明治四十三年寮歌
帝都を北に
谷村愛之助君 作歌
柳沢秀雄君 作曲
(1,4,6 了あり)

1.
帝都(ていと)を北(きた)に三百里(さんびゃくり)
津軽(つがる)の海(うみ)を越(こ)え来(く)れば
紅塵(こうじん)絶(た)えて空(そら)潔(きよ)く
蕭々(せうせう)として水(みず)寒(さむ)し
大陸(たいりく)の精(せい)鍾(あつ)まりて
我(わが)北州(ほくしう)の島(しま)と凝(こ)る

2.
鯨群(げいぐん)吼(ほ)ゆる荒潮(あらしほ)に
落(お)つる北斗(ほくと)の影(かげ)冴(さ)えて
斧鉞(ふゑつ)入(い)らざるや森林(しんりん)や
人跡(じんせき)絶(た)えし大野原(おおのはら)
原始(げんし)の儘(まま)の俤(おもかげ)を
我(わが)北州(ほくしう)の島(しま)に見(み)る

3.
鈴蘭(すずらん)薫(かほ)る春(はる)の野辺(のべ)
楡(にれ)の下蔭(しもかげ)草(くさ)繁(しげ)る
霜葉(そうよう)燃(も)ゆる蔦葛(つたかづら)
吹雪(ふぶき)は叫(さけ)ぶ冬(ふゆ)の夜半(よは)
四季(しき)の変遷(へんせん)興(きょう)添(そ)えて
眺(なが)めは飽(あ)かぬ姿(すがた)かな

4.
朝霧(あさぎり)深(ふか)き野(の)の面(おも)に
嘶(いなな)く駒(こま)の跡(あと)追(お)へば
露(つゆ)の白玉(しらたま)散(ち)り乱(みだ)る
甘藍(かんらん)の畑(はた)たそがれて
プラウの土(つち)を払(はら)ふ時(とき)
農牧(のうぼく)の幸(さち)謳(うた)ふかな

5.
見(み)よ文明(ぶんめい)は北進(ほくしん)す
古嚢(このう)は盛(も)らず新酒(にひざけ)を
新(しん)文明(ぶんめい)の建設(けんせつ)は
濁(にご)れる都(みやこ)にあらずして
渺(びょう)たる大河(たいが)の片辺(かたほとり)
地(ち)は広漠(こうばく)の沖積層(ちゅうせきそう)

6.
此(この)聖(せい)都(と)を永久(とこしへ)に
浮華(ふか)軽佻(けいてう)の国(くに)とせず
真摯(しんし)素樸(そぼく)の郷(きやう)となし
我等(われら)が使命(しめい)成(な)し遂(と)げん
真理(しんり)の秘奥(ひおう)探(さぐ)る可(べ)く
道義(どうぎ)の光(ひかり)照(てら)す可(べ)く