昭和四十二年第六十回記念祭歌 芳香漂う 稲田雅久君 作歌 名田正信君 作曲 (1,6 繰り返しなし) 1. 芳香漂うやわらかの 残んの春の夕間暮 朧にかかる夕月に 浮かぶ辛夷の花吹雪 ああ鳴り止みて聞えこぬ 色壮麗の鐘の音は 六十路の夏に鳴らざるや いま黄昏の自治の庭 2. 細き羽音も秘そやかの 蜉蝣闇をかすめゆき 奔る流れの音もなく まつよい草の星あかり ああ死に絶えて泳ぎこぬ 銀鱗おどる紅鮭は 六十路の秋に溯らずや いま宵闇の自治の川 3. 風に棚引く軽やかの 雲蒼空の朝ぼらけ よぎる秋津の影紅く 残んの月は薄れゆく ああ舞い去りて渡りこぬ 長の旅寝の雁は 六十路の冬に還らずや いま有明の自治の原 4. 軒に麗なる銀の 垂氷に映る灯に 星影凍みる松が枝を 散るひとひらの雪の花 ああ枯れ果てて萠しこぬ 野も狭に埋もる花の実は 六十路の春に咲かざるや いま夜も更けぬ自治の舎 5. 露に滴りぬ生々の 楡林にねむる夢醒めて 牧場におどる朝もやの さなかに歌う夜明の鳥 見よ紅の山の端に 湧き立つ空の群雲を つらぬきわたる光かな いま六十歳の夜は明けぬ 6. 寮友の顔に篝火の 炎もわらう記念祭 歌をうたわば玉響の 憂さも舞い飛ぶ火の粉なり いざ高らかに祭歌 はやる太鼓の轟きは 夜空を深く駆け抜けて 北斗に和する生命なり