大正十一年桜星会歌
心の故郷
1.
心の故郷よ石狩の
夢杳かなる草の野邊
花は煙りて影仄に
生命の光榮と喜悦を
恍惚につゝむ憧憬の
薔薇色の露慕はしや
2.
夏の園生の逍遥や
野花の息吹に風の香に
燦めく光りさゆらぎつ
樺の緑のほの薫る
木梢に歌ふ若鳥の
朗にひゞく曙の聲
3.
楡の林の星の灯よ
あはれ高鳴る靈と智の
諧調豊けき魂の琴
黄金のさやき銀のいろ
郷愁あはき秋の夜の
沈黙にふるふ星の灯よ
4.
白銀の宵闇深く
氷柱に映ゆる紅の
神秘たゞよふ火明りよ
熱き情想の律動きて
明と暗との幻影に
聖き黙禱の魂ゆるる