■ 地球型惑星の大気
まず地球, 金星, 火星の大気の置かれた物理的条件と大気の組成を考えてみよう.
表 1 〜表 3 は地球, 金星, 火星の天文パラメータ(天文学的な量), 大気の
物理パラメータ(物理学的な量), 大気組成を示したものである.
参考のため木星型惑星の代表として木星の値も併記した.
大気循環にとって重要な物理的条件のうち, 地球, 金星, 火星に共通なものは
次の 3 つである.
- 地面がある
地球型惑星は金属と岩石からなる固体部分と,
気体・液体成分から構成される大気・海洋によって構成される.
固体部分と大気・海洋との境界である「地面」をはっきりと定義できる.
これに対し惑星構成物質の大部分を気体成分が占める木星型惑星では,
地球型惑星のような「地面」を定義できるかどうかよくわかっていない.
- エネルギー源は太陽からの放射
惑星が太陽から受け取る放射のエネルギーは,
惑星の内部から表面へと輸送されるエネルギー (地殻熱流量) に比べて
十分大きい.
したがって大気循環を駆動するエネルギー源は,
太陽からの放射であると考えられる.
実際に地球, 火星の平均気温は, 太陽から受け取る放射のエネルギーと,
惑星から射出される赤外放射のエネルギーとのつりあいで決まる温度
(有効放射温度) と同程度である.
木星型惑星の場合, 惑星内部から表面へ輸送されるエネルギーを考慮しないと
観測される表面温度を説明できない.
- 金星と火星の地殻熱流量の直接観測はなされていない.
惑星の構成物質と内部構造から推定された地殻熱流量は,
地球のそれと同程度の値である.
- 有効放射温度と平均気温のずれをもたらす原因は
温室効果 である.
これは特に金星大気の場合に非常に大きく働いている.
- 大気は「薄い」
惑星の平均密度は固体部分を構成する物質の平均密度にほぼ等しいことから,
惑星全体の質量に占める大気の割合は非常に小さい.
観測される平均気温から計算した
スケールハイト
(大気の特徴的厚さを表す量) は, 惑星半径に比べ十分小さい.
異なる点は
- 自転の有無
地球, 火星はほぼ等しい角速度で自転している.
これに対し金星の自転速度は非常に遅く,
ほとんど自転していないと考えてよい
(金星の自転周期は公転周期とほぼ等しい.なお,
自転の向きは地球と逆である).
である.
次に大気の組成を比較してみる. 大気循環にとって重要な点は
- 水 (H2O) の有無
地球大気の循環は水の存在によって特徴づけられる.
金星大気中に水はほとんど存在しない.
火星大気中に観測される水蒸気量は非常に少ないので,
大気循環に対する水 (水蒸気) の影響はほとんどない.
- 関連して,海洋の有無も大気循環に影響する.
海水は陸面物質よりも比熱が大きい(あたたまりにくく,
冷めにくい)ので,夏には沢山の熱を吸収して気温の上昇を抑え,
冬にはたくわえた熱をゆっくりと大気に放出して気温が急激に
下がらないようにする.こうして海洋のある地球では,大気循環の
季節変化は小さくなる. 他方,
火星の大気循環に大きな季節変化があるのは,
火星に海がないことが一因だといわれている.
- 大気組成の比較に関する詳しい解説は, 倉本 圭 著
「大気組成の謎」 を参照されたい.
である.
表1: 惑星の天文パラメータ (松田 (2000) 表1.1の一部を改変して抜粋)
|
| 太陽からの距離 (天文単位) |
公転周期 (地球年) |
自転周期 (地球日) |
赤道半径 (km) |
密度 (g/cm2) |
重力加速度 (m/sec2) |
太陽から受ける放射量 (W/m2) |
地殻熱流量 (W/m2) |
金星 | 0.723 |
0.615 |
243 |
6052 |
5.24 |
8.90 |
2617 |
- |
地球 | 1.00 |
1.00 |
1.00 |
6378 |
5.52 |
9.78 |
1370 |
0.07 |
火星 | 1.52 |
1.88 |
1.03 |
3397 |
3.93 |
3.72 |
589 |
- |
木星 | 5.20 |
11.86 |
0.414 |
71492 |
1.33 |
23.18 |
50.69 |
4.15* |
(*) 放射平衡温度と観測される雲層の輝度温度とのずれから計算.
| |
表2: 惑星大気の物理パラメータ (松田 (2000) 表1.2の一部を改変して抜粋).
|
| 平均気圧 (hPa) |
アルベド |
有効放射温度 (K) |
平均気温 (K) |
平均分子量 |
定圧比熱 (103J/kg K) |
スケールハイト* (km) |
金星 | 92000 |
0.78 |
224 |
750 |
44 |
1.2 |
16 |
地球 | 1013 |
0.30 |
255 |
288 |
29 |
1 |
8.4 |
火星 | 6 |
0.16 |
216 |
220 |
44 |
0.8 |
11 |
木星 | - |
0.73 |
113 |
124** |
2.2 |
11 |
- |
(*) 平均気温から計算 , (**) 雲層の放射輝度温度
| |
表3: 惑星大気の組成 (松田 (2000) 表1.3から一部を改変して抜粋.かっこ内の数字は
大気全体に占める割合(%)) |
金星 |
地球 |
火星 | 木星 |
二酸化炭素 (96)
窒素 (3.5)
二酸化硫黄 (0.015)
|
二酸化炭素 (78)
酸素 (21)
アルゴン (0.9)
水 (0〜2)
|
二酸化炭素 (95)
窒素 (2.7)
アルゴン (1.6)
|
水素 (90)
ヘリウム (10)
|
|
|