用語解説:
アルケノンの炭素同位体比
過去の大気CO2濃度の復元

過去の大気中の二酸化炭素(CO2)濃度を定量的に復元する方法として、ホウ素同位体比、葉の気孔密度指数、有機物の炭酸固定における炭素同位体分別による3つの方法が挙げられる。その中で有機物の炭素同位体分別に関連して、海底堆積物中の長鎖アルケノンの炭素同位体比(δ13C)を用いた方法が高感度でより信頼性の高い指標として使われている。それは以下のようにして,過去の大気CO2濃度を推定する。
海水中の溶存無機炭素(dissolved inorganic carbon; DIC)は、CO2、HCO3-、およびCO32-の化学平衡状態で存在する。アルケノンを合成するハプト藻などの微細藻類は,圧倒的に大きな割合で存在するHCO3-ではなく、分子状のCO2を光合成の基質として吸収し、C3型の炭酸固定回路によってそれを固定していくことがわかっている。C3型の炭酸固定による同位体分別(εp)と、藻類の細胞内外のCO2濃度との関係は次のように示される。

εp =εt + (Ci / Ce) (εf - εt) ・・・(1)

εtは細胞外のCO2が細胞内へ輸送されるときの同位体効果による分別、εfは細胞内での酵素Rubisco(Ribulose- 1, 5- bisphophate carboxylase / oxygenase)による固定時における同位体分別を示す。CiとCeはそれぞれ細胞内外のCO2濃度である。
Jasper et al.(1993)は、(1)式の修正案をまとめて次のように示した。

εp =εf +(γ/Ce) (εt - εf), γ= Ce - Ci ・・・(2)

さらに、a=εf、b=γ/(εt - εf)として次式のように簡略化した。

εp = a + b / Ce ・・・(3)

aとbを定数として、εpからCe、すなわち藻細胞の周囲の溶存CO2濃度が求められることがわかる。ここで堆積物中に含まれるアルケノンと浮遊性有孔虫の石灰殻それぞれの炭素同位体比(δ13C)の差からεpを算出する。この方法により海底堆積物コアから連続的な大気二酸化炭素濃度データを得て,その年代変動を復元している。
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