Hiroya Akiba's web site

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修論について

- Eコンドライト様材料物質からなる水星の核マントル間の化学平衡計算

Fig1
Figure 1 : 計算結果
核が非常に大きく、密度の高い惑星である水星。 水星の核に関して、構造やダイナミクス、そして化学組成に関する先行研究が多数存在している。 Helfrich et al. (2019) は、水星核における多量のSi分配モデルを提案した先行研究のうちの一つである。 その研究結果は、水星がSiを多量に含有した材料物質を由来としたことを意味している。 一方で、実験や観測、そして宇宙化学的な経験則に基づいて示唆される水星の材料物質は、 専らEコンドライト様であることが、古くから知られている。 そこで、私の修論では、Helfrich et al. (2019) のアプローチに則って、 Eコンドライト様物質が水星の材料となった場合に、その計算結果が、実験結果や水星の観測と整合的になるかを明らかにした。
<修論> akiba_M.pdf
本研究の計算結果では、Helfrich et al. (2019) と同様、多量のSiが核に分配されることが示された。 しかしながら、それらの結果は質量のバランスを無視したものとなっている。 核へのSiの分配は、マントル中のSiO2が分解することで、供給されると考えられている。 SiO2の分解はSiの他にもOの生成を伴う。 すると、マントルにOが余る。 酸化力の強いOは即座に核マントル境界にて核のFeと結びつく。 すると、マントルではFeOが生成される。すなわち
\begin{align} 2 {\rm Fe} + {\rm SiO_2} &\leftrightarrow 2 {\rm FeO} + {\rm Si} \end{align}
Fig2
Figure 2 : 質量バランス式を含めた計算結果; 横軸はマントル中のFeO量、縦軸は核中のSi量を示す。
の反応式が重要となる。 もし、多量のSiが核に分配されるならば、多量のFeOがマントル中に生成され、 FeOに欠乏した表面の観測結果と整合的ではなくなるはずだ。 そこで、私は質量のバランスを考慮した、新しい計算結果を示した。 その結果、「マントルへの少量のFeOの生成を許容する」ことで、水星がEコンドライト様材料物質を由来とした可能性を強調した。 では、生じた「マントル中の少量のFeO」はどのように考えるか。 実は、観測から水星表面にはCが多量に存在することが示されている。 そこで本研究では、「分化過程時、表層にて、FeOがCによって還元された。その結果、現在の観測では、表層のFeOは少なく、余ったCが多く見えている。」 というシチュエーションを提案することで、観測事実との整合性も示した。
結果からは、Eコンドライト様の材料物質から、原始水星が作られ、 地球が出来た際と同じようなジャイアントインパクトを経ることで、核の大きな水星が形成された、 というシナリオを想定できる。しかし、なぜ水星だけが、このような大部分のマントルの剥ぎ取りを経たのか、 そして、水星表面の中程度揮発物質の欠乏と、想定されるシナリオとの非整合をどのように説明するのか、 という疑問は残ったままだ。 もし、研究を続けていくなら、水星の材料物質が太陽系形成期を経て変化するモデルを考えてみたい。 水星形成の初期段階では、金属鉄に富んだ始原的物質が材料物質となり、 後期になると、Eコンドライト様の始原的物資が核の周囲を包むことで、 観測的な制約をすべて説明できるのではないだろうか。 それら2種類の始原的物質は、グランドタックモデルによって示される材料物質の混合を経ることで、 説明がつくかもしれない。
水星は、まだまだ未知な部分が多く、興味深い。研究室生活の3年を捧げるのに申し分のない惑星だったと感じた。