DM ゼミ 要旨 2007


04/26 (木曜) 13:30- 15:30   南部 慎吾

タイトル:

GPSネットワークを用いた大規模伝播性電離圏擾乱の研究

要旨:

地球の高度約80 kmから約700 kmまでは電離圏と呼ばれ電子とイオンからなるプラズマが存在する。電離圏の電子密度分布は層構造をなし、中緯度域では主に太陽放射と中性大気の密度によって決定されるが、中性大気風や磁気嵐によって電子密度分布は変化することが知られている。

水平方向に1000 km以上の規模を持つ電子密度分布の擾乱が伝播する現象を、大規模伝播性電離圏擾乱(Large-Scale Traveling Ionospheric Disturbances:LSTIDs)という。この現象の原因はオーロラ電流のジュール加熱などにより発生する大気重力波だと考えられている[Hines (1960)]。レーダーやGPSによるLSTIDsの観測が行われているが、未だに発生機構、伝播機構は解明されていない。

本研究ではLSTIDsの発生機構を解明すべく、この現象の出現の特徴を、GPS Earth Observation Network(GEONET)を用いて作られた電離圏の全電子数擾乱の水平分布図を用いて、2003年8月10日から2004年5月31日までに日本の上空に出現した29例のLSTIDsの解析を行った。

9例の内25例でその水平伝播速度及び伝播方向を、27例で周期を求めた。平均速度は磁気嵐発生時が 633 m/s、静穏時が 367 m/s、全体で511 m/s であり、24例が赤道方向に伝播した。平均周期は78分であった。またLSTIDsが発生した時刻での地磁気の様子を Dst index 及び、AE index を用いて調べた。その結果磁気嵐が発生した期間に16例出現し、これまで考えられていた磁気擾乱時に発生するという特徴が確かめられた。AE index の変動時刻及び観測された伝播速度、方角からLSTIDsの発生地点を推定したところ極域に集中していた。この結果は、オーロラ電流の発達によってLSTIDsが発生するという生成機構を示唆するものである。

参考文献 Hines, C. O.,(1960),Internal atomospheric gravity waves at ionospheric heights, Can. J. Phys.Lett.,38,1441-1481.

発表資料:

http://www.ep.sci.hokudai.ac.jp/~dmsemi/2007/0426/pub


05/10 (木) 13:30- 15:30   光田 千紘

タイトル:

放射加熱によって調節された二酸化炭素氷雲の散乱温室効果と古火星の温暖化

要旨:

地形学的証拠から初期 (38 億年前) の火星は液体の水が地表面で安定に存 在できるほど温暖であったと推測されており, そのメカニズムとして高圧の CO2 大気の存在とその対流圏上部に形成される CO2 氷雲による散乱温室効 果が提案されている. 従来の研究では, 散乱温室効果は雲粒径, 雲の光学的 厚さ及び雲の形成高度に依存することが示されている. 一方でこれら雲パラ メタの物理的制約はあまり行われていない. 雲層では湿潤対流が活発に生じており, 雲パラメタを直接見積もるためには 大気の運動を解く必要があると一般的に考えられている. しかし, 古火星大 気では凝結成分が主成分であることにより, 湿潤対流が励起されない可能性 がある. 例えば, 凝結によって減少した CO2 ガスが周囲からすばやく再供 給され, 放射冷却を潜熱加熱で打ち消すほどの大気凝結が生じ続けるかもし れない. その場合, 雲層の気温は CO2 凝結温度に保たれ, 大気は中立成層 を維持するため, 鉛直混合は駆動されない. さらに放射冷却によって成長し た雲相が正味放射加熱をうける効果があれば, 雲層は放射平衡となるように 自律的に粒径を調節し, 系は平衡状態へと収束するだろう. この場合, CO2 降雨や降雪なしに雲の構造が決まることになる. そこで本研究では一次元放射対流平衡モデルを構築し, 放射平衡及び CO2 気固平衡を満たす雲の鉛直構造とその温室効果の見積りを行った. 結果、大 気圧 3 気圧以上, 凝結核混合比 105 - 107 kg-1 の場合, 暗い太陽の下で 地表面温度は H2O の融点を超える程の強い温室効果が生じることがわかっ た. また地表面温度の強い凝結核混合比依存性を考慮すると, 温暖湿潤気候 の一時性を説明できるかもしれない. CO2 氷雲の散乱温室効果が古火星気候 へ与える影響をより詳細に見積もる為には, 凝結核の供給消失過程を検討す る必要がある.

発表資料:

http://www.ep.sci.hokudai.ac.jp/~dmsemi/2007/0510/pub/


05/17 (木) 13:30- 15:30   山下 達也

タイトル:

Korteweg-de Vries 方程式に関する考察 - soliton を中心として -

要旨:

Korteweg-de Vries 方程式(以下 KdV 方程式)は重力場中の水面波を記述す ることを目的として 1895 年に Korteweg, de Vries によって導出された. KdV 方程式は一般に解くのが難しいとされる非線形偏微分方程式であるが, ありがたいことに我々はその解を解析的に求めることができる.Korteweg, de Vries は KdV 方程式を導出した論文の中で,KdV 方程式が楕円関数によ って特徴付けられる周期的な解と,双曲線関数によって特徴付けられる孤立 波解の 2 種類の解を持つことを示している.しかし,Korteweg, de Vries が示した孤立波解は不完全なものであり,KdV 方程式の孤立波が持つ興味深 い特性はこの時点では十分に明らかにされなかった. その後 KdV 方程式の研究は目覚しい発展を遂げることはなかったが,1965 年 Zabusky, Kruskal は KdV 方程式に関する数値実験を行い,複数の孤立 波が互いに衝突するとき,その前後で孤立波の形状が変化しないこと,そし て非線形相互作用によって孤立波の位相が若干ずれることを発見した. Zabusky, Kruskal は KdV 方程式に従う孤立波の衝突の様子が粒子の振る舞 いに類似していることに因んで,これらの孤立波を soliton と名付けた. Zabusky, Kruskal の発見の後,soliton の研究は急速に進み,1967 年, Gardner et al. は任意の個数の soliton の時間発展を記述する解を求める 方法(逆散乱法)を発見した.これにより soliton の衝突時における粒子的 特性を解析的に議論できるようになった.このようにKdV 方程式および soliton の研究は,数値計算的手法と解析的手法が互いに相補し合って成功 を収めた研究の代表例と言うことができるだろう. 今回の発表では Korteweg, de Vries が示した KdV 方程式の周期解,孤立 波解の導出法を説明し,Gardner et al. が確立した逆散乱法の要点につい て述べ,逆散乱法によって得られた解についての考察を行なう.また,時間 が許せば KdV 方程式に関するいくつかの数値計算例を示したいと考えてい る.

発表資料:

http://www.ep.sci.hokudai.ac.jp/~dmsemi/2007/0517/pub/


06/07 (木) 13:30- 15:30   小松 研吾

タイトル:

放射線帯 radial diffusion モデルで用いられる拡散係数についての 考察

要旨:

地磁気の活動に伴う放射線帯粒子フラックスの時間的・空間的な変動 に関して, これまでに多くの研究がなされてきたが, 未だその定量的な 詳細については理解が不十分である.

放射線帯の基本的な構造は radial diffusion モデルによって再現す ることができる [Lyons and Thorne, 1973]. 放射線帯粒子は主にプラズ マシートから地球方向への流入によって供給され, 拡散の強さとピッチ 角散乱による粒子の消失のバランスによってフラックスの大きさと分布 が決まる. Radial diffusion は磁気圏内に生じる電磁場の振動によって 引き起こされるが, その振動の起源の詳細は明らかになっていない.

Brautigam and Albert [2000] は経験的に得られた拡散係数を用いて 磁気嵐時の radial diffusion シミュレーションを外帯について行っ た. その結果, 彼らはエネルギーの高い (>700MeV/G) 粒子では, 位相空 間密度が負の勾配を持って (地球から外側へ向けて減少して) いるとい う観測結果を再現できず, 外帯ピーク位置に内部加熱源が必要であると 主張した.

一方, この拡散係数をスロット・内帯領域に外挿するとスロット領 域が形成されず地球近傍でのフラックスが異常に大きくなってしま う. これはスロット領域より内側においてはこの拡散係数が過大である ことを意味している.

そこで本研究では, スロット・内帯領域を再現可能であるような, 外帯領域に対してスロット・内帯領域で拡散係数が急激に減少している ような拡散係数を考え, シミュレーションを行った. その結果, 内部加 熱源なしに負の勾配を持った位相空間密度分布を再現できる可能性があ ることがわかった.

発表資料:

http://www.ep.sci.hokudai.ac.jp/~dmsemi/2007/0607/pub/


06/14 (木) 13:30- 15:30   福井 隆

タイトル:

原始惑星系円盤の力学・組成進化シミュレーション

要旨:

惑星系の母胎である原始惑星系円盤の力学的進化については, 降着 円盤理論および天文観測の両面から相補的な研究が行われてきた. 現状では異常粘性の起源などについて問題が残されているものの, 惑星形成の初期条件として円盤のガス面密度, 温度分布などの決定 機構が明らかになりつつある.

一方で, 惑星形成論以外の研究分野---例えば地球型惑星の熱史, 大気組成進化, さらには生存可能条件の探索, etc.---においては, ガス面密度や温度分布といった円盤の大局的構造のみならず, minor 成分である H2O やダストの酸化還元状態・軽元素含有量の初期分布 などが本質的な関心事となりつつある. このような原始惑星系円盤 の組成的進化を明らかにする為には, 降着円盤理論や天文観測に加え, 円盤過程の直接の生成物として現在唯一手に出来るコンドライトの 組成や組織の分析, という 3 方面からの相補的研究を行わなくては ならない.

本発表では, この要請に答えんが為現在構築中の原始惑星系円盤内 における物質輸送モデルの思想と理論的基礎について紹介する. もしかしたら予察的な結果も紹介出来るかもしれない.

発表資料:

http://www.ep.sci.hokudai.ac.jp/~dmsemi/2007/0614/pub/


06/21 (木) 13:30- 15:30   岩堀 智子

タイトル:

水星の熱史研究のレビュー

要旨:

水星は太陽系で一番内側にある惑星である. 太陽に近いために探査や地上観測が困難であり, 詳細なデータは少ない. 例えば, 探査機による調査は 1970 年代に Mariner10 のフライバイが行われたのみであリ, 表面の撮像データも全球の 45 % 程度しか得られていない. このように水星には限られた情報しかないが, これらの情報を内部構造や形成過程を理解するための手がかりとすることは 可能である.

その一つとして水星の固有磁場の存在に着目する. 固有磁場を持つということは流体核が存在し, ダイナモが駆動されていることを示唆する. 本発表では, 地球などにくらべて小型で冷却しやすいはずの水星に 流体核が現在まで存在できるのかという観点から, 以下の熱史研究を 紹介する.

まず, 代表的な熱史モデルを提示した Stevenson et al.(1983) を 紹介する. これは惑星の核・マントルの平均温度と内核半径の時間変化の 定式化を行ったものである. 次に, 水星の組成を考慮して熱史を計算した 広瀬 (2007,修士論文) を紹介する. これは他研究から示唆される 還元的な組成を仮定して水星の熱史を計算したものである. 最後に, 熱史モデル中のマントル対流の扱いと, 境界条件の設定に ついて今後の課題を述べる.

発表資料:

http://www.ep.sci.hokudai.ac.jp/~dmsemi/2007/0621/pub/


06/26 (火) 14:45- 16:15   大石 尊久

タイトル:

公共天文台を利用したトランジット法による太陽系外惑星の観測

要旨:

太陽系外惑星の発見方法にはドップラー偏移法とトランジット法という 方法がある.ドップラー偏移法は,恒星光のスペクトルを観測し吸収線の 変動を調べることで,惑星引力による恒星のふらつきを検出する方法であ る.対しトランジット法は,恒星の等級変化を観測し,惑星が恒星前面を 通過する現象を検出する方法である.ドップラー偏移法では分光計や大口 径の望遠鏡が必要となるのに対し,トランジット法では口径数十 cm 程度 の望遠鏡でも観測が可能である.

そのため本研究では,観測時間を確保しやすい公共天文台である名寄市 立木原天文台の望遠鏡を利用し,トランジット法での観測体制を確立させた. 今後は系外惑星の探索へと発展させていく予定である.

発表資料:

http://www.ep.sci.hokudai.ac.jp/~dmsemi/2007/0626/pub/


10/06 (曜) 14:00- 16:00   森川 靖大

タイトル:

可変性と可読性を考慮した大気大循環モデルの設計と実装実験: 物理過程交換のためのプログラム設計

要旨:

可読性と可変性に優れたソースコードを持つ大気大循環モデル (GCM) の姿を模索するべく, プログラム設計および実装実験を行っ た. プログラムの改良や変更が容易で, 系の設定や物理過程の変更 が容易に行える GCM の存在は, 素過程の様相が未知であるさまざま な惑星大気の循環構造の考察を行い比較惑星科学的考察を進める上 で非常に有用である. これまでに, FORTRAN 77 基盤であった AGCM5 (SWAMP Project, 1998) を参考に, データ入出力ライブラリ gt4f90io の整備 (DM ゼミ, 2006-07-13), 変数命名規則などのコー ディングルールの制定 (DM ゼミ, 2007-01-11), ドキュメント自動 生成ライブラリ RDoc の機能強化 (DM ゼミ, 2006-02-15) などを行っ てきた.

今回は, 主に物理過程の変更を容易にすべく行った, モジュール設 計に関しての試みを紹介する. これまでの FORTRAN77 基盤, もしく はその基盤を強く継承しているモデルでは, 格子点情報や物理定数 といったモデル設定のパラメータをあるファイルで一括管理し, 個々 の演算ルーチンはそのファイルを参照することでパラメータを読み こむ. この方法はモデルの構造があまり変更されない場合にはパラ メータの管理を容易とする. しかし物理過程などモデルを構成する プログラムの変更が頻繁に行われる場合, この方法はプログラムの 変更を面倒なものにし, パラメータの管理自体もまた煩雑になって しまう. 今回行った試みでは, プログラム群をモジュールごとに管 理するとともに, それらモジュールに初期設定のためのサブルーチ ンを用意し, 演算などに必要なパラメータは全てこの初期設定サブ ルーチンに与えるようプログラムを実装した. この方法によりモジュー ル単位でのプログラムの交換や変更が容易になることが期待される. また, プログラムの品質を保つ上で重要なテストプログラムをモジュー ル単位で整備することが容易となることも期待される.

現在, これらの試みの実装実験として dcpam (Dennou Club Planetary Atmospheric Model) のバージョン 4 を開発, 整備中で あり, 上記の手法で力学過程の実装を行った. 今後はまず AGCM5 に 実装されていたような比較的簡単な物理過程を実装しつつ, 地球や 火星, 金星, そして木星の大気を念頭においた基礎実験を行い, 可 変性と可読性の検証を行っていく予定である.

発表資料:

http://www.ep.sci.hokudai.ac.jp/~dmsemi/2007/0629/pub (HTML)

http://www.ep.sci.hokudai.ac.jp/~dmsemi/2007/0629/pub/hokudai-dm_dcpam_ver4.pdf (PDF)


07/05 (木)15:30- 17:30   江藤 航一

タイトル:

QuikSCAT 海上風データでみるカムチャツカ半島東岸のバリア風

要旨:

海上風は洋上の大気下層の運動を考える上で重要な要素のひとつであ  る.地球観測衛星 QuikSCAT に搭載されたマイクロ波散乱計 SeaWinds はマイクロ波を海面に向けて照射し,海面からの散乱波強度から海上 風ベクトルを観測することができ,定点観測に比べ,洋上における時 間・空間密度の高い均一な観測データを得ることができる.

バリア風は境界層内の風が壁となる山脈に阻まれて迂回し,山脈に沿 って吹く地形によって力学的に強制されて起きる局地風であり,高緯  度の山脈でしばしば発生する.本研究ではカムチャツカ半島の東岸で  発生したバリア風の時間的・空間的分布を QuikSCAT 海上風データを  元に調査した.

発表資料:

http://www.ep.sci.hokudai.ac.jp/~dmsemi/2007/0705/pub


07/05 (木)15:00- 17:00   土屋 貴志

タイトル:

大気大循環モデルを用いた大気の運動と力学の考察

要旨:

乱流は大気や海洋などの流れに大きな影響を与えていると考えられ ている。それは乱流が持つ様々な特徴、つまり強い非線形を持つ こと、非定常な運動であること、大きな輸送能力を持つこと、 大きなエネルギー拡散性を伴うなどに起因している。

このような理由から乱流を理解することは大気の運動や力学を理解 する上で非常に重要である。しかし乱流はその強い非線形性を持つ という特徴のため、解析的に解くことが非常に困難である。 そのため、計算機による数値シミュレーションは乱流を理解する ための有効的な解決策であると考えられ、これまで様々な 数値シミュレーションが行われてきた。

本発表では、私がこれまでに行ってきたベータ平面上の2次元乱流 の数値計算、DCPAMを用いた熱源応答問題などを紹介する。また、 現在行っている2層乱流モデルの数値計算も少し触れたいと思う。

発表資料:

http://www.ep.sci.hokudai.ac.jp/~dmsemi/2007/0712/pub


07/19 (木) 13:30-15:30   西村 理恵

タイトル:

五大湖周辺で発生した降雪現象の事例解析 -Lake-Effect Stormとの関連性-

要旨:

冬季の五大湖周辺は、限られた範囲で多いときに2-3mの降雪が発生 する。原因として挙げられるのが、Lake-EffectStormである。

Lake-EffectStormは、冷たい空気が暖かい湖面上を流れることで 発生する。冬の日本海でも同様に発生し、日本海側に雪を降らせる。 要因・成因として、大気の不安定度・吹送距離・風の鉛直シアー・ 総観場などがあげられる。

本研究では、2006/2と2007/1の事例についてLake-Effectとの 関連性を基に、客観解析値、モデル、航空機・地上・衛星観測データを 用いて解析を行っていく。

今回は、Lake-EffectStormの紹介と研究についての概要・進捗を 発表する。

発表資料:

http://www.ep.sci.hokudai.ac.jp/~dmsemi/2007/0719/pub


10/04 (木) 13:30- 15:30   光田 千紘

タイトル:

放射によって調節された二酸化炭素氷雲の散乱温室効果

要旨:

地形学的証拠から初期 (38 億年前) の火星は液体の水が地表面で安定に 存在できるほど温暖であったと推測されており, そのメカニズムとし て高圧の CO2 大気の存在とその対流圏上部に形成される CO2 氷雲による 散乱温室効果が提案されている. 従来の研究では, 散乱温室効果は雲粒 径, 雲の光学的厚さ及び雲の形成高度に依存することが示されている. 一 方でこれら雲パラメタの物理的制約はあまり行われていない.

本研究では一次元放射対流平衡モデルを構築し, 放射平衡及び CO2 気 固平衡を満たす雲の鉛直構造とその温室効果の見積りを行った. 結果、大 気圧 3 気圧以上, 凝結核混合比 105 - 107 kg-1 の場合, 暗い太陽の下で 地表面温度は H2O の融点を超える程の強い温室効果が生じることがわ かった. また地表面温度の強い凝結核混合比依存性を考慮すると, 温 暖湿潤気候の一時性を説明できるかもしれない. CO2 氷雲の散乱温室効果が古火星 気候へ与える影響をより詳細に見積もる為には, 凝結核の供給消失過程を検 討する必要がある

発表資料:

http://www.ep.sci.hokudai.ac.jp/~dmsemi/2007/1004/pub/


10/11 (木) 13:30- 15:30   小松 研吾

タイトル:

内帯を含む電子放射線帯動径拡散係数

要旨:

放射線帯は地球の周囲をドーナツ状に取り囲む高エネルギー荷電粒子の 集まりで, 特に電子放射線帯外帯は地磁気の擾乱に伴ってそのフラック スが数桁に渡って大きく変動することが知られている. 近年, 外帯の電 子フラックス変動機構について, その詳細な物理を明らかにするため多 くの研究が行われているが, 比較的安定に存在する内帯についてはあま り注目されていない.

電子放射線帯の平衡構造は磁気圏内の電磁場擾乱によって生じるradial diffusion によって説明される. radial diffusion モデルで用いられる 動径拡散係数はBrautigam and Albert [2000] によって静電場振動・磁 場振動それぞれについて定式化されたものが慣習的によく用いられ る. この拡散係数は外帯における電場や磁場の観測に基づいて, 地磁気 擾乱の指数である Kp の関数として得られたものである. したがって, これらをスロット・内帯領域に適用するのは適切ではない. 実際, これ らの拡散係数をスロット・内帯領域に外挿して計算を行うとスロットは 再現されず, 地球近傍でのフラックスが過大になってしまう.

そこで本研究では, 外帯から内帯まで統一的に扱うことのできる拡散係 数を見つけるために, 静電場振動の大きさと動径方向の分布が異なる 3 種類の計算を行った. その結果, 観測で見られるような内帯での拡散を 再現しつつフラックス過大とならないためには, 静電場振動の大きさが 地球からの距離に依存し, 内側ほど小さくなっている必要があることが わかった. このことは, 動径拡散を引き起こ す静電場振動は磁気圏全体 で一様ではなく, 内側へ行くほど強く遮蔽されていることを示唆する.

発表資料:

http://www.ep.sci.hokudai.ac.jp/~dmsemi/2007/1011/pub/


10/17 (水) 13:00- 15:00   森川 靖大

タイトル:

可変性と可読性を考慮した大気大循環モデルの開発手法の考案と実装試験

要旨:

大気大循環モデルとは, 惑星大気に関して 3 次元の流体計算を行い, 全球規模の大気の運動について予測や再現を行うプログラムである. 大気力学の研究にも多く用いられ, 地球だけでなく, 観測データの 得づらい金星, 火星の大気循環の描像をつかむための道具としても 利用されている. 計算量が膨大になることから, 高速化のためのチュー ニングがなされ, また力学計算では表現できないサブグリッドスケー ル (格子点間隔より小さい規模) の現象はパラメタリゼーションと いう手法で表現するのが一般的である.

しかし一般に, 高速化チューニング部分や個別のパラメタリゼーショ ンをモデル内で明確に階層化することには手間がかかるため, モデ ル内部は複雑になりがちである. その結果, プログラムが何を計算 しているのかをソースコードから読み解くことが難しくなり, また 個々の物理素過程をモデルから切り離すことや他のモデルとの物理 素過程の共有を行うための作業コストが大きくなりやすい.

このことは特に, 様々な条件での仮想的な惑星大気を数多く計算す ることを考える場合に問題となり, 数値実験の実施の大きな足枷に なると考えている. これまでにもモデル内の可変性や可読性を考慮 したモデルとして, FORTRAN77 による AGCM5 (SWAMP Project, 1998) や, Fortran 90/95 による FMS (GFDL, 2004) がある. しか し, Fortran 90/95 の機能の活用や, オブジェクト指向スクリプト 言語 Ruby のサポートにより, 以下のさらなる工夫が可能であ る. (1) モジュール設計の見直しによる, 物理素過程の計算スキー ムの交換分離の作業コスト低減, (2) 配列演算関数の利用によりソー スコードを元の数式に似せる工夫, (3) Ruby によるドキュメント生 成ツール RDoc による解説文書作成の自動化, (4) データ入出力ラ イブラリ整備による入出力コードの簡素化と統一, (5) プログラム の定常的テストの自動化. これらの試みにより, これまでに比べて 可読性や可変性の高いモデルの開発や整備を促進することが期待で きる.

これらの試みを用いて, 湿潤対流過程や大規模凝結モジュールを作 成し, 水惑星 (全球を海洋で覆われたような仮想的な惑星) 実験を 行った. 今後は AGCM5 との結果および実行速度の比較を行い, 物理 過程がまともに実装されているか, またプログラミングスタイル, モジュール設計についての速度の面からの見直しを行う予定であ る. さらにその後は, 地形を入れた計算を行い, 今よりも現実的な 大気に関して計算できるモデルへと発展させる予定である.

発表資料:

http://www.ep.sci.hokudai.ac.jp/~dmsemi/2007/1017/pub (HTML)

http://www.ep.sci.hokudai.ac.jp/~dmsemi/2007/1017/pub/dmsemi-2007-10-17_ver4.pdf (PDF)


11/01 (木) 13:30- 15:30   福井 隆

タイトル:

H2O の濃集に伴う初期太陽系の 酸素同位体比進化モデルの検証

要旨:

コンドライトは太陽系最古の固体物質の 1 つであり, 原始太陽 系星雲の情報を今に伝えている, という点で重要である. コンド ライト物質が示す酸素同位体システマティクスの起源として, 分 子雲において形成された同位体異常を持つ H2O が 原始太陽系星雲の内側領域で濃集した結果であるとするモデルが 現在有力視されている. しかし, このモデルでは H2O 濃集の度合・持続期間に強い影響を与える氷ダストのサイズが 如何に決定されたかが不明である. また, 原始惑星系円盤の理論 ・観測的研究との整合性は十分には調べられていない.

そこで本研究ではまず, 高速衝突時にダストが付着成長出来ない という実験的研究に基いた円盤中のダストサイズ決定機構を提示 する. さらに, 観測と整合的な円盤パラメータ (質量, 半径, 乱 流の強度など) の下, 得られたダストサイズを用いて H2O の濃集過程のシミュレーションを行い, 実際にコンドライト物質の 酸素同位体組成が再現可能かどうかを検討する.

発表資料:

http://www.ep.sci.hokudai.ac.jp/~dmsemi/2007/1101/DM0711.pdf


11/15 (木) 13:30- 15:30   岩堀 智子

タイトル:

混合距離理論モデルを用いた水星熱史計算

要旨:

水星には固有磁場や逆断層地形などの特徴から流体核ダイナモや 過去の全球収縮が示唆されているが, まだ詳細な情報は少なく, MESSENGER や BepiColombo による探査に期待が寄せられている.

これらの探査では磁場, 地形, 表面組成などが観測されるが, そ の情報を熱史と対応づけることで, 水星の内部構造や進化過程に 制約を与えることがおそらく可能である. これまで Stevenson et al. 1983 などで熱史計算が行われてきたが, パラメータである放射 性熱源の量や核に含まれる軽元素の量, マントル粘性率などにつ いてはさらなる検討が必要である. これらのパラメータを総合し て観測情報との対応を検討することで, 内部構造や進化過程につ いてより確実な制約を与えられる.

本発表では一次元熱収支モデルによる水星内部の温度進化と内核 成長の計算結果について, 特に内部熱源の量や分布がおよぼす影 響に着目して紹介する.

発表資料:

http://www.ep.sci.hokudai.ac.jp/~dmsemi/2007/1115/pub/


11/22 (木) 13:30- 15:30   江藤 航一

タイトル:

QuikSCAT 海上風データでみるカムチャツカ半島東岸のバリア風

要旨:

 海上風は洋上の大気下層の運動を考える上で重要な要素のひとつである地球観測衛星 QuikSCAT に搭載されたマイクロ波散乱計 SeaWinds はマイクロ波を海面に向けて照射し,海面からの散乱波強度から海上 風ベクトルを観測することができ,定点観測に比べ,洋上における時間・空間密度の高い均一な観測データを得ることができる.

バリア風は山脈に沿って寒気がせき止められ,山脈に平行な方向の気圧傾度が強まることによって境界層内の風が減速し,山脈に平行な方向の非地衡風成分が強まることで形成される地形性局地風であり,高緯度の山脈付近でしばしば発生する.本研究ではカムチャツカ半島の東岸で発生したバリア風の気候・空間的分布をQuikSCAT 海上風データを元に調査した.

その結果,バリア風の出現頻度は冬季に最も高く,夏季に最も低い.また,冬季には最大風速25m/sを超えるような強いバリア風が出現する頻度が高く,夏季に出現するほとんどのバリア風の最大風速は冬季に比べて弱いことがわかった.

発表資料:

http://www.ep.sci.hokudai.ac.jp/~dmsemi/2007/1122/pub/


11/29 (木) 13:00- 15:00   土屋 貴志

タイトル:

2 層回転球面上の減衰乱流の数値計算

要旨:

木星などの帯状構造を形成を考察するためにこれまで数多くの 回転球面上の乱流の数値計算が行われてきた(William,1978など)。 その多くは順圧モデルなどの1層モデルを用いた研究であり、 縞状構造の南北スケールはラインズスケール(おおむねΩa/Uの平方根; Ωは自転角速度、aは惑星半径、Uは速度スケール)で決定されるという 議論がなされてきた。

それらに対して Kitamura and Matsuda(2004) は2層球面モデル による数値計算を行った。彼らは2層モデルの結果と1層モデルの 結果の類似性を調べ、以下の結果を得た。 ・ラムパラメータ(Ωaと重力波の位相速度の比の2乗)が大きい場合 には順圧モードが卓越する ・ラムパラメータが小さい場合には上層と下層でほぼ無関係に独立して 、2次元非発散の運動を行う しかし Kitamura and Matsuda(2004) ではエネルギースペクトルの 時間発展や、初期値依存性は言及されておらず、なぜそのような 結果に到る過程については不明な点が多い。

本発表では、 Kitamura and Matsuda(2004) の紹介ならびに その問題点の指摘を行う。その後、現在私が取り組んでいる 大気大循環モデル(DCPAM)を用いた2層回転球面上の減衰乱流の 数値計算の紹介を行う。

発表資料:

http://www.ep.sci.hokudai.ac.jp/~dmsemi/2007/1129/pub/


12/06 (木) 13:30- 15:30   西村 理恵

タイトル:

Introduction of C3VP and Example Analysis of Cloud Bands Observed by The King City Radar

要旨:

2006年4月, NASAにより雲観測衛星CloudSat/CALIPSOが打ち上げられた. そのデータ検証を行うためEnvironmentCanadaを中心にC3VPが実施されている. C3VPの目的は, カナダでの気候・気象状況についての衛星観測の検証である. 航空機観測や地上観測を秋〜冬季にかけ集中的に行っている.

その観測期間中, 五大湖近くのレーダーにおいてバンド雲が2例観測された. これは, LakeEffectとされる. LakeEffectは規模の大きい時には数mの降雪を もたらす現象で, 冬季日本海や五大湖などで発生する.

本研究では, メソモデル(MM5)を用いバンド雲発生のメカニズムを探っている. 2例とも上空トラフの通過や寒気の流入が総観場において見られ, バンド雲発生 に前後して低気圧が急速に近辺で発達していた.また, 総観場やおおよそのバン ド雲はモデルで再現された.今後は観測との比較やモデルの再走を行って, より 詳細について見ていく予定である.

本発表では, CloudSat, C3VPや11月末に参加したWorkshop, 観測事例, ここまで に出ているモデルの結果を紹介する.

http://www.ep.sci.hokudai.ac.jp/~dmsemi/2007/1206/pub/


12/13 (木) 13:30- 14:30   南部 慎吾

タイトル:

ロケット観測実験紹介

要旨:

地球の高度約80 kmから約700 kmまでは電離圏と呼ばれ電子とイオン からなるプラズマが存在する。電離圏の電子密度分布は層構造をな し、中緯度域では主に太陽放射と中性大気の密度によって決定され るが、中性大気風や磁気嵐によって電子密度分布は変化することが 知られている。電子密度の変動が伝播する現象を伝搬性電離圏擾乱 (Traveling Ionospheric Disturbance:TID) といい、現在まで多く の観測及び研究が行われている。

これまでの電離圏の観測は電波を用いたプラズマの観測が主であり TID の観測も同様であったが、今年の9月にロケットを用いた TID 中の中性大気風とプラズマの両方の運動を直接観測する初めての実 験が行われた。そこで今回の発表ではこの実験の紹介を行う。

http://www.ep.sci.hokudai.ac.jp/~dmsemi/2007/1213/pub/


01/10 (木) 13:30- 15:30   山下 達也

タイトル:

山岳波の線形論について

要旨:

山岳波とは安定成層状態にある大気中で気流が山岳に衝突すること で山上や風下側に形成される内部重力波である. 地球において, 山 岳波は雲を生成する要因の1つであることが以前から知られてい る. また火星においても山岳波起源と考えられる雲が観測によって 複数確認されている.

一方, 近年 Mitsuda et al. (2004 --) の研究により, 過去の火星 の温暖湿潤な気候は CO2 氷雲の散乱温室効果によって説明できるこ とが明らかになりつつある. このことから, 雲は過去の火星気候を 考える上で重要な因子であることが示唆される. したがって過去の 火星において, 山岳波がどのような雲を作り, どのような影響をも たらすのかを研究することは意義深いことと自分は考える.

山岳波起源の雲を研究するには, 少なくとも山岳波の数学的・物理 的構造を理解する必要があるだろう. そこで今回は山岳波の線形論 に関する過去の研究をレビューし, 山岳波の特徴を整理してみたい と思う.

http://www.ep.sci.hokudai.ac.jp/~dmsemi/2007/0110/pub/


02/18 (月) 13:30- 15:30   大石 尊久

タイトル:

太陽系外惑星の観測手法と発見された惑星

要旨:

現在までに発見されている太陽系外惑星は 270 個を超え、現在も更なる探索が続けられている。その発見に最も使用されている方法が、視線速度法 (ドップラー法) であるが、この方法では放射スペクトル吸収線がはっきりしている F,G,K,M 型の主系列星しか観測ができない。また、高分散分光を行うため、等級の明るい星に限られる。 視線速度法の次に発見数が多いのが、トランジット法である。トランジット法は、惑星が中心星を横切った際の減光を観測する。そのため、どのタイプの主系列星でも観測が可能であり、また、視線速度法よりも等級の低い星も観測が可能である。測定に必要な測光精度は、木星型ガス惑星の検出には 1% 以下の精度で可能となる。

視線速度法やトランジット法で発見された惑星は、太陽系の軌道とはかけ離れた軌道を持ったものが多くある。最も有名なのがホットジュピターと呼ばれる惑星である。初めて発見された太陽系外惑星もそうである。水星軌道よりも内側に回る木星サイズのガス惑星であるホットジュピターは、発見当初、太陽系の惑星形成論からは想像もできない姿であった。ホットジュピター以外にも太陽系とは違った系は多く発見されている。

今回は、太陽系外惑星の観測手法についてまとめ、どのような惑星が発見されているかをまとめた。

発表資料:

http://www.ep.sci.hokudai.ac.jp/~dmsemi/2007/0218/pub/


最終更新日: 2008/02/18 大石 尊久