■高大連携授業の実現に向けて
[我々は何が求められ, 何を提供できるのか?]
・ 生徒の知的好奇心や学ぶ意欲を喚起する.(理科離れの抑止力)
- 高校で学ぶ基礎知識の先にあるものを提示.(基礎知識習得の意義を提示)
- 最先端の研究に触れる機会を提供.
- 科学的思考に触れる機会を提供.
*地球惑星科学の特徴を生かした情報の提供.
[乗り越えなければならないハードル]
・ 基本的には単発の授業であるため,継続的に知識の理解を深めることはできない.
・ 研究の背景や基礎知識を知らない初対面の受講者に講義する.
いかに,かぎられた時間で有意義な授業を行うか?
教える側が生徒の目線に立って,興味関心を引くための努力を積極的に行わなければならない.
本プロジェクトでは学生スタッフ(=高校生に近い立場の人間)が,高校側の情報収集や授業内容のアドバイザーとして,教官と共同で高校生向けの教材作りを進めた.
■今回の授業の概要
今回は以下のようなスケジュールで,岡山県立鴨方高校の『宇宙の科学』履修者(3年生・文系)を対象として授業を行った.( 通常授業の1部として組み込まれた.)
[ 第 1 回 ]
10 月 23 日 (3-4 限目) | 月の科学: 倉本 圭助教授 |
24 日 (3-4 限目) | 惑星の気象学:小高 正嗣助手 |
[ 第 2 回 ]
10 月 30 日 (3-4 限目) | 惑星の気象学: 小高 正嗣助手 |
31 日 (3-4 限目) | 月の科学: 倉本 圭助教授 |
■授業目標の設定
受講者全員が理解できる授業をつくることができるか?
⇒生徒それぞれの興味関心,学力は違う!
受講者全員が心に残る授業,興味を引く授業をつくる.
・ 一方通行ではなく,双方向(会話,質疑応答)の授業をすることによって,生徒の知的好奇心を刺激する.
・ それぞれの生徒が,最低一つでも印象に残るトピックスや資料を提供する.
■授業作り
1.受講生の情報収集
- 受講生の持っている興味感心,理系 or 文系.
- 受講生の持っている基礎知識の程度.
- 授業進度,遠隔授業前までに学習する内容.
- クラス構成 ( 人数,男女構成 ) .
2.授業方針の設定
- ひとまず講師陣に大雑把な授業原案を作成してもらう.
- 講義に必要な基礎知識,専門用語の洗い出し.
- 受講生の情報と照らし合わせて,適切なレベルを設定.
- 内容の厳選.
3.ストーリー・授業スライド作り
基本的には,講師にストーリー・授業スライド原案を考えてもらい,学生スタッフや高校の先生と議論しながら練っていく.
・ 全体構成の注意点
- 授業全体をいくつかのセクション(前半,後半等)に分ける.
- セクション毎に確認ポイントやまとめを設ける.
- 画像,動画など視覚的に理解できる資料を多く使う.
- しゃべる,スライドを見せる,質問する,白板で図解するを効果的に組み合わせて,動きにメリハリのある授業を目指す.
・ 生徒の声を取り入れた授業
- 事前に授業に関する簡単な質問等を行い,生徒の考えや疑問点を把握する.
月のスケッチ課題
月のアンケート
ここから得られた生徒のコメントや回答を, 授業内容に反映したり, 授業時の生徒への質問の糸口にした.
- ストーリー中にあらかじめ質問ポイントを設けておく.
- 生徒がなるべく直感で答えられる質問を用意しておく.
- 過去の授業内容をある程度把握しておく.
4.リハーサル
・ 全体の流れを確認.
・ 生徒が快適に受講できるよう以下の点をチェックする.
- スライドの文字や画像の見やすさ.
- 誤解を与えない指示棒の指し方.
- 言葉使い.
■実際の授業進行
以下に, 今回の授業進行上有効と思われたものを上げる.
・ 講師補助資料
- 座席表や生徒名簿.(今回活用)
- アンケートの集計表.(今回活用)
- 生徒が普段の授業で使っている資料やノート.
・ 授業を盛り上げるために
- 講師の掛け合い役 ( 学生スタッフなど ).
■生徒の声
授業後アンケートで集めた生徒のコメントです.大きく以下の項目にわけてまとめました.
今回の授業の雰囲気, 内容に関する全体的な評価や印象
普段とは違う先生,違う内容という新鮮さが生徒の学習意欲を高めたようです.
- いつもとは違う授業で楽しかった.
- いつもと違う先生だったのでよく聞けた.新鮮だった.
- 大学の先生はもっとおかたい感じかと思ったけど, 笑い上戸でおもしろかった.
- いい緊張感だった. いつもより勉強する気になった.
- いつもの授業よりマジメにやらんとって感じでマジメにとりくめた.
- 知らない先生に会い, 教えてもらうのがよい.
授業の難易度, 進め方に関する評価, 印象
おおむね,わかりやすい解説だったという評価をもらえました.
- 想像以上におもしろかったし, わかりやすかったです.
- 全体的にわかりやすい授業だったと思います.
- 難しくて説明が良く分からないときがあった.
- むずかしげな内容でも聞く気がしたし, 楽しく聞けた!!
- ひとつひとつ分かりやすく説明してもらって, すごくためになりました.
- その時その時のわからないことに対応してくれる.
- もっと質問したいけど質問できる空気になってほしい.
- 少しむずかしくてわからないこともあったけど絵にかいてもらったりビデオを見たりするとすごくわかりやすかった.
生徒は何を理解し,何を知りたくなったか?
- 遠い惑星の事を調べている, 現代の科学は凄いと思った.
- いろんな惑星の内側を覗いてみたい.
- 宇宙はどこまで宇宙なんですか?
- 将来的に他の惑星に住めるどうか知りたい.
- 私この分野苦手なの.けど地球に住んでいるからもっと地球のこと知りたいかなって.
- 火星でも育つ植物はあるのか.
- 火星・金星の年齢
- 水はどうやってできたのか知りたい
その他
■授業教材の公開
今回の活動で得られたものを, 今後も教育の場で再利用できるようコンテンツを整理し公開する.
・ 授業スライド: スライド毎に脚注を付け一覧にする.
・ 素材集: 授業で用いた画像等の取得先のリスト化.
・ Web参考資料: 興味を持った生徒が自分で調べ学習できる環境の提供.
■まとめ
最終更新 2002 年 11 月 22 日
千葉 ゆきこ(yukiko@taiki.ep.sci.hokudai.ac.jp) |