昭和二十一年寮歌
時潮の波の
渋谷富業君 作歌
寺井幸夫君 作曲
(序,1,結 繰り返しなし)

序(じょ).
厳(きび)しかる道(みち)に仕(つか)へて
限(かぎり)ある玉緒(たまのを)惜(を)しむ
げにさあれ深(ふか)き因縁(えにし)の
魂(たま)ゆする生命(いのち)の饗宴(うたげ)
汲(く)まざらめや残(のこん)の月(つき)に
旅(たび)の朝(あさ)早(はや)くは明(あ)けぬ

1.
時潮(じてう)の波(なみ)の寄(よ)する間(ま)を
久遠(くをん)の岸(きし)に佇(たたず)みて
不壊(ふゑ)の真珠(またま)を漁(いさ)りする
嗚呼(ああ)三星霜(みつとせ)の光栄(くわうえい)よ
緑(みどり)の星(ほし)を夢(ゆめ)む時(とき)
疎梢(こずゑ)を払(はら)ふ天籟(てんらい)は
秘誦(ひしょう)の啓示(さとし)語(かた)るなり

2.
孤窓(こさう)に流(なが)る星屑(ほしくづ)に
無辺(むへん)の調律(しらべ)訪(おさな)へば
測(はか)りも知(し)らに底(そこ)つひゆ
言(こと)の葉(は)洩(も)れて伏(ふ)し祈(いの)る
奇(あや)しく貴(たか)き生命(いのち)をば
友情(なさけ)を讃(たた)ふ歌声(うたごゑ)の
溶(と)け行(ゆ)く方(かた)に馳(は)するかな

3.
朽葉(くちば)ゆらぎて湧(わ)き出(い)づる
楡(にれ)の林(はやし)の真清水(ましみづ)に
己(おのれ)を責(せ)めて泣(な)く友(とも)の
孤杖(こぢゃう)を運(はこ)ぶ逍遙(さすらひ)や
遠(とほ)き誓(ちか)ひの日(ひ)を偲(しの)び
虚(むな)しき春(はる)に嘯(うそぶ)けば
淡(あわ)れし影(かげ)の寂寥(さびしら)よ

4.
宿命(さだめ)の道(みち)を行(ゆ)く身(み)にも
友(とも)を誇(ほこ)らん花莚(はなむしろ)
銀燭(ぎんしょく)頬涙(ほほ)を照(て)らす宵(よひ)
沈黙(しじま)に語(かた)る歓喜(よろこび)よ
心(こころ)を交(かは)し思(おも)ひ酌(く)み
団欒(まどひ)にふるふ共鳴(ともなり)は
胸(むね)の小琴(をごと)を掻(か)き鳴(な)らす

5.
北斗(ほくと)頭上(づじやう)に影(かげ)冴(さ)えて
神秘(くしび)の息(いき)に吹(ふ)かれつつ
肩(かた)組(く)み歌(うた)ふ旅(たび)の子(こ)を
染(そ)むる伝統(つたへ)の篝火(かがりび)よ
暮(く)るるに早(はや)き青春(はる)の日(ひ)の
追懐(おもひ)を込(こ)むる此(こ)の盃(つき)を
汲(く)まん今宵(こよひ)の記念祭(きねんさい)

結(けつ).
近(ちか)きかな楡陵(をか)を去(さ)る日(ひ)は
還(かへ)り来(こ)ぬ足跡(あと)愛(かな)しみて
ひたぶると打笑(うちゑ)む時(とき)ぞ
求(もと)めつつ得(う)べからざりし
秀邃(うるは)しき真理(まこと)の道(みち)は
はろかなり我等(われら)が前途(ゆくて)
進(すす)まざらめや