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惑星の気象学

[2週目 後半]

小高 正嗣(北大院理・地球惑星科学専攻助手)
odakker@gfd-dennou.org
2002 年 10 月 30 日
地球型惑星のうち, 大気をもつ金星・地球・火星の気象を取り上げます.


地球の隣の惑星, 金星・火星に, 人は住めると思いますか?
実は, どちらの星でも無理なのです. 火星は温度が低いのを がまんしても, 気圧が地球の 1/100 程度しかないので, 私達は体を維持することができません. 金星は表面気温が 500 ℃ 近くもあるので, こちらもだめです.


後半の講義では, それならばどうして私達は, 地球に住めるのか 考えていくことにしましょう.


ところで, 生物が存在できるために必要な物は何でしょう? 呼吸のための酸素, 光合成のための太陽エネルギーも考えられますが, 地球で初めに誕生した生物は酸素がなくても平気な, 光合成を行なわない 生物だったとされています. しかしそんな彼らも, 海があったから 誕生したと考えられています. 液体の水が重要なのです!


こちらの図はどのような温度・圧力ならば, 液体の水が存在できるのかを 表しています. 横軸には温度, 縦軸には圧力がとってあります. 橙色の線はそれぞれ, 火星と地球の表面気圧を表しています. この図から, 液体の水が存在するためには, 0 ℃(絶対温度で 273K)を越えることが重要だといえます.


ここで, 惑星の温度はどのようにして決まるのかを考えてみましょう. 太陽は惑星よりも高温なので, 惑星は太陽からエネルギーをもらうことは 想像できますね? こうして太陽からのエネルギーを受けながら惑星が 同じ温度を保つためには, 惑星から熱が出ていかなくてはなりません. こうして, 惑星が得る熱と惑星が失う熱が 釣りあっていると考えた時に決まる惑星の温度を, 有効放射温度といいます.


それではまずは惑星が得る熱をみてみましょう. 太陽から受けるエネルギーは, 太陽からの距離の2乗に反比例します. 表の左列の数字は, 太陽-地球間の距離を 1としたときの, 太陽-各惑星間の距離を示しています. そしてそれぞれの惑星が 太陽から受ける熱は, 右列の数字で, これも地球を1として示してあります. 金星は地球の2倍の熱を太陽から受けていることがわかります.


今度は惑星から出ていく熱を考えましょう. 惑星が放射によって失う熱は, 惑星の温度の4乗に比例します. 惑星の温度が高いほど, 宇宙に向けて 放出される熱も多くなります.


上のような考え方で求められた有効放射温度を白, 実際の惑星の温度を 黄色で示してあります. 地球は 35 ℃ ずれていますし, 金星は全く違う温度 ですよね?どうしてこのような差が出てくるのでしょうか?


実は惑星を取り巻く大気によって, 実際の惑星の温度はもっと高くなって いるのです. 太陽は高温なので波長の短い電磁波を出し, そのエネルギーを惑星は受けています. これに対し, 温度の低い惑星は, 波長の長い電磁波(赤外線)を宇宙空間へ放出して冷えています. 二酸化炭素や水蒸気などの気体は, 地球から出ていこうとする赤外線をよく 吸収します. そしてその分, 大気や惑星表面の温度は高くなります. この大気が惑星の温度を上げる働きは, 一般に 温室効果と呼ばれています.


こうして温室効果が働き, 高くなった惑星の温度を再び見てみましょう.
金星ではこんなに温室効果が働いているのでしょうか? 地球の温度は液体の水が存在できる程度まで上昇しました. 適度な 温室効果です. そして火星ではほとんど温室効果がないことが わかります. 惑星間でなぜこのように開きがでてくるのでしょうか?


金星は太陽に近いため, 地球に比べるともともと受け取る太陽放射の 量は多くなります. 大気がなければ太陽にあたためられて高温になった 分, 宇宙空間へも沢山の放射を出してもっと表面温度が下がる はずです. ところが金星の二酸化炭素を主成分とする大気はとても厚いため, 金星から出ていく放射は少なくなります. 金星の雲は硫酸でできて いますが, この硫酸の雲も温度を上げる働きをします.


生命の誕生に必要な液体の水, 海は金星にもあったのでしょうか? 専門的な話になりますが, 大気中の水素の同位体比, また金星大気に 含まれる微量の水蒸気から, 昔は金星にも海が存在したようです. しかし温室効果が強すぎたために海の水はどんどん蒸発し, 水蒸気は原子に分解されて宇宙空間へ散逸してしまったと 考えられています.


次に火星について見てみましょう.
火星は太陽から遠いため、受け取る放射量がもともと少なくなります. また火星大気は, 温室効果気体である 二酸化炭素が主成分ですが, 大気の量が少ないために少ししか地表温度は 上がりません.


温室効果のあまり働かない火星には, 海は存在したのでしょうか?
火星表面の地形から, 昔はあったといわれています. しかし水は蒸発したか, 凍って地下に氷として存在しているかの どちらかだろうと考えられています.


それでは海があった証拠と考えられる, 火星表面の地形を見てみましょう. 左側は洪水の跡のように見えます. 中央の中洲のような地形に注目して 下さい. 写真の下から上へ向かって, 水が流れたように見えます. いくつか見られる丸いくぼみはクレーターです.
右の写真はもっと広い場所について見たものです. 樹形図あるいは網目のような地形がありますね?河川によく似ています. 火星にはこのような地形がいくつもあるため、昔の火星には海が あったと考えられています.


こちらは, 火星表面の高度についての観測データを図で表した ものです. 四角の図は縦軸が緯度(上が北, 下が南), 横軸が 経度です. 赤〜灰色が高度の高い場所, 青にいくにつれて高度が 低い場所を表します. これを見ると南半球ではオレンジ〜赤色で 高度が高くなっています. 対照的に北半球では大部分が 青色で低地となっており, 高度の変化もあまりありません. これは昔, 北半球に海があり, 表面のでこぼこが削りとられた ために平らなのではないかと考えられています.
上の円状の図は, 左が南極付近, 右が北極付近の様子を示しています.


最後に地球を見てみましょう.
地球は金星や火星の中間の, 太陽から ちょうどよい距離に位置しています. 地球には現在も液体の水, 海があります.
地球では長い間, 海を維持することができたため, 海の中で生命が 誕生し, やがて光合成をおこなう生命が生まれ, やはり長い時間を かけて酸素の多い大気が作られました. このような歴史があって, 私達は今, 地球上で生きているのです.


これで惑星の気象学の講義はおしまいです.

質問が二つ出されました.
Q. 金星・火星にはオゾン層はありますか?
A. ありません. 金星や火星の大気には, オゾンの材料である 酸素がほとんど存在しないからです.
Q. 火星には季節がありますか?
A. あります. 火星の自転軸は公転面に対してちょうど地球と 同じくらい傾いています. したがって火星にも四季 (季節)があります.



このスライドで用いた画像は, 次の場所から入手したものです.


Kuniko Egawa 2003-04-25