研究内容
固体天体の内部構造と進化について研究しています
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水星
Image credit: NASA/JHUAPL/CIW
水星は、太陽に最も近く、最も小さな惑星です。 灰色で、たくさんの衝突クレーターに覆われたその表面は月と似ていますが、中身は大きく異なります。 月は大部分が岩石でできていますが、水星は大部分が金属(主に鉄)でできており、表面を覆う岩石層(地殻)は非常に薄いのです。 その岩石部分について少し詳しく調べると、月や他の地球型惑星とは異なった元素組成を持っていることが分かります。 このような特異な惑星の内部構造や起源・進化を調べることで、内側太陽系の初期進化や、岩石天体の集積期の様子などがよりよく分かると考えられています。
水星の内部構造を探る鍵の一つが、潮汐応答です。 水星の表面には海はないので、上下するのは海面ではなく地面です。 つまり、天体の扁平率(球のつぶれ具合)が変わるのです。 この天体の扁平率変化に伴う重力場の扁平率変化が、探査機の精密な追跡データの解析によって明らかになっています。 これが重力場の潮汐応答です。 現在、一体どのような内部構造(組成や温度など)なら観測された重力場の潮汐応答を再現できるのかという観点で、水星の内部構造を調べています。
月
Image credit: NASA
月は最も身近で観測データが豊富にある天体です。 大気・海洋がないために風化・浸食がなく、数十億年前の地質が今もくっきりと残っていると考えられています。 この地球より単純なシステムである月は、惑星の初期進化理解にとって格好の天体と考えられます。
惑星進化過程の中で最も基本的なプロセスである熱進化を読み解く鍵の一つとして、衝突盆地と呼ばれる巨大クレーターの長期変形に着目しています。 もし衝突盆地形成時に内部が高温であれば緩和が進行し、現在の地殻は平らになるはずです。 一方で、もし衝突盆地形成時に地下が非常に冷たかったならば緩和は起こらず、今も衝突によってできた同心円構造が残るはずです。 実際に、月の衝突盆地の約半数はほぼ緩和しきっている一方で、残り半数は同心円構造がはっきりと見て取れます。
我々は日本の月探査衛星「かぐや」で得られた地形・重力場データと、様々な熱進化モデルにおける地形緩和計算の結果を比較することで、同心円構造を残す衝突盆地ができた時代の内部の温度構造を制約しました。 この過去の温度についての情報から、地下にある放射性元素の量についても制約することができました。 放射性元素の壊変熱は天体進化における主要な熱源なので、これを知ることは天体進化の全体像把握に重要な意味を持ちます。
さらに、「LRO」や「GRAIL」の観測データも活用し、初期の月で形成された衝突盆地の年代やマグマオーシャン固化との関係なども明らかにしました。 現在は、これまでに得られた結果を元に、太陽系における巨大衝突史の研究を進めています。
小惑星
Image credit: JAXA, U. Tokyo & collaborators
太陽系には数え切れないほど多くの小惑星が存在しています。 大部分は火星と木星の軌道の間にある小惑星帯という場所に存在していますが、地球軌道のすぐそばを回る小惑星もたくさんあります。 このような小惑星は地球近傍小惑星と呼ばれており、科学的な興味はもちろん、地球防衛の観点からも注視されている天体です。
地球近傍小惑星を調査する探査機の一つが「はやぶさ2」です。 我々は、この「はやぶさ2」に搭載されたレーザー高度計LIDARの運用を行っています。 これはレーザーを照射し、戻ってくるまでの時間を計測することで探査機と対象の距離を正確に求める装置です。 2026年7月5日、はやぶさ2は小惑星トリフネに、高速で極めて近い距離まで接近しました。 その際、我々はLIDARを用いて距離測定を行いました。 このような小惑星フライバイ観測におけるレーザー測距は、世界初の試みでした。 この成功には非常に大きな技術的な意義があり、JAXA、北大をはじめとするLIDARチームメンバー所属機関から共同でプレスリリースを発表しました。
現在、LIDARデータと他の観測機器で得られたデータを組み合わせることで、トリフネフライバイにおけるサイエンス成果の創出に取り組んでいます。
氷衛星
Image credit: NASA/JPL/SSI
木星軌道以遠には、氷を主成分とする天体が多数存在します。 特に巨大惑星の衛星のほとんどはそのような天体で、氷衛星と呼ばれます。 木星系氷衛星エウロパや土星系氷衛星エンセラダスなどの地下には全球的な液体の層(内部海)が存在すると考えられており、その形成・維持の仕組みは惑星科学の重要なテーマの一つです。
我々は潮汐変形や潮汐加熱に着目し、氷衛星の内部構造と熱進化を研究しています。 内部海の運動を考慮した数値モデルにより、内部海がある厚さまで薄くなると、潮汐変形が共鳴によって大きく増幅されることを示しました。 この共鳴は潮汐加熱を強めるため、内部海を長期間維持する重要な仕組みである可能性があります。
氷衛星における潮汐は非常に複雑です。 まず、固体層と固体層の間に液体層があります。 また、内部海のさらに下にある岩石できた層のひび割れには海水が染みこんでいるはずなので、固体と液体が共存する層もあります。 このような複雑な内部構造を持つ天体の潮汐応答を計算する理論的なフレームワークの構築を行うとともに、それを実装した計算プログラムの開発を行ってきました。
他にも、巨大惑星系で特徴的な衛星間相互作用なども考慮した、衛星系に対する潮汐加熱の果たす役割などを研究しています。 さらに、木星氷衛星探査ミッション「JUICE」や NASA の土星系氷衛星タイタン探査ミッション「Dragonfly」といった将来の氷衛星探査計画に参画するとともに、それらの探査対象天体の内部構造や長期進化の解明に向けた予備的な理論研究を進めています。
冥王星
Image credit: NASA/JHUAPL/SwRI
冥王星は、カイパーベルトと呼ばれる太陽系外縁領域にある大きな天体です。 冥王星を探査したNASAの New Horizons の観測データによって、冥王星に対する理解が深まると同時に謎も深まりました。 一つ目の謎は、氷でできた層 (氷地殻) の下に分厚い液体の層 (内部海) があることです。 太陽から遠く離れた非常に冷たい場所にあり、しかも熱源に乏しいため、冥王星の内部海はとうの昔に凍り付いたと考えられていました。 二つ目の謎は、氷地殻の厚さが局所的にずいぶんと薄くなっていることです。 これまでの研究からは、氷地殻は短時間で平らになってしまうと予想されていたのです。 また、冥王星表面の化学組成がカイパーベルト由来の彗星と大きく異なっていることも冥王星の謎の一つです。
我々は、これらの謎を統一的に説明することに成功しました。 鍵となるのはガスハイドレート(包接水和物)です。 この物質が冥王星の氷地殻と内部海の間に薄く存在すると、断熱材のような働きによって内部海を長期間維持できる一方、氷地殻は十分に冷えて硬くなります。 また、ガスを選択的に取り込む性質によって、表面の化学組成も説明できることを示しました。
我々は冥王星研究を通して、内部海を維持するための一般的なメカニズムを発見しました。 冥王星以外の氷天体でもガスハイドレートの形成条件を満たすものがあり、そこでも内部海の維持にガスハイドレートが重要な働きをしている可能性があります。 そのことを踏まえて、現在、大型の氷衛星の熱進化についての研究を進めています。
共同研究者である関根教授による本研究の解説記事はこちらでご覧いただけます。 また、研究メンバーとの出会いや研究の進み方など、本研究の「裏側」についてはこちらの記事でご紹介いただいております。 どちらも是非ご覧ください。
本研究については、プレスリリース (和文・英文)、並びに記者会見を行いました。 また、出版社であるシュプリンガー・ネイチャー社によるハイライトに加え、多数の国内外のメディアで取り上げていただいております。 以下に取材対応しました記事一覧をまとめております。
取材対応一覧
- NHK (2019年5月21日の朝・昼のニュースとして北海道内で放送)
- NHK BSプレミアム:コズミック フロント☆NEXT 「オーシャンワールド 太陽系の知られざる姿」 (2020年10月22日放送)
- 時事通信
- Yahoo! ニュース (時事通信社の記事を掲載)
- 日経新聞 (共同通信記事)
- 読売新聞 (2019年6月2日の全国版朝刊科学欄に掲載)
- 朝日新聞 (2019年6月6日の全国版朝刊科学欄に掲載)
- PBS NOVA (米国)
- Courthouse News (米国)
- BBC Sky at Night Magazine (英国)
- Gizmodo (米国)
- Cosmos Magazine (オーストラリア)
- Popular Science (米国)
- Chemistry World (英国)
- Weekendavisen (デンマーク)
- Asia Research News (英国)
探査ミッション
Image credit: ESA/ATG medialab
国内外の多数の固体天体探査ミッションに関わってきています。 JAXAの月探査ミッション「かぐや」では、重力場計測チームRSAT/VRADのメンバーとして子衛星「おきな」「おうな」の運用と、それらから得たデータ(Same-beam VLBI)の解析を行いました。
ESA/JAXAの国際共同水星探査ミッション「BepiColombo」ではミッションのサイエンスをリードする、日本人で唯一の学際研究者 (Interdisciplinary Scientist) であり、主に欧州側の探査機MPOによるサイエンス成果創出に向け取り組んでいます。 2026年4月には同ミッションの科学者全体会合を北海道大学の学術交流会館にて主催しました。 JAXAの小惑星探査ミッション「はやぶさ2#」(はやぶさ2がリュウグウ試料を地球に持ち帰るという当初の目的を果たした後に始まった拡張ミッション)では、レーザー高度計LIDARのチームリーダーを務め、小惑星トリフネのフライバイ探査に際して世界初の小惑星フライバイレーザー測距を成功に導きました。
そのほか、ESAが主導しJAXAも参画する国際共同木星系氷衛星探査ミッション「JUICE」では, レーザー高度計GALAの共同研究者およびJUICE日本側研究者グループ「JUICE-Japan」のメンバーとしてメンバーとして活動しています。NASAの土星系氷衛星タイタン探査ミッション「Dragonfly」では地震計 DraGMetSEIS のミッション・コラボレーター/JAXA宇宙科学研究所内プロジェクトチーム員チーム員を務めています。また、JAXAの火星衛星探査ミッション「MMX」では測地科学戦略チームG-SSTの共同研究者として、 NASAの太陽系外縁天体ミッション「New Horizons」ではサイエンス・コラボレーターとしてサイエンス成果創出に協力しています。
他にも、JAXAの超小型外惑星探査計画「OPENS」や次世代小天体サンプルリターンミッション「NGSR」といった将来の固体天体ミッションのサイエンス検討に協力しています。