Hiroya Akiba's web site

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学習日記 (学習内容の備忘録)


ロッシュ半径について


今回はロッシュ密度について、惑星形成の物理/共立出版/2015/井田茂・中本泰史 を読んで思ったことがあったので記してみる。

ロッシュ半径というと土星の環がパッと思いつく。 土星の環は見ていて飽きない。 完璧なプロポーションの天体だと見るたびに思わされる。 あの環はなぜあの幅で存在しているのだろうか。

そこで2体に対するロッシュ半径を求めた。まず、中心星 (center) の質量を$M_c$、小天体の質量を$M$、半径を$R$、2体間の距離をaとし、小天体に働く潮汐力を$F_{tide}$とすると、小天体が破壊されるための条件は

\[ F_{tide} (a+R) \gt \frac{GM}{R^2} \]

である。 一方、潮汐力自体は

\[ F_{tide} (a+R) = \frac{3GM_{c}R}{a^3} \]

であるから、破壊条件は \begin{align} 1 \lt 3 \left(\frac{M_c}{M} \right) \left( \frac{R}{a} \right) ^3 \label{tide} \end{align} となる。 今、それぞれの天体の密度を$\rho_{c}$、$\rho$とすると、$M=\frac{4\pi}{3}\rho R^3$、$M_c =\frac{4\pi}{3}\rho_c R_c^3$であるので、式\ref{tibe}は \begin{align} a \lt a_{R} \simeq \left( \frac{3\rho_c}{\rho} \right) ^{\frac{1}{3}} R_c \end{align} となる。この時の$a_R$がロッシュ半径ということになる 土星においては$\rho_c=0.7 g/cm^3$で、氷天体は$\rho=1 g/cm^3$になるため、$a_R \sim 2.2R_c$となり、その半径はAリングの最外郭にほぼ一致する。 僕が初めて見た惑星は火星であるが、大学生になり張りぼての望遠鏡で見た土星はそれまでに見た惑星のどれよりも美しかった。 実際に観測することの楽しさを味わった瞬間だったかもしれない。 土星の環が観測と一致するようにこうした簡単な数式で表わされることはとても面白いと思う。



ロッシュ密度と原始惑星系円盤


潮汐力による破壊条件から、原始惑星系円盤でのダストの成長条件を定められる。 (1)式から$M=\frac{4\pi}{3}\rho R^3$であるので、変形して \begin{align} \rho \lt \rho_R \simeq \frac{9}{4\pi} \left( \frac{M_c}{a^3} \right) \end{align} と表せる。中心天体とダストがばらまかれている原始惑星系円盤の系を考えると、$\rho_R$を越えなければそのダストや小天体は破壊されてしまう、ということを示している。 これを水星軌道半径で考えてみる。 水星の近日点は$a=5.0 \cdot 10^{10} m$、惑星形成時の太陽の質量を$M_c=2.0 \cdot 10^{30} kg$とすると、$\rho_R \simeq 1.1 \cdot 10^{-5} g/cm^3$となる。 これが大きい値なのかどうかはわからないが、この値を越えれば自己重力による破壊は免れることになる。 計算し終わって気づいたが、背景知識が少なすぎて見積もりが意味をなしてない。 もっと勉強しようと思った。
2020/03/01(Sun)


toomreのQ値


天下り的に円盤の空間密度$\rho$を導入すると、 \begin{align} \rho \sim \frac{\Sigma}{c_s/\Omega_K} \end{align} のように書ける。$\Sigma$は円盤の面密度、$c_s$は円盤ガスの音速で、$h \sim c_s/\Omega_K$は円盤の厚みの半分を表す。 ただし、$\Omega_K= \sqrt{ \frac{GM_c}{a^3}}$はケプラー角速度を表している。 これを式(3)に代入すると、円盤内での破壊条件は \begin{align} \frac{\Sigma}{c_s/\Omega_K} &\gtrsim& \frac{9}{4\pi}\frac{M_c}{a^3} \nonumber \\ 1 &\gtrsim& \frac{9}{4\pi} \frac{M_c}{a^3} \frac{c_s}{\Sigma \Omega_K} \end{align} で、 \begin{align} \Omega_K^2 = \frac{GM_c}{a^3} \nonumber \\ \frac{\Omega_K}{G}=\frac{M_c}{a^3 \Omega_c} \end{align} を代入すると、 \begin{align} 1 \gtrsim \frac{c_s \Omega_K}{G\Sigma} \end{align} と表せる。 ただし$\frac{9}{4\pi}$を無視している。 分散関係から導かれる正確な値は、 \begin{align} 1 \gt Q = \frac{c_s \Omega_K}{\pi G \Sigma} \end{align} であり、このQの値はtoomreのQ値と呼ばれ、ダストや小天体の潮汐力による安定性の指標として利用されている。 $\Sigma$が大きい、すなわちディスクの自己重力($\sim \pi G \Sigma$)が大きい時や、温度が低い、すなわち$c_s$が小さいときには円盤は不安定になりやすいことを示している。 簡単な関係式から導くこともできる。ディスクの自己重力が潮汐力に打ち勝つ、すなわち \begin{align} \pi G \Sigma \gt \Omega^2 h \end{align} となるとき、潮汐力による自己重力不安定性から脱出する。 ただし$h$は円盤のスケールハイトである。 水星付近では温度が高く、密度も大きいため、1AU付近よりも自己重力的に安定だといえる、ということか。 しかし大雑把な近似を使って求めていったのでこの予測の仕方はよくない気がする。 次回はもう少し、綿密に式変形をしよう。



原始惑星系円盤における物質進化/2014/永原裕子の個人的メモ


https://www.jstage.jst.go.jp/article/gkk/43/1/43_140113/_pdfを参照した。 読んだ内容の備忘録として記す。
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そもそも原始惑星系円盤における物理モデルと隕石や彗星塵から得られる物質情報間には、大きな情報のギャップが主に4つ存在している。

  1. ほとんどの物理モデルに化学情報が含まれていない。
  2. 得られる宇宙物質は、円盤での物理的特徴や状態の情報を失っている。
  3. 物質科学の本質的な問題として、温度や圧力が場の条件変化すべてを記録しているわけではない。
  4. 物質の物理条件・時間を解析したとしても、円盤内の空間情報と結びつかない。
ここでは著者の研究の成果として、 を取り上げる。
まず、近年の物質科学の進歩として、大きく3つ重要な成果が得られている。
  1. 隕石およびその構成要素の形成年代の更新による示唆→①CAIとコンドリュールの形成が同時にスタート、②分化隕石がコンドライトよりも前にできた
  2. 同位体の均質性→円盤内側領域における完全ガス化とそれに次ぐ凝縮の過程の示唆
  3. 固体物質の原始惑星系円盤内の大規模な移動→81P/Wild2のサンプルデータからCAI形成後400万年後にコンドリュールの形成があった証拠を発見、内縁からカイパーベルト付近への物質輸送を示唆。
これらの知見をもとに筆者の実験、モデリングを軽くまとめる。 蒸発・凝縮に関する古典物理、Herz-Knudsen式 \begin{align} j = \frac{\alpha(p-p_{eq})}{\sqrt{2mkT}} \end{align} $j$:蒸発速度 [$mol/m^2 \cdot t$]
$\alpha$:凝縮係数
$p$:分圧
$p_{eq}$:平衡蒸気圧
$m$:気体分子の質量 $k$:ボルツマン定数 $T$:温度
で表せて、$p, T$を固定した実験によって$j$を観測し、$\alpha$を逆算する。 惑星原材料として主要なMgケイ酸塩、金属鉄、コランダムの反応速度および素過程の理解のため、蒸発・凝縮実験を行った。
実験や解析の困難な点は以下
  1. 凝縮と蒸発のフラックス差であるべきだが、それらの素過程は分解できないため、温度や分圧にたいして柔軟性がない。→温度や分圧が変化する円盤内で外挿できるか?
  2. $m$を単純化できない。例えばMgSiO4の凝縮速度はSiO, Mg, Oの凝縮速度で読み替え、そのうちフラックスの小さいほうが反応速度を支配していると仮定する。
  3. 実験が難しい。高温で固体を加熱して複数の高温ガスを混合させ、均質なガスを作ることはほぼ不可能。
しかし、実験からはMgケイ酸塩に関しては水素存在下での蒸発速度 $\gt$ 真空中での蒸発速度となることの他にもたくさんのことが分かった。
Feに関してはTachibana et al.(2011)から低温ほど蒸発速度が遅くなり、過飽和に対しては非線形な依存性が見られた。一方で凝縮に対しては過飽和比10-30で凝縮係数1を示した。
コランダムに関してはTakigawa(2011)からMgケイ酸塩と同様に異方性があることを示した。
実験的は未だ継続中で時間を要する。
凝縮・蒸発にともなう元素・同位体分別の原理は、界面移動を伴う気相-固相元素分配と固体やガス中の元素・同位体拡散に支配されている。 元素分配を伴わない場合は定常解となる。 移流拡散方程式の定常解は \begin{align} \phi(x) = \phi_0 + \frac{exp\left( Pe \cdot x/L \right) -1}{exp(Pe)-1} (\phi_L-\phi_0) \end{align} で表わせる。ただし、$\phi(0)=\phi_0$、$\phi(L)=\phi_L$で、
$D$:拡散係数
$c$:移流速度
$Pe$:ペクレ数
であり、 \[ Pe=\frac{cL}{D} \] で、これは蒸発に伴う界面移動と拡散の比である。
$Pe \lt 0.1$:拡散が速い。
$0.1 \lt Pe \lt 100$:粒子内部に同位体累対構造が作られる。
$100 \lt Pe$:界面移動が速い。
フォルステライト粒子ではMg, Oには同位体分別の効果が残りうるが、Siでは起こらない。 また残渣のMg同位体から、Mgの蒸発はMgOの結合を切るという素過程であることが明らかになった。
メルトや固溶体は拡散方程式は定常解とならず、元素分配アリ+同位体分別アリの条件と、元素分配アリ+同位体分別ナシの条件があることが分かった。→揮発性と量、固相と気相の元素拡散速度の競合で決定
例 : olibin の蒸発残渣についてFo-rich の条件と Fe同位体分別条件を別々に求められる。
月がマグマオーシャンを経たというモデルに対して、Kが欠乏し同位体分別が存在しないことは一見すると不調和的だが、この実験結果から極端に揮発性の元素が関係する拡散律速蒸発の場合は、
  1. 化学分別(Kの蒸発による欠乏)
  2. 同位体分別

は別々の反応が支配的になるため、マグマオーシャンの存在、Kの欠乏、そしてKの同位体分別がないことは説明がつく。



地球のコンドライトモデル

全地球の元素組成推定値

table1 : 地球化学/監修:松尾禎士(1989)付表3を引用
地球化学/監修:松尾禎士 を参考に地球のコンドライトモデルの歴史を書き留めておく。
Goldschmidt (1922)は、
  • 核:Fe-Ni合金
  • 下部マントル:硫化物・酸化物
  • 上部マントル:ケイ酸塩(エクロジャイト)
からなる地球モデルを提案。彼によって地球の元素組成を求める課題が提案された。
Mason(1966)では
  1. 地殻を含むマントル組成はHコンドライト組成と一致
  2. 核はHコンドライト中のFeS:5.3wt%とFe-Ni alloy: 27.1wt%を合わせた32.4wt%で成立

という仮定を与え、全地球の元素組成を計算。 核に大量のSを分配させてもマントルS量と整合性がある。
Ringwood (1966)では材料物質をC1コンドライトと取っている。 核は集積過程での加熱によって還元された金属Feと金属Siが合金を作り構成。 このモデルの良い点は、Anders and Ebihara (1982)での太陽系の主要元素Mg:Si:Fe=1:0.93:0.84の比に近い、1:0.98:0.91を取る点である。 一方で、C1コンドライトの還元で生じるH2OやCO2は莫大な (固体地球の質量の~70%)元素をどう始末するかが問題点としてあり、現在は重要視されていない。 マントル物質はパイロライト(かんらん岩:玄武岩=3:1)という仮想的岩石を仮定していて、今も広く受け入れられている。
Hamaguchi et al (1957) ではコンドライト中のウランなどを分析し、コンドライトモデルでの放射改変による発熱と地球表面の平均熱流量を比較することで、コンドライトが材料物質であったことを示唆したが、 のちにGast (1960)が地球はコンドライトよりもアルカリ金属元素が相対的に欠乏していることが指摘した。
コンドライトを集めて惑星を作ることは一般的に不可能とされており、現在もその認識は広く受け入れられている。


海洋の形成と原始大気

大気中の化学成分の濃度と平均滞留時間

Atomospheric_composition
table2 : 地球化学/監修:松尾禎士(1989)付表4を引用


UP THAS VG図

UP_THAS_VG図
Figure : UP THAS VG

化学ポテンシャルの計算方法を調べていたところ、 熱力学で利用される関数の全微分式の暗記方法についてまとめてあったので メモしておく。 引用元は http://www.chem.konan-u.ac.jp/applphys/web_material/chemical_potential.pdf
いちいちルジャンドル変換しなくてもいいので楽。

  1. 図において、VとP, SとTはそれぞれ対をつくり、それぞれ示強変数、示量変数である。 系の大きさを2倍にしたとき、2倍になるものが示強変数。
  2. 求めたい熱力学関数を選ぶ。例えばU。
  3. その関数から見て、右側・上側にあるものは符号を+に、左側・下側にあるものは符号を-にすると 前微分の際の偏微係数 (変数でないほう) となる。Uならば+T, -P。
  4. 対の関係を組み合わせると、求めたい全微分が求まる。U=TdS-PdV。