金比羅山火口




突然視界が開けた。目の前には、金比羅山火口が洞爺湖と対峙している。もくもくと入 道雲のような白い噴煙が青空に向かって湧き上がっているが、まだ距離があるせいか音 はそれほど大きくない。
すぐにも火口に近づきたい気持ちを抑えながら、一旦我々は火口から離れ金比羅山を回 り込むむように歩き始めた。道路には、今回の噴火で飛ばされた噴石や、地殻変動の為 落下してきた岩などが転がっている。
道から外れ藪を漕いで金比羅山の尾根を超えると次第に下草が減ってきた。藪をかき分 ける手間がなくなっても、今度は厚く堆積した火山灰で足をとられ歩きにくい。前日ま での雨で水を吸った火山灰は靴底にへばり付きなかなか厄介だ。
まばらな木立をずんずん進む。硫黄臭が鼻をついてくる。あたりの景色は徐々に色を失 いはじめる。そんな中、残った枝から芽吹いた木の葉の薄緑は、太陽に照らされひとき わ鮮やかに目に映る。
いよいよ火口だ。裸の木がぽつん、ぽつんと立っている。火口に水がたまり小さな池が 点在する。月面歩行を思わせる非日常的な空間が広がっていた。
金比羅山の2つの火口は対称的な活動をしている。K-B火口(愛称:珠ちゃん)は、小さ な噴出孔から轟音とともに水蒸気を出している。時折その音がぱたと止まると、次の瞬 間土砂をぱっと吹きあげ再び勢いよく水蒸気を噴出するという活動を繰り返している。 しかし、このような活動は地下のマグマが冷えるにつれて収まって行くであろう。 
山の上から温泉街を見下ろすと火口との距離の近さに驚かされる。火口に近い建物は灰 を被り黒ずんでいる。現在火口となっている場所には活動前には住宅はなかったと聴い たが、この光景を目にして洞爺湖温泉街が直撃を受けず、今も昔と変わらない姿をとど めているのは奇跡的とすら思われた。
K-A火口の縁に立った。風向きによっては底の湯沼から湧きあがる湯気に巻かれて辺り 一面真っ白になる。火口の縁はもろく一歩間違えれば底まで転落する。湯沼の温度は、 80℃以上あるところもあり、縁にはいつくばって底を覗き込むと底の湯が沸きあがって いるのが見える。地獄を思わせる光景。

有珠山について
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(写真 / 高橋 こう子, 文 / 中神 雄一)