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惑星の気象学
[1週目 後半]
小高 正嗣(北大院理・地球惑星科学専攻助手)
odakker@gfd-dennou.org
2002 年 10 月 24 日
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惑星の気象学, 4時間目の授業に移ります.
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日本付近の「ひまわり」雲画像を見てみましょう.
よく天気は西から変わると言いますよね. その言葉の通り, 雲は西から
東へと動いているようです.
しかし地球上の他の場所でも同じように西風が吹いているのでしょうか?
また他の惑星ではどのような風が吹いているのでしょうか?
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この時間は地球・火星・金星の気象についてお話します.
主に気温・風・特徴的な大気現象を見ていくことにしましょう.
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まずは私達の住む地球からです. 地球は太陽の周りを1年かけて公転し,
地軸を中心に1日に1回自転しています.
地表での気圧は 1013 hPa, 1気圧です.
私達はこれだけの空気の重さの下で生活しています. 地球全体での平均気温は15℃,
特徴的な大気の厚さ(
スケールハイト)は 8.4 km です.
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日本のある中緯度付近では, 雲は西から東へ動いており, 西風が
吹いています. これに対し, 赤道付近ではよく見ると東風です.
また中緯度や極付近では雲が渦卷く様子が見られます.
それから地球では, 雲の部分と雲がなく地面が見えている部分とが
だいたい半分ずつ存在しています.
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上では雲の動き(=風)を見ましたが, 地球ではどのように雨が降って
いるのでしょうか?
熱帯降雨観測衛星(TRMM)による
降水強度(1時間当りの降水(mm))の動画を見てみましょう.
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白い部分は雨のほとんど降っていない所で, 青から赤に行くにしたがって
たくさんの降水があることを示しています.
これを見ると, 地球上ではどこでも同じように雨が
降っている訳ではなく, その分布にはムラがあることがわかります.
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中緯度ではなぜ西風が吹いているのでしょう?
これには地球の自転が関係しています. 詳しい解説は
参考資料
を御覧下さい.
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中緯度や極付近ではどうして渦ができるのでしょう?
こちらも地球の自転が関係しています. 詳しい解説は
参考資料を御覧下さい.
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次は火星を見てみましょう. 大きさは地球の約半分, 公転周期は地球の
約2倍です. 自転周期は地球と同じです.
地表での気圧は低く, 地球の1/100程度です. 私達が火星に下り立ったなら,
体は破裂してしまいます!体の内圧の方がずっと高いためです.
平均気温は−53℃と, 地球のシベリアや南極の真冬並の寒さです.
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この火星では, 大気はどのように動いているのでしょう?
詳しいことはよくわかっていないのですが, 自転周期が地球とほぼ同じ
ことなどから, 地球の大気の流れと似ていると考えられています.
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地球大気の渦は白い雲の流れによって目で見ることができました.
火星の場合は, ダスト(砂)によって渦を見ることができます.
写真は火星の北極付近の映像を表しています. 季節は秋です.
左から右に約2時間おきに撮影されたものです. 渦巻く流れが見られますね.
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次にダストストーム(砂あらし)という現象を見てみましょう.
写真はどちらも火星です.
左は普段の火星で, 表面の様子が見えています.
右はダストストームの時です. 巻き上がった砂が
火星全体をおおってしまい, 地表が見えなくなっています.
この現象は数年に1回発生します. 原因はよくわかっていません.
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このダストストームの様子を詳しく見てみましょう. 左上が2001年6月7日,
右下が8月26日です. 紫や青は空気が澄んでいること, 赤くなるほどダストが
多いことを示しています.
7月半ばから1月あまりの間, 火星全体がダストにおおわれています.
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このようなダストストームは火星だけで起きているのでしょうか?
春に多い「黄砂」は, 地球で見られるダストストームです.
写真は2002年3月21日の雲の様子です. 黄色の部分は中国の黄土地帯から
巻き上がった砂です. 随分広い範囲で見られますよね.
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地球のダストストームの様子を地上から撮った写真で見てみましょう.
左と右とは同じ場所の写真です. 火星の時と同様,
視界が悪くなっていますね.
下のグラフは風速の変化を示しています. 一番風が強い時には, 毎秒 10 m
近い風が吹いています. ちなみに毎秒 10 m というのは, オリンピックの 100 m
決勝に出場できる選手の足の速さだそうです.
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さて, 最後は金星です. 大きさは地球と同じ位です. 公転周期は地球の公転周期を
基準に年で示してありますが, 地球の1日で表すと約224日です.
金星では自転と公転の周期がほぼ等しいことになります.
地表気圧は地球の約100倍, 平均気温は477℃です(スライド中の絶対温度の単位
K(ケルビン) は間違い). 圧力鍋かオーブンに入っているようですね.
私達はとても生きていられません.
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このような高温高圧の金星の大気は, どのように動いているのでしょうか?
雲の速さから, 雲層付近では秒速 100 m という, 自転よりも速い風が
吹いていることがわかっています. 他方, 厚い雲の下でどのような風が吹いて
いるのかは, まだよくわかっていません. 探査機が金星表面に下りたことも
ありましたが, 厳しい環境のため, すぐに壊れてしまいました.
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わからないことの多い金星の大気を探ろうとする試みが,
日本の宇宙科学研究所を中心に計画されています.
2007年の探査機打ち上げを目標にしています. この計画が実現すれば,
さまざまな高度の金星大気の動きが明らかになると期待されます.
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4時間目のまとめです.
惑星によってさまざまな風が吹いていることがわかりました.
金星では自転よりも速いという不思議な風が吹いています.
また火星では大規模なダストストームや渦が見られました.
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以上で惑星の気象学, 1週目の授業を終ります.
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スライドで使用した画像は次のところから取得しました.
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Kuniko Egawa
2003-04-25
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