研究のモチベーション
私の研究のモチベーションは地球の恒常性を理解することにある。
恒常性とはその名の通り、何かを一定に保とうとする働きである。
地球には恒常性があることが知られている。
例えば、地表温度の恒常性について考えてみる。
地球はちいさな小石から始まったとされている。
それらが今の重さ、サイズまで集まることで現在の地球の姿となった。
惑星が形成される際に材料物質が集まって大きくなっていくことを集積という。
この集積によって発生する熱はとても大きい。
地球はその熱を部分的に蓄え、現在もその熱を蓄えている。
それを裏付けるようにして熱によって外核は溶け、ダイナモによる双極子磁場が存在している。
地球はその熱を誕生から46億年間、内部から逃がし続けてきた。
しかし、内部の熱が排出されていくことで、冷えていっているにもかかわらず、過去数十億年間では表層温度はそれほど変わることなく、少なくとも生物が生存し続ける範囲内で、ほぼ一定に保たれてきた。
一番合理的に冷えようとした結果、一定になっているのである。
隣の惑星、地球よりも太陽から1.5倍遠い火星はかつて磁場があったとされている。
しかし、今はない。
冷え切ってしまったからだ。
金星は厚い大気を有するが、同じく磁場はない。
地球よりも太陽に近く、大気による温室効果があるにもかかわらず内部は冷え切ったようだ。
つまり地球だけ冷え切ることなく、異常に冷えるのが遅いのである。
なぜ地球はゆっくりと冷め、表層で一定の温度を保っているのだろうか?
つまり、なぜ地球は地表温度の恒常性があるのだろうか?
恒常性といえば生物にも恒常性があるが、恒常性を持つ地球は生物に分類されないのだろうか?
いや、そもそも、生命を生命と呼ぶための要素はなんだろうか?
地球を生命といえないのは核酸を持たず、生殖しないからなのだろうか...?
火星に移住しようと試みている我々は、地球の生殖器官とは言えないのか...?
こうした疑問に答えるために、私は地球の水の起源に迫る。
地球は青かった、というのはガガーリンのセリフだが、確かに、火星や金星と違い、液体の水を有していることは地球の大きな特徴である。
水がなければ、地表が熱くなって冷めるスピードも上がっただろう。
つまり、比熱の低い水によって熱エネルギーの発散が大幅に抑えられることで、地球は恒常性を手に入れたと仮定できそうだ。
一方で恒常性という言葉、人間の時間スケールで見た恒常性と呼んでいる状態は、ゆっくりゆっくりと冷えている一部分を見ているだけにすぎないのかもしれない。
だとすると、もしかしたら我々は、地球がゆっくりと冷える途中段階で、地球を最も効率良く冷やすために生み出されただけのエネルギーの集合体なのかもしれない。
つまり、進化論とは地球がエネルギー的に安定な状態を達成しようとする法則の一部なのかもしれない...。
水とそれが地球にもたらす恒常性は生命の起源と進化を考える上で、切っても切り離せない。
水がどのように地球にやってきて、どのように蓄えられているのかを知ること。
私はこれを突き詰めてみたい。
それを知るためには、地球がどのようにして誕生し、どのように水を獲得するに至ったのか、そのプロセスを理解することが必要である。
しかし、人類が地球から得られる情報には限界がある。
そこで太陽系の他の惑星、はたまた、太陽系以外の惑星やその前段階である原始惑星系円盤に着目する。
原始惑星系円盤とは惑星がまさに作られている最中にあるような系を指していて、現在ALMAという望遠鏡によって急速に観測データカタログが更新されている。
ALMAによる観測によって円盤内でどういった挙動を示すか直接的に理解できるかもしれない。
また、地球以外の太陽系の惑星は地球と同じ時期に形成されたとされているため、地球と同じ時期にできた惑星達を理解することで、地球の水の起源に関する情報が得られるかもしれない。
こうした背景を踏まえて私は太陽系最内惑星である「水星」に着目した。
水の起源を知りたいから``水"星という安直な理由ではない。
水星の理解は太陽系の円盤時の挙動の理解に間接的につながり、ひいては水の起源に迫ることができるかもしれないからだ。
現在水星の形成過程は謎に包まれている。
水星の核はなぜ大きいのか、天体表面はなぜ揮発性物質に富んでいるのか。
そして、地球以外の地球型惑星でなぜ水星だけが内部が冷え切らず唯一双極子磁場を有するのか。
この謎を解き明かすことが地球の起源、はたまた人類の起源につながっていくのかもしれない。
2020/02/28