2003 年度 地球惑星科学専攻 修士論文要旨集
2004 年 2 月 4 日

氏名 富岡 雅仁
論文題目 付加体砕屑岩中に見られるサンドシル−ダイク複合体の特異な形態と 形成メカニズム
(Unique morphology of multiple sand sill-dyke body within the clastic rocks of an accretionary complex, and its formation mechanism)
論文要旨 ここで報告する付加体中のサンドシル−ダイク複合体(MSSD: Multiple Sand Sill-Dyke body)は,密集し複雑な形態を示す砂質貫入脈群からなる 複合体である.その中には,一般的な砂脈の形成メカニズムでは説明できない特異な 構造が認められる.付加体内での流体の挙動は,デコルマ帯の力学的性質や混在相の 形成などに深く関与していると考えられているが,付加体浅部での未固結堆積物と間 隙水の挙動に関する情報は乏しい.本研究では,北海道西南部のジュラ紀付加体渡島 帯(君波ほか,1986)の海溝充填堆積物中に見られるMSSDの形態および構造を検討 し,その形成メカニズムを考察した.

 松前町地域には,陸源性砕屑岩類と海洋性岩石(チャート・石灰岩類・緑色岩類) および少量のメランジュからなる渡島帯大鴨津川コンプレックス(川村ほか,2000) が露出する.松前町折戸浜海岸西南部に露出する砕屑岩には,下位から厚層塊状砂岩 ・MSSD・厚層塊状砂岩・葉理シルト岩砂岩互層(薄い塊状砂岩層が少なくとも3枚挟 在)・厚層塊状砂岩という整然相層序が認められる.葉理シルト岩砂岩互層には,荷 重痕・コンボリューションなどの未固結時変形構造がしばしば認められる.MSSDは, 下部の二枚の厚層塊状砂岩層に挟まれた部分に限定されている(Fig.1).これらの 砕屑岩は,層理面に高角斜交する正断層で転位しているが破断相・混在相を示す部分 はない.スランプ変形も認められない. メソスコピックな構造としてMSSD中には膨縮,湾曲,分岐,連結を複雑かつ不規則に 繰り返す膨縮ダクトワーク状砂脈群(DDSV : Disordered Ductwork Sand Veinlets) とシル(〜ダイク)および放射分岐砂脈が認められ,これらはそれぞれをオーバー ラップすることはないが,混在している.これらの砂脈には,1)サンドシルの上面 (たまに下面)および側方においてDDSVと連結して複合した産状,2)板状砂脈が host sedimentsを乱すことなく急激に膨張している“reservoir dyke”が認められ る.薄片観察において風船状(bulbous)な末端部や砂脈粒子のhost sedimentsとの 混合が認められる.Host sedimentsは層理面・ラミナ等の堆積構造をほぼ原形のまま 残しており,個々の砂脈はその構造をほとんど乱すことなく貫入していが,DDSV薄片 においてはhost sedimentsにおける未固結時変形が認められることがある. 形成メカニズムを以下のように考察した.

1) 海溝充填タービダイトの急速な沈み込みにより正規圧密よりも未封圧であり,最 大圧縮方向は初生堆積構造に準平行であった.
2) host sedimentsの応力状態を反映しサンドシルが形成した.
3) DDSVはサンドシル内部の乱流による壁面侵食を発端として周囲に集中的に貫入し た. “reservoir dyke”は砂脈が放射状に分岐し,これらの分岐脈同士が連結・脈の厚化 を起こし,さらなる流動砂の供給により成長した.
4)一連のforcefulな貫入と砂脈定置における脱水で,砂脈末端部における粒子の混 合,host sedimentsの未固結時変形が引き起こされた.  MSSDは付加体の構造変形をうけていないことから付加体浅部での現象であり,その 成因は付加体形成過程における初期はぎ取り(offscraping)に関連した現象である 可能性が指摘される.