DM2 ゼミ 要旨 2006


04/19 (水) 13:30- 15:30   大石 尊久

タイトル:

トランジット法による系外惑星観測

要旨:

太陽系外の惑星を探す,それは地球外生命を探すための第一歩である.プラネ ット・ハンティングは 20 世紀になり,望遠鏡が大型化してきた頃から行われている.様 々な人が太陽系外惑星を発見を発表したが尽く否定されてきた.ところが 1995 年 10 月 ,ペガスス座の 51 番星に惑星が回っていることが発表され

その惑星が確実にある と検証された.ここから現在に至るまで多くの系外惑星が発見されている.

さて,系外惑星を探すには主にドップラー偏移法という方法が用いられている .これは惑星の引力によって中心星(恒星)がふらつく様子をドップラー効果を用いて検出 する方法である.この方法によって現在発見されている系外惑星の殆どが見つけられてい る.ドップラー法以外に多く観測が行われているのがトランジット法である.トランジッ ト法は中心星の前を惑星が横切った際に生じる光度変化から惑星を見つける方法である.

本研究ではトランジット法を用いて系外惑星の観測をしている.名寄市立木原 天文台と共同で行っているこの観測は,現在テスト観測として既に発見されている星の観 測を行い,観測方法の確立を目指している.今回の発表では主に去年 8 月に行った観測 の結果について紹介する予定である.

発表資料:

http://www.ep.sci.hokudai.ac.jp/~dm2semi/2006/0419/pub/


04/27 (木) 13:30- 15:30   広瀬 佑介

タイトル:

Eコンドライト的な組成を仮定した水星の熱史

要旨:

Mariner10 の水星探査により、水星には固有磁場が存在することが 明かになった。これは、水星には液体核が存在し、ここでダイナモ が駆動されていることを強く示唆する。そこで、液体核の存在を示 唆する熱史モデル(Stevenson et al. 1983)が提唱されたが、この モデルでは、水星のマントルと核の組成は地球のそれに近いとされ ていた。原始太陽系内縁部の条件下ではケイ酸塩は還元され、その ため太陽系の最も内側にある水星は還元的な物質からなるという可 能性が指摘されている(Wasson 1988)。また、水星の反射スペクトル は水星表面に有色鉱物が乏しいことを示しており、このことも水星 が還元的な物質からなる可能性を指示している。 本研究では、水星が原始太陽系星雲内で形成されたもっとも還元的 なエンスタタイトコンドライトから形成されたと仮定し、水星の熱 史を計算した。 計算の結果、現在外核に熱対流を生じさせる程の熱流量はなく、組 成対流させるのに必要な内核成長も起こらないという結果を得た。 しかし、水星に存在する固有磁場を説明するためには外核が対流す る必要がある。マントルの粘性率を先に仮定した値の1/3700以下にす ると、内核成長の起こる解が得られる。Eコンドライト的組成の水星 を考える場合には、マントルの粘性率を下げる何らかの機構が必要 である。

発表資料:

http://www.ep.sci.hokudai.ac.jp/~dm2semi/2006/0427/mercury.html


05/25 (木) 13:30- 15:30   石井 智

タイトル:

氷衛星の内部構造

要旨:

現在、太陽系の木星型惑星の衛星のほとんどが多量の氷を含んでいることが知 られていて、これは過去の密度計測とスペクトル法での観測による成果である。これらは 氷衛星とグループ化され、さまざまな大きさや外見のものがある。しかしそれらの内部構 造については情報が乏しく、まだ議論の余地が残っている。

今回の発表では、自己圧縮が水と高圧相氷の密度に与える影響を説明した過去 の研究を紹介する。

この研究では衛星の構成物質を単純に氷と普通コンドライトとしている。純粋 にH2Oのみからなる衛星、質量比が普通コンドライトが40% H2Oが60% の衛星、またこれ 以外の質量比の衛星も扱う。H2Oの実験データをもとに、体積密度、密度-温度プロファイ ル、慣性能率、中心圧力、岩石-氷の境界を衛星の半径と太陽からの距離そして岩石の質 量比の関数として与える。これによって得られるモデルは、木星と土星の巨大氷衛星につ いて、現在の質量-半径データと良く一致できる。また自己重力下の氷球の質量、半径も 得られる。これによってもし探査機による質量、半径、慣性能率係数のデータと比較でき れば、木星と土星の氷衛星の内部構造と岩石:氷の質量比に関して重要な情報が得られる だろう。

発表資料:

http://www.ep.sci.hokudai.ac.jp/~dm2semi/2006/0525/icy_satellites.html


06/01(木) 13:30- 15:30   佐古 孝介

タイトル:

地球大気の酸化還元状態の進化

要旨:

地球大気組成の進化、特に酸化還元度の変化を調べる。

全地球史を通しての大気組成の進化の全体像は全く分かっていない。 現時点では、地質学証拠によるO2分圧、および恒星進化と液体の 水としての海の安定性を考慮したCO2分圧の推定の2つがもっともらしい 理解である。大気組成(地球表層環境)の変化を理解することは生命の起源と進化を知る 上でも重要となる。

本研究では、地球表層における元素の存在度が多く、大気中の酸化還元状態を 決める要因になる水の振る舞いを、地球表層における物質循環モデルを用いて地球史にわ たって、特に20億年前位までを再現できるように計算する。その際、マントルから脱ガス してくるH/H2O比(Kuramoto and Matsui, 1996)を重視する。それはマグ マの組成・温度から求められる。

発表資料:

http://www.ep.sci.hokudai.ac.jp/~dm2semi/2006/0601/redox_state.pdf


06/08(木) 13:30- 15:30   佐藤 創我

タイトル:

極域電離圏の研究

要旨:

地球の上層大気中に存在する電気的に中性な分子や原子は、太陽極端紫外線(E UV)などの照射によって電離され電離圏をつくり出している。極域にはカスプと呼ばれる 地球磁場の境界があり、その領域では太陽から運ばれてくるプラズマの一部が直接地球上 の電離圏まで降下してくるなど、低緯度とは異なった現象が起きる。

北緯78°2′東経16°0′に位置するSvalbard諸島LongyearbyenにあるEISCATレ ーダーはちょうどカスプの通り道にある。今回の発表ではまず、昨年の8月から12月に かけて実際に滞在していたときの様子や、Svalbardにある観測所の紹介をし、どのような 所なのかを見ていただきます。そしてEISCATレーダーの観測原理を説明し、そこからどの ような物理量が導出できるのかを説明します。

最後に、実際に得られたデータで描かれた表をお見せします。さらに、同時刻 に得られた人工衛星CHAMPのデータもお見せできればうれしいです。

発表資料:

http://www.ep.sci.hokudai.ac.jp/~dm2semi/2006/0608/soga08Jun06.pdf


06/15(木) 13:30- 15:30   花房 瑞樹

タイトル:

台風の温帯低気圧への変遷 〜2004年台風23号の例〜

要旨:

毎年日本は台風が接近・上陸し多くの被害を受けている。日本に接近する台風 には、中緯度地域の傾圧帯の影響を受けて温帯低気圧化するものがある。温帯低気圧化に よって、一度弱まった低気圧が再び発達することがあるため、台風の温帯低気圧化は防災 の面から非常に注意しなければならない。

台風の温帯低気圧化に伴う発達要因として、対流圏上層のトラフに伴う渦度移 流とジェットストリークの影響が挙げられる。そこで今回の発表では、「渦位」と対流圏 上層の「ジェットストリーク」に注目する。渦位は、大気が断熱的に運動するときに保存 される物理量で、渦度と大気安定度の積で表わされる。成層圏では安定度が非常に大きい ため渦位の値は大きく、対流圏に流入すると安定度が小さくなる分渦度が強まり低気圧の 発達に寄与する。ジェットストリークは、対流圏上層の発散による非地衡風成分により強 化され、対流圏下層や中層では、ジェットストリークの入口の赤道側と、出口の極側で上 昇流が起きやすい。

本発表では、2004年10月下旬に日本に上陸した台風23号について紹介する。こ の台風は中緯度地域の傾圧帯の影響を受けて、日本付近で温帯低気圧に変遷した。また、 この台風によって西日本を中心に大雨がもたらされた。上層の渦位やジェットストリーク との位置関係から、降水にこれらの要因が影響していたと考えられるが、定量的な議論に ついては、今後の課題である。

発表資料:

http://www.ep.sci.hokudai.ac.jp/~dm2semi/2006/0615/dm2.ppt


06/22(木) 13:30- 15:30   福井 隆

タイトル:

原始惑星系円盤における水の挙動 - Ciesla and Cuzzi (2006) のレビュー

要旨:

始源的な隕石であるコンドライトは, 惑星形成以前の太陽系環境の 記録を保持する物質である. コンドライト構成物質の分析結果から, 原始太陽系の酸素同位体組成や酸化還元状態 (C/O 比) は時間的/ 空間的に不均質であったことが知られている. このような原始太陽 系の組成不均質を説明し得るものとして, 最近ガス-ダスト間の力 学的動径分別・ダストの蒸発による組成変動過程が話者を含む北大 グループ及び Ciesla らのグループから独立に提案された.

そこで今回のセミナーでは, まずこの新しい組成変動過程について 説明する. 続いて, ライバル研究者である Ciesla & Cuzzi (2006) のモデルやシミュレーション結果を紹介する. 時間が許せば, 北大 グループとの共通点・相違点について議論を行い, Fukui et al. (2006?) 執筆に向けて話者のスタンスを確認したい.

発表資料:

http://www.ep.sci.hokudai.ac.jp/~dm2semi/2006/0622/fukui0606.pdf


06/29(木) 13:30- 15:30   小松 研吾

タイトル:

Radial diffusion を用いた数値シミュレーション

要旨:

放射線帯とは地球磁場に捕らわれた高エネルギーの荷電粒子が高度 約 1000 km から 50000 km 以上にわたって集まっている領域である。 放射線帯は Van Allen らによって 1958 年に発見され、その後の衛 星などによる多くの観測から、特に電子放射線帯に関しては、磁気 嵐などの磁気圏環境の変化に伴いそのフラックスが空間的にも時間 的にも激しく変動することが知られるようになった。放射線帯粒子 の起源や生成・消失のメカニズムについてこれまでに多くの研究に より様々な提案がなされているが、定量的な側面についての理解が 未だ不十分である。

放射線帯の基本的な構造は radial diffusion モデルによって再現 することができる。放射線帯粒子は主に外側境界から内側方向への 拡散によって供給され、放射線帯粒子フラックスの増加・減少は外 側境界での粒子フラックスと拡散係数に大きく支配されている。

本発表ではまず、放射線帯の構造や変動に関する概要と放射線帯粒 子の基本的な物理について述べる。また、radial diffusion モデル を用いた数値シミュレーションの結果から外側境界や拡散係数の変 化が放射線帯内部の粒子フラックスに与える影響について考察する。

発表資料:

http://www.ep.sci.hokudai.ac.jp/~dm2semi/2006/0629/pub/index.html


07/06(木) 13:00- 15:00   光田 千紘

タイトル:

古火星大気中に形成される二酸化炭素氷雲とその温室効果

要旨:

火星古気候は液体の H2O が地表面に安定に存在できるほど温暖であっ た可能性が地形学的証拠から示唆されており, その温暖化メカニズ ムの一つとして CO2 氷雲の散乱温室効果が注目されている. 従来の 研究でも理想的な雲が大気中に存在すれば, 地表面温度は H2O 融解 温度付近まで上昇する事が示されている. しかし雲の存在条件につ いてはほとんど明らかにされていない.

従来の研究では, 雲の放射特性を支配する雲粒径, 雲氷量を見積も るためには, 力学過程を考慮したモデルを用いる必要があるとされ てきた. しかし, 最近の数値計算では, 凝結物質が大気主成分であ る場合には, 凝結層で鉛直混合が弱まることが示唆されている (小 高ら, 2006). そこで本研究では雲は対流起源ではなく放射起源で形 成されると仮定し, 大気相変化を考慮した一次元放射対流平衡モデ ルより大気, 雲の鉛直構造解析を行う予定である.

本発表ではまず惑星大気構造を本質的に決める放射モデルについて, その精度に着目して紹介する. 次に現在構築中の放射対流凝結平衡 モデルの構想と, その初期結果を示す.

発表資料:

http://www.ep.sci.hokudai.ac.jp/~dm2semi/2006/0706/pub/index.html


07/13 (木) 13:00- 15:00   森川 靖大

タイトル:

gt4f90io: gtool4 規約に基づく Fortran90 netCDF I/O ライブラリ

要旨:

昨今, 計算機や観測機器の性能向上に伴い, 私たちが扱うデータの 量や種類は急速に増大している. しかしそれに伴い, データが何者 であるのか, どのように扱えば良いのか, といったことを知る手間 もまた同じように増大し, その結果, 実際に扱うことの出来るデー タの量はかなり限られてしまっている. これは数値モデルを用いた 数値実験 (計算, 解析, 可視化等) においても同様である. 例えば 大気大循環モデルによる 3 次元データと, 放射対流モデルの 1 次 元データや雲解像モデルによる 2 次元データを比較しようとする際, 一般的にはまずはそれらのデータ自体の情報を得るためにそれなり の時間を要する. そのため, 解析は元より, まず可視化してちょっ と見てみる, というのも結構手間と時間がかかったりしてしまい, データの数が多いと手が付けられなくなってしまう.

地球流体電脳倶楽部 gtool4 プロジェクト (http://www.gfd-dennou.org/library/gtool4) では, 地球流体現象 を念頭においた多次元格子点データのための自己記述的表現方法の 策定と, それを実装した種々のライブラリ, ツールの開発を行なう ことで, いろいろなモデルの数値実験から得られたデータをスムー ズに取り扱える (交換したり, 比較したり, 操作したり, 可視化し たり出来る) 環境の構築を目指している.

本発表では, これまでの gtool4 プロジェクトの歩みと, 現在プロ ジェクトで開発を行なっている Fortran 90 netCDF データ I/O ラ イブラリ gt4f90io を紹介する.

発表資料:

http://www.ep.sci.hokudai.ac.jp/~dm2semi/2006/0713/pub (HTML)

http://www.ep.sci.hokudai.ac.jp/~dm2semi/2006/0713/pub/dm2semi-2006_gt4f90 io_ver0.8.pdf (PDF)


07/20 (木) 13:00- 15:00   杉山 耕一朗

タイトル:

木星大気の雲対流

要旨:
発表資料:

http://www.ep.sci.hokudai.ac.jp/~dm2semi/2006/0720/pub (HTML)

http://www.ep.sci.hokudai.ac.jp/~dm2semi/2006/0720/pub/DM2_20060720.pdf (P DF)


10/05 (木) 13:30- 15:30   山田 由貴子

タイトル:

水惑星実験における赤道域降水活動の理解に向けて: wave-CISK モデルとの比較を目的とした AGCM 物理過程簡略化実験

要旨:

地球の赤道大気には, 観測により階層的な構造 (Madden-Julian 振 動, クラウドクラスター, スーパークラスター) が存在すると言わ れている (Nakazawa, 1988). 本研究では, 大気大循環モデル (AGCM) で表現される赤道域降水分布パターンの多様性とその原因を 探る試みのひとつとして, 水惑星条件における大気大循環モデルの パラメタ依存性調査を行なっている. 山田 (2004, 修士論文) では, AGCM の長波放射スキームの乾燥空気の吸収係数を変更し, 鉛直放射 冷却率分布が上層で最大値を持つように操作することで, 赤道域に おける降水活動に東進構造が明瞭に現れることを示した.

我々は, 東進する降水構造の生成維持機構として Numaguti and Hayashi (1991) の主張する Kelvin wave-CISK を想定している. しかしながら, 実際には, 山田 (2004) で実現された東進構造と Numaguti and Hayashi (1991) の結果とは異なる点も多く, 山田 (2004) の東進構造が線形 wave-CISK によるものと断定する根拠に 乏しい. 本発表では, 山田 (2004) の結果を検証する為に, AGCM の 物理過程を段階的に簡略化し, 線形 wave-CISK モデルに近づける試 み (作戦方針…) について紹介する.

発表資料:

http://www.ep.sci.hokudai.ac.jp/~dm2semi/2006/1005/pub


10/12 (木) 13:30- 15:30   光田 千紘

タイトル:

二酸化炭素氷雲による初期火星の温暖化:
放射冷却によって形成される雲の散乱温室効果

要旨:

古火星の温暖化メカニズムとして高圧のCO2大気の存在とその対流 圏上部に生じるCO2氷雲による散乱温室効果が提案されている(e.g. Forget and Pierrefumbert 1997). 従来の研究によりこの温室効果 は氷雲の粒径や光学的厚さに強く依存し, 温暖湿潤な気候を説明す ることのできる雲パラメタ条件は限られることが示されている (e.g. Yokohata et al. 2002; Mischna et al. 2000).

一方で雲パラメタの推定は困難と思われてきた. その理由は地球大 気の類推から氷雲は主に湿潤対流により形成されると考えられてき たためである. しかし地球とは異なり大気主成分が凝結する系でど のような湿潤対流が生じるかは明らかではない. 最近のCO2大気中 の湿潤対流の数値実験によると, CO2雲層では鉛直運動が抑制され ることが示唆されている(小高ら, 2006).

そこで本研究では, 雲は対流運動よりもむしろ放射冷却によって形 成されると仮定し, その場合に実現される雲パラメタの推定及び温 室効果の評価を行った. その結果, 大気圧が数気圧以上の場合, 凝 結核混合比10^5--10^7 kg^{-1} 程度であれば強い散乱温室効果を 起こす雲が形成され, 地表面温度はH2Oの融点を超えることがわかっ た.

発表資料:

http://www.ep.sci.hokudai.ac.jp/~dm2semi/2006/1012/pub/


11/02 (木) 13:30- 15:30   福井 隆

タイトル:

原始太陽系星雲の酸素同位体比のグローバル進化

要旨:

コンドライトは太陽系最古の固体物質の 1 つであり, 原始太陽系 星雲の情報を今なお保持している, という点で重要である. 本研究 では, コンドライト構成物質 (特にコンドリュールと CAI) の酸素 同位体比に着目, それに基づき原始太陽系で起きた物質進化過程を 解明することを目的とする.

コンドライト構成物質が示す多様な酸素同位体比の起源については, 最近 Yurimoto and Kuramoto (2004) が分子雲における 16O-rich な CO gas, 17&18O-rich な H2O ice の形成および原始太陽系星雲 内での H2O 濃集過程という一連のシナリオを提唱した. しかし, 彼 らのモデルからは同位体比の時間的・空間的変化についての情報は 得られず, CAI--コンドリュール間の大きな組成差 (> 40‰) と コンドリュール同士および惑星物質の一様性 (< 10‰) がなぜ共存 しうるか, という問題は説明出来ない.

そこで本研究では, 酸素キャリアー分子種の輸送過程をシミュレート し, 円盤の酸素同位体組成の時間進化を追った. その結果, 円盤の 酸素同位体組成は中心星形成後 2, 3 Myr までは 1 Myr あたり数十 ‰程度変化するが, その後はあまり時間変化しなくなることが分かった. 今回行った計算の場合, CAI が中心星形成後 1 Myr 頃に形成され, その 2--3 Myr 後にコンドリュールが形成されたと考えると, 酸素 同位体比の不均質・一様共存問題はうまく説明されることになる. 結果のタイムスケールは, 隕石年代学の結果とも調和的である.

発表ではさらに, 最近始めた固相の輸送過程も考慮した計算の結果を 紹介し, 時間が許せば今後の展望 (どのように話をまとめるか, C/O 比の話, etc.) についてもお話ししたい.

発表資料:

http://www.ep.sci.hokudai.ac.jp/~dm2semi/2006/1102/DM2_0611.pdf


11/09 (木) 13:00- 15:00   大石 尊久

タイトル:

トランジット法による系外惑星 TrES-1 のテスト観測

要旨:

太陽系以外の惑星は 1995 年にペガスス座に発見された.それから 11 年,発見数は 200 個を超え,様々な姿の系外惑星系が見つかっ ている.発見されている系外惑星で最も多いのが「ホット・ジュピ ター」と呼ばれる,恒星の近くを高速公転する木星大の惑星である. こういった惑星は恒星に対しての引力が大きいため,恒星がふらつ き,地球から見たときに光がドップラー効果を起こす.それを利用 したドップラー偏移法という方法で多くの系外惑星が発見されてい る. それに対して,恒星の前面を惑星が通過する時の生じる等級の変化 を観測するものが「トランジット法」という観測方法である.トラ ンジット法で観測するためには,恒星と地球の間を惑星が通過しな くてはならず,ホット・ジュピターのように大きな惑星が重ならな くては等級の変化を検出できない.

本研究は系外惑星の発見とその惑星の情報を求めるための予備観測 である.空気が澄んでいて,光害が少なく,晴天率の良い,北海道 名寄市立木原天文台で系外惑星の観測を行う準備をしている段階で ある.

今回の発表ではトランジット法で発見された系外惑星 TrES-1 をテ スト観測した結果をまとめる.

発表資料:

http://www.ep.sci.hokudai.ac.jp/~dm2semi/2006/1109/pub/


11/16 (木) 13:30- 15:30   広瀬 佑介

タイトル:

還元的組成をもつ水星の熱史とダイナモの可能性

要旨:

Mariner10 の水星探査により、水星には固有磁場が存在することが明らかになった。これは、水星には液体核が存在し、ここでダイナモが駆動されている可能性を強く示唆する。これを説明するため提唱された熱史モデル(Stevenson et al. 1983 )によれば、内核成長に伴う液体核の組成対流によりダイナモが説明される。ただしこのモデルでは、水星核・マントルの組成は地球のそれらと同一とされていた。原始太陽系の内縁部の条件下においては、太陽系の内側にある物質ほどより還元的である可能性が指摘されている(Wasson 1988)。また、水星の反射スペクトルは水星表面に有色鉱物が乏しいことを 示しており、このことも水星が還元的な物質からなる可能性を支持している。そこで本研究では、水星が原始太陽系星雲内で形成されたもっとも還元的な始原的隕石であるエンスタタイト(E)コンドライトと同一の組成をもつ物質から形成されたと仮定し、水星の熱史を計算した。E コンドライト的組成において、コアに含まれる硫黄は鉄の凝固点を下げ(つまり内核の成長を妨げ)、さらにマントルの粘性率が上がる(つまり内部を冷えにくくする)と考えられる。これらの効果により、内核成長はまったく起こらない、すなわち組成対流によるダイナモは説明できないという解を得た。また、このときコア・マントル境界の熱流量から、液体核では熱対流も起こらないという結果を得た。さらに今回は、様々なマントル粘性率・コアの硫黄濃度を与えて内核成長し組成対流の起こる範囲を制約し、Olson & Cristensen (2006) の方法を用いて組成対流によって発生する磁場の評価をおこなった。

発表資料:

http://www.ep.sci.hokudai.ac.jp/~dm2semi/2006/1116/mercury.html


12/04 (月) 13:30- 15:30   佐古 孝介

タイトル:

マントルから脱ガスする気体の酸化還元状態の進化

要旨:

本研究は、地球大気の進化を理解することが大目標である。

地球大気は、地質学的証拠によって大まかに還元的から酸化的な 状態になったと考えられているが、地球初期は良く分かっていない。 一方、地球形成後、数〜十億年の間と考えられている生命の起源に は還元的な環境が有利だとされている。したがって、いつまでどの 程度還元的だったのかを知ることは重要である。

そこで当面は、地球初期を想定した大気の酸化還元状態を考える。 大気の酸化還元状態は、還元型(または酸化型)分子種の供給と消失 でバランスしている。今回の発表では、供給過程であるマントルか らの脱ガス、その中でも特に大きな寄与である中央海嶺の脱ガスの みについて考えた。その仕組みは減圧融解である。

脱ガス気体の酸化還元度は以下の2段階で求めた。マントルの組 成と温度からマグマの組成を求めた。そのマグマと共存する気体の 化学平衡から脱ガス気体の酸化還元度を求めた。計算結果は、温度 や組成に対する脱ガス気体の酸化還元度の傾向を示すものとして妥 当であると思われる。しかし、今回の結果は、ある一瞬の値を示し ている。

今後は、マグマ中の化学平衡における質量保存、脱ガスのフラッ クス、マントルの組成と温度の時間変化を盛り込んで、進化モデル を構築する予定である。

発表資料:

http://www.ep.sci.hokudai.ac.jp/~dm2semi/2006/1204/Redox_State_of_Degassin g_Gas_from_Mantle.pdf


12/07 (木) 13:30- 15:30   佐藤 創我

タイトル:

極域電離圏上部におけるイオン上昇流の観測

要旨:

極域電離圏では,ポーラーウィンドやコニクスなど超音速流でイオン が磁気圏へと流出していく現象や,オーロラによる加熱やジュール加 熱に伴う数10m/s?数100m/sの速度をもつようなイオン上昇流が観測さ れている.しかしレーダーや衛星,モデルとの比較による多角的な研 究は詳細に行われていない.

本研究では,欧州非干渉散乱(EISCAT)スバールバルレーダー(ESR)、 SuperDARNレーダー、ACE衛星、CHAMP衛星のデータを用いて,極域電離圏 で見られるイオン上昇流と極域電離圏対流、太陽風、さらに中性大気 との相互関係を調査し,比較・検討を行った.イオン上昇流が起きていた 時間帯にESRで観測された電子密度・温度,イオン温度に顕著な変化が 無いデータに着目し,イオン上昇流発生の原因を考察した.

発表資料:

http://www.ep.sci.hokudai.ac.jp/~dm2semi/2006/1207/pub


12/14 (木) 13:30- 15:30   花房 瑞樹

タイトル:

台風の温帯低気圧への変遷過程 〜2004年台風23号の例〜

要旨:

日本に接近する台風には、中緯度地域の傾圧帯の影響を受けて温帯低 気圧へ変遷するものがある。台風が温帯低気圧化することによって強 風範囲が広がったり、一度衰弱した低気圧が再発達し、思わぬ被害を もたらすことがあるため、台風の温帯低気圧化には注意が必要である。

本発表では、2004年10月に西日本に上陸した台風23号の温帯低気圧へ の変遷について述べる。この台風は、西日本を中心に土砂崩れや河川 の洪水など、大雨による被害をもたらした。台風が西日本に接近して いるときの総観場の様子に着目すると、日本付近は傾圧帯に位置して おり、徐々に台風が傾圧帯の影響を受け、台風から温帯低気圧へ変遷 していたと考えられる。このことは、台風の雲が日本付近で崩れてい る様子からも明らかである。

台風の温帯低気圧化をより客観的に判断するために、Evans and Hart (2003)の手法を用いた。この手法では、進行方向に対して右側と左側 の層厚の差が10m以上になった時刻を温帯低気圧化の開始としている。 また完了は、台風の特徴である暖気核がなくなり寒気核を持つように なった時刻としている。実際に台風23号に対してこの手法を用いた結 果、台風の北上に伴って傾圧帯の影響を受け、台風の西側で寒気移流 が強くなり、日本に上陸する直前に温帯低気圧化が開始したことが分 かった。その後も寒気移流が持続する一方、台風としての構造が崩れ 暖気核が消滅し、上陸後10時間程度で温帯低気圧に変遷していたこと が分かった。このことから、西日本での大雨は温帯低気圧への変遷過 程で起っていたことが明らかになった。

発表資料:

http://www.ep.sci.hokudai.ac.jp/~dm2semi/2006/1214/20061214.pdf


01/11 (木) 13:30- 15:30   森川 靖大

タイトル:

惑星大気大循環モデル DCPAM の設計と開発

要旨

モデル設定の可変性とソースコードの可読性を合わせ持った大気大 循環モデル (GCM) の姿を模索するべく, 新たにGCMの設計およびそ のプログラムの実装と試験計算を行っている. 可読性の向上により プログラムの編集のコストの削減が期待され, 可変性の向上により 新たなプログラムの追加や既に組み込まれているプログラムの分離 を容易にすることが期待できる. 可変性と可読性に優れた GCM が提 供されることにより, さまざまな惑星大気の条件に応じた数値計算 の実行が容易になり, 比較惑星科学的な見地からの惑星大気構造の 考察の進展が期待される.

可読性と可変性向上のための工夫として, 以下の試みを行ってい る. 第 1 に, モデル内部の階層化を行っている. Fortran 90/95の モジュールや構造体といった機能を利用することで, プログラム要 素間の関係をわかりやすいものにし, 個々のプログラムの可変性を 高めている. 第 2 に, SPMODEL (竹広 他, 2006) の手法を導入して, 配列演算には関数を積極的に利用し, かつ関数や変数の命名法を工 夫することにより, 支配方程式が容易に類推できるようなコードを 生成できるようにしている. 煩雑な記述となりがちなデータの I/O 部分に関しては, データ I/O ライブラリ gt4f90io を利用すること で, これを隠蔽している. 第 3 に, ソースコードの改変や読解に必 須となるドキュメントの整備を容易にするため, RDoc Fortran 90/95 解析ツールの拡充を行っている. ソースコードにドキュメン トを埋め込み, ソースコードからドキュメントを自動生成すること により, ドキュメントの作成と管理のためのコストの低減を図って いる.

発表資料:

http://www.ep.sci.hokudai.ac.jp/~dm2semi/2006/0111/pub (HTML)

http://www.ep.sci.hokudai.ac.jp/~dm2semi/2006/0111/pub/dm2semi-2007_dcpam_ ver2.pdf (PDF)


01/18 (木) 13:30- 15:30   小松 研吾

タイトル:

電子放射線帯における radial 拡散係数についての考察

要旨

放射線帯とは地球磁場に捕らわれた高エネルギーの荷電粒子が高度 約 1000 km から 50000 km 以上にわたって集まっている領域である. 放射線帯は Van Allen らによって 1958 年に発見された.その後の 研究で放射線帯は安定な領域と考えられ, 70 年代にはその基本的な 物理過程はほぼ理解されたと考えられていた. しかし, 90 年代の SAMPEX や CRRES などの衛星観測から, 磁気嵐に伴う電子放射線帯 の空間的・時間的な激しい変動など, それまでの理解では説明でき ないような現象が発見され, そのメカニズムの解明のため現在再び 注目されている. また, 放射線帯粒子が人工衛星に与える影響など の実用的な側面からも放射線帯の変動についての研究は重要である.

近年, 放射線帯粒子の起源や加速・消失について多くのメカニズムが 提案されているが定量的な側面についての理解が未だ不十分である.

放射線帯の基本的な構造は radial diffusion モデルによって再現 することができる. 放射線帯粒子は主に外側境界から内側方向への 拡散によって供給され, 放射線帯粒子フラックスの増加・減少は外 側境界での粒子フラックスと拡散係数に大きく支配されている.

本発表ではまず, 放射線帯の構造や変動に関する概要と放射線帯粒子 の基本的な物理について述べる. また,radial diffusion モデルを用 いた数値シミュレーションの結果から拡散係数の空間分布が放射線帯 粒子フラックスの変化に与える影響について考察する.

発表資料:

http://www.ep.sci.hokudai.ac.jp/~dm2semi/2006/0118/pub (HTML)


最終更新日: 2007/01/24 小松 研吾