこ鳥のほのかに聞ゆるそ。きのふ夕暮の物さわかしきにことかわりて。実に山里の風景さすかに打しめり。静におかしき朝ほらけなりけり。しつの男しつの女のおのおの桶肩にかけ。水荷ひはこふに。老僧の墨染のやれほころひたる着て。鉢かた手にさゝけて得もわからぬ声して門ことにたゝすまひぬれは通らせといふもあり又米銭なと与ふれは。口のうちにどきよふしつつよろほひ行そ。 みたのらいこふもいちしるきや。此里の女の帯のかたはしたもけさになしてんと思ふもさる世の中のためしそかし。表座敷の客も寐覚ぬるにや物語りなとのけわひ聞ゆるにきのふの紫いつの間に色替りけん島織の古ひたるに一重帯して出て来て大なる茶椀に水汲ていきぬやゝありて二人の女のおのおのわか屋に帰るならん門出去りぬるに客は二人なから伴ひて湯あみしつゝさゝやき語るはきのふ大谷の名残ならんよくもわからねとめやす願ひしよ抔いふきこゆれは新田の事にや湯屋の戸おし明けてヤ引コレこちにならねばゑイヤイヤ晩まてふらねふつたとてもがへたこち「と言なから座敷に出るに小めろ朝飯の膳もち運ふ例の塩湯豆腐ならめ小皿に味噌盛りたる見へぬ二人の女も髪ゆひ上粧ひなとして入来るに別れを惜む酒宴にや又いとさわかしけれと奥の方にて襖隔てたれは見へす山の湯は殊に眼によしとあるしの女房語り侍れは試んと思ひいりぬ西湯と違て人もなく静なれはほしき儘にゆあみせしに草臥ぬればゆけたに桶枕して暫し休みぬるに湯屋の後の方に女の声して物語するけわひすればあやしと思ひてのし板のふし抜やるを幸に窺へば二階屋におふな二人髪ゆひなからおのかどち語るなりけり十余り四斗の女の。 なとあつふれたるか肌脱くしげの引出し少しぬきたるに鏡おしかけたり今壱人は余程ねひまさりて古ひたる前たれ肩にかけ是も鏡に向ひ居る前の欄に手巾糠袋なとかけて障子のやれたるをあちらこちら反古にてはりつきかたへにある行灯もみな破れ損したるに得もいわれぬ物のかたちなとかきすさみたり小女あねまの髪また。いつもいつもきれいたちや。 おれよに又下手たもんてものねたちやイヽおれなもねつからよくもねともがし。薄ひさかへなちよもなる。きさまの髪あつくて大すしたさかへ。油のきゝめなヱノ。 そして余りてつぺさ上るけたちや小女ほんになちよにしても丁とゑころのとさいわれねもの町のしよう皆又上手にいうてノシム引アレアノ皆ひとしてばりいうてねし。おかさまだのそれ商売して居るものまた。ゑことよ小女ヱ引おらもほんにそけた人てもいてもらいでたちやイヽ又あわすたことばり。貴さまてものいうて年ぢように髪の代ばりなんほかし入ろかし。それほとはやりてもせばゑとも。ヤソレソトきのな彦ゑんどさごさたお客さ。 貴さま出た小女ア引よさそたお客たと見ていた。どだけて小女イヽよかろばしおらあげた気のつまたお客あろば。旦那しよてもねよたけし。又おきよう人しよてもねよたけし四人連てこさたけとも只おれ独り酌取によんて。さわきもしなて只々一日かなだのほとゝきすたのとて。おら気つまつてつまつて。そしてあぐびしたのねぶつたのとて。おれどこばり。笑ものして日暮前戻らしたそし。ヲ引それ歌でたそいつてら五日町の地主のおやがたと一しよごさたしよてあろちやおれ又ゑ年頃のお客たさかへよかろと思て居たればノウ小女ほんにおれよにまわりのよくなものあるめちやしやつとゑお客とつたと思ふとそま人にとられるし。 それさ久敷煩つたやら。それて着ものもなくしたし。そして梅代姉まの帯ばりいつつもいつつもかりてありくも笑止し。内さいごども思へとも又。柴切たり粟かつたりするも思て見れはやたし。とふしたらよがろかしほんにそしてきのまおしけかさま来たていわねけかしヲ引来たけそ小女ム引おらあのちよ年の八丈の代も五月節句前迄とて三月来た時。そいて置たしノウ。なんてはらわれろば「と泪くみていふにヱ引そけたちちやい気持てあの勤なろはな。それ又盆迄とて遣れはゑんたそあの人達のな。盆と節季の勘定たんたもの。そしてそのけに様々の事思わねて。 気つよく持て居るたてごとな。おらたとても。まなんどかし浜さ帰ろと思つたかし。そたども見こと今そなに人もかりしよめられねて居るそ。只々根性さへもよつく嗜んて居ると人でもの一度ゑんたてこと。あのほんにおりゑなとでものはやたてはやたて。あれ程金取たものねとも根性にあわすたどこあるさかへ。今アマツどさかしかくれて居るかしほんに皆色てばりそくねるさかへとさらへぶたねと人てものゑんたてことノウ小女ア引そたことのし。そけた事ねともまわりのよくなに込つたたし。おれもお観音さまさも月参りせとも。ねつからごりしよもねしノ。あんまりぐわんがけするもの大勢たさかへそれてかふたか。 ほんにお観音さまももちとまわりのよくなるよに守つてくさせばゑ「といふそかたはらいたくも又哀なるわさなりやヤ引ヤ引梅代ども又いつ迄ねるての。もふ昼たアマツ小女ムウけさかた戻つたおとするけもや「といふに夢覚めけるならん。すみの方なれは見へねと。ねむけなる声して梅代おら寐たちや寐たちやもふ昼たとア引たつくさ昼たそしけさおきて見たとも余りなつきいたさかへ二ばん寐したれは今迄寐たもやよべなどさいたけてきのな昼まから旦那さまごさて五ゑんどさいたことし。それから。旦那さまも。日暮に。戻らした。さかへ。石橋迄。送りもふして。戻たれば。亀太郎どから。来てくれて。おこし。たたものし。やたくて。ならねけとも。いかざらは又。あたのこふたのとて。又くぢかけられろと。思ていたことし。それから五右ヱ門ど。よびて。めくりする。 わき酌取ていたぞ。それも又ゑともかし。あれも。旦那しよだげた。眼のふて荒くましいよだ人まけさして。着ものも脇指二本も町田川の勘八とらねばならねて。さへりだで。其人いわしやるに。うけ合たゝて。内さかへしてくれ。それてねば。おれさむら。かぶしま。うさかへとて。頼ましやとも。脇から亀太郎どかひ取て。ねぎふんて。それから。和泉どなとも来て。中さはてさへれとも。きかねんたものし。大混乱になつて。おらおかなくておかなくて。癪起て。来て。それから。小便しいくふりして。逃て帰た。あれから跡て。なちよいなつたけやら。ほにほにおら。あけた。やために。 あつた事ム引又。いつつもいつつもあい手替れとぬしてらと。亀太郎どのよた人てものアハねんたちやノウ小女ソレノシほんに一度て一度おつきた事仕出す事し。こまつた人だ。 「と取り取り咄すに浴衣に紅ひの細帯引まわしなからかたへより出るは廿斗ならんつきまみなとろうたけに寐覚すりたるには目のほとり赤みたるうす紅桜のひらけ初し匂ひに前髪のそほれかゝりしさすかになまめき美しくあいきようあるそ思へは海士の子のもしをの中にそたちたらんに実に浜の砂子にも玉あるためしもやと見るに只言葉のだみいなかひたるそいと惜まるゝ也人の陰より立なから脊少しくゝめて鏡見なから髪なてそへ手巾にてはちまきしてム引マツおれよべな着ものもしまわねて寐たや「とて引たてゝかたへの渡し横たへたる竿にかけるを見れは裏の二所三所縫継きしたるなりけり小女姉まほんにきのな文次どいき逢たけ。文出来ていたさかへ取りにござれでけそしヱヽ「といらへつゝ階子おり出ぬ女どもの咄しのおかしきにはたへの寒きをも打わすれ裸にて時移る迄かひまみつるわか心なから物好みのわさやと独りゑみして元の屋にたち帰れはきのふ格子に結ひたる笠も入り替りて菅のいと浅き笠四結ひ置たり誠や昨日消息せし若きものならん数多なみ居たる女共もおのおのかたわらに居流たり人の数多くてけわひさわかしきにひとりひとりまねひたてんも筆とゝかねばかゝす。座敷は障子襖引はたいたれはよく見へぬ床の間のかけ物かたさかりに書たるを見れば田川とは稲ふく風に温泉の匂ほひとかきて下もに東為坊と銘したり前には瓦のくわひんに藤の花姿もなく慾かましくさしたり次の間には此里の芸者ならめまだ若きか難波の芦「なとゝ唄ひ居る辻にて若キモノイヤ脇てはびんといふ音もしねヱノ髭医さればしつけたけしきたかしかし爰の遊ひはこんだ時けつく能て「といふを見れば黄なる島織の裾からけばつちとやらんいふもの着て革のぞふりの石もくたげつべふ打ならして大小のはかし抜出しさいたるに黒き羽織打かけ深き竹の皮の笠いたゝきたりいま壱人は浅き菅笠に小紋の長き羽織着て上田織裾長かに着なし銀作りのはかしさいたりつゝきて来るはこれも島織のかたはたぬき芥いりし袋につけしやうなる紋所せく染たる紅ひの繻袢に丹後織の野袴着黒き袖頭巾眼はかり見ゆるはかりなるにいとふ曇れる空に日傘持たるいわれなしや一人はまたいといわけなきか男とも女とも得わからぬ髪にて萌黄にところところ紅ひに絞たる着て黒き羽織踵隠るゝ迄長きをうしろの方より見れば角なるうちに磯の字の紋付たりいとふそりておとがひ長き盲者来ぬれと煩しけれは毎々しるさす初より坐にありしうちに年長たるおのこ出迎笑ひて年長イヤコレハおそひお出お道行は手間取りましたと見へます何さおはん長もすさましい「と「笠抜入れは法師あたまなり。 昨日聞し髭おもひあわせぬヒケおれももそと早くこよふと思たけれと病用て三日町さへよはれそれから又十日町へも見廻わねばならなくていて外は皆うちやた所か。よふよふ今時分来た「とにくけなるこわ作りなり。皆ゆあみなとするけわひにてかのけんけんのおうな黒きに白ふけしきはかりあちこち模様付たる袷着かへて座のかみの方に白かねのきせるふきつゝ。われはに居なみたり。 かのふしぬけより見し女の此座に来たれかしと思ふに折たかへず髪なと結ひ上けいといかめしく粧ひ来ぬるを見れはさきの寐覚めのしとけなき姿にかわりて肩なとこじたくかたちのしほりなきぞ。さきのおうなにはなきやと。うたかふ迄見落ちにけりされとなを並居たる女のならびかたきけわひなり皆いといと酔乱れて。何やらん。得もわかぬ言葉。いゝて。手なと。出し争ひ。盃さしおさへるなと。 のゝしりさわくヲ引西王母来たツヤ「といふ名のいかめしきにいかなるものにやと見れは脊そひへて白く肥へまゆのしりへさかりなる実にもろこしの絵の女に似たるところあるにそ名付しならめ藤色に黒きひろふとの帯したり取たてはよき所なけれといとねひたるに又わらわべのぬけぬそにくからぬけわひなり王母イヤかゝまや鳥渡こゝさ来てくたせ「と傍へに引まわして何やらん小声につふやくは我か住し間の壁ひとへあなたなれは。きかまほしくて。耳かたむくれは。よくもわからねと。 所々きこゆ王母とこのお客てら。おれしらねて。来たそし。あの人たれは。おれ出られね。とこの人たと。またいつて。おこして。くればゑけことノウそたても。あちから。いてやらしたもの。そして。今来たどこ。見付さしたてあろツヤ「おうなは何かさゝやけと。小声なれはわからす。少し声聞へて王母ぜんての仕うち。さつはり。つまらねんたものし。先度も。おれ大山さいた跡て。町から女子連て。ござたけと。人いふそし。そして今日も。おとり子連れてこさたし。そさおれとふして出られろばしわねはら中の事おれアハなんともいわれねとも。一向こねばゑともがし。 来て居て帰たらは又やかましかろし。そして。子共たよふそたぜイ引アノかゝまてものアヱ。なんほになるとおもてし。あのいつ迄子共てあろはし。そして「跡何をいふにやわからすなんほおらよたもんたても。そなもじなく。ちよしものに。なつて。いたかろはしな。よく先きいてくたせちや「此所いとなかけれと声殊にひくきにきこへすヲ引ひた事や。なる程義理てものたてるとこ。たてだもゑとも。又わか儘たの気随たのとて「跡聞へす王母おれわか儘。だれも。しらね。もの。あろばしな。生れけらねばなをらね事しそんならしかた。ねてんたとも。そこさ又どふかりくつ付たらば。鳥渡お酌して。見はからつて。戻れは。 美しくてゑツヤ王母ア引そんたらのし「と耳につき。さゝやげは。又きこゑずヲ引「と立行。かの年長けの男よひて何か小声にさゝやけばおのこも又座敷に出てかたへに引まわしてやゝ久しくさゝやきて。あちこちいくらか。ありきてさゝやくに。かのおうなも。かろふじて。座敷に出ぬ。杯とりやり。けわひなと。多けれと。ことさわかしきに。まきれて。もらしぬ。つと立て。傍へ居よりて。酔みたれたる躰にて。笑ひのゝしりされるに。かのいわけなき。女風と。座を離れて。次の椽柱に。より添て。山のかた詠め居たりヤ引おいそこゝさ来て酌とつてくれといへと。いらへもせてあれあの山に人居たてとつからまつ上つたんてあろ
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坪田 敦緒 / tsubota@ep.sci.hokudai.ac.jp