DM2 ゼミ 要旨 2005


04/13 (水) 13:30- 杉山 耕一朗

タイトル:

自由エネルギー最小化法による木星型惑星大気の断熱構造の数値計算

要旨:

ギブス自由エネルギー最小化法を用いた湿潤断熱減率計算手法を開発 し, 木星大気および天王星大気の可凝縮成分の存在度に対する静的安 定度の依存性を調べた. 静的安定度を湿潤断熱減率と乾燥断熱減率と の差によって見積もった. 我々の計算方法は従来の計算に比べ, 予 め大気中で生じ得る化学反応を把握しておく必要がないという点で優 れており, 組成に関するパラメタ研究に向いている.

計算の結果, 天王星大気の静的安定度に寄与する化学種は CH$_4$ で あった. 水の存在度を太陽系元素存在度よりも大きくすると静的安 定度と水の存在度との比例関係は成り立たなくなる. さらに水の存在 度を増加させると静的安定度はある一定の値に近付く. この原因は, 湿潤断熱減率には大気成分をほとんど水であると近似した場合に与え られる上限値が存在し, 水の量をふやすとともにこの値に漸近するた めである. 静的安定度の上限値を用いてシューメーカー・レビー第 9 彗星の木星衝突時に観測された波の位相速度を説明することは困難で ある.

発表資料:

http://www.ep.sci.hokudai.ac.jp/~dm2semi/2005/0413/pub/


04/20 (水) 13:30- 福井 隆

タイトル:

円盤降着率変化による原始惑星系円盤の酸素同位体・化学組成進化

要旨:

この 30 年程の間に, 太陽系形成の素過程がかなり詳細に調べられて きた. これらの素過程を積み重ねることにより構築された太陽系形成 論は, 現在の太陽系の姿を大筋で再現することに成功している. その 一方で, 形成論がいまだ説明できていない太陽系の特徴もかなり多く 残されている. その 1 つの例は, 太陽系物質の同位体的・化学的な 特徴である. 惑星原物質である隕石には, 非質量依存性の酸素同位体 分別や, 酸化的物質・還元的物質の共存, といった特徴が見られるが, その成因はよく分かっていない. 本研究の目的は, 始源的隕石に見ら れるこれらの特徴を統一的に説明することである.

中心星への降着が起きている原始惑星系円盤では, ガス抵抗の存在に よりダストの動径移動速度はガスのそれよりも大きい. ダスト/ガス 速度比は円盤降着率に依存し, 降着が弱まるにつれ大きくなる. ダス ト成分は周囲の温度が自身の融点を超えた時点で蒸発を開始する. ダ ストとガスの速度差により, 蒸発物質は円盤内側領域で濃集する. 降 着が時間とともに弱まるにつれ, ダスト成分の濃集度は大きくなる.

このような過程により, 上述の特徴を説明することが出来るだろう. 分子雲における光化学反応により, 気相 (CO) - 固相 (水氷) 間で酸 素同位体の非質量依存分別が起こることが知られている. 降着が強い 段階では水の濃集度は小さく, 円盤内側領域の同位体組成は分子雲と 等しくなる. 降着が弱まるにつれ, 円盤の同位体組成は水のそれに近 づくようになる. こうして, 同位体分別の問題が説明できるだろう. 固体成分として有機物も考慮することにより, 酸化還元状態の問題も 説明できる可能性がある. 融点の差により水氷と有機物の蒸発地点は 異なる. 有機物の蒸発域は比較的還元的な環境, 水氷のそれは酸化的 な環境となる. 円盤ガスの移流拡散を計算すると, 定常的な降着の場 合は円盤最内縁領域は常に酸化的環境となってしまう. しかし, 降着 率が急激に減少するような場合を考えると, そこに一時的に還元的な 環境を形成することができる.

このようにして, 隕石の持つ 2 つの異なる特徴を 1 つの物理過程で 説明できる可能性がある.

発表資料:

http://www.ep.sci.hokudai.ac.jp/~dm2semi/2005/0419/DM2_0504.pdf


04/27 (水) 13:00- 森川 靖大

タイトル:

惑星大気大循環モデル DCPAM の開発: データ I/O ライブラリの改良および力学コアの設計と実装

要旨:

モデル設定の可変性とソースコードの可読性を合わせ持った大気大循 環モデル(GCM) の姿を模索するべく, 新たにその力学コアの設計を行 い, そのプログラム実装と試験計算を行った. 可読性の向上によりプ ログラムの改良や変更のコストの削減が期待され, 可変性の向上によ りプログラムの追加や既に組み込まれているプログラムの分離を容易 にすることが期待できる. モデル設定の容易な切り替えが可能な GCM を用いることにより, さまざまな惑星大気の条件に応じた数値計 算を実行し, 比較惑星科学的な見地からの惑星大気構造の考察を進め ることができると期待される.

力学コアの設計では, Fortran90 の機能を積極的に活かすことで内部 構造の階層化を行い, 可変性を高めた. 特にデータの入出力部分をラ イブラリ化し, 演算部分を分離したことにより, 入出力部分のコード の簡素化に成功した. さらに変数命名やコーディングの際の規則を 定めることで可読性を高めた. RD を用いることでドキュメントの自 動生成も可能となった. 力学コアの動作試験として, Held and Suarez (1994) の GCM 力学コアのベンチマークテストを行い, モデ ルの力学コア部分の検証を行った.

発表資料:

http://www.ep.sci.hokudai.ac.jp/~dm2semi/2005/0427/pub/dm2semi_dcpam.html


05/11 (水) 13:30- 樋山 克明

タイトル:

酸化的な物質を考慮したイオの組成と内部構造について

要旨:

探査機ガリレオにより求められた慣性能率の値はガリレオ衛星の内部構 造モデルに強い制約を与えた(Anderson et al.1996,1998,2001).しか し,それらのモデルの多くは地球の内部構造の常識を意識したものにな っており,マントル組成はかんらん石で代表させ,コア組成は金属鉄ま たは Fe-FeS の共融組成を仮定している.しかし,これらのモデルには 2 つの問題点がある.1 つ目は元素組成の単純化の妥当性の問題.2 つ 目は Fe と Sの酸化還元状態の問題である.そこで本研究では,酸化的 な物質を考慮に入れたイオの組成と内部構造を考える.イオは他のガリ レオ衛星に比べて最も単純な系と考えられる.このイオを出発点に,イ オ組成の岩石核の周囲を氷層で覆ったエウロパのモデルなど,他のガリ レオ衛星の内部構造の基礎を与えることができる.

モデル:太陽系元素存在度(Anders and Grevesse 1989)において Siに対 して原子数が 1/1000以上存在し,常温常圧で酸化物,金属,硫化物とし て存在する元素について,Oの存在度をパラメータとして鉱物組み合わせ の計算を行った.Fe のみは Holwege et al(1990)の太陽系元素存在度の 値(logN(Fe)=7.48±0.09)を用い,エラーバーの上限と下限についても同 様の計算を行った.鉄と硫黄の酸化に伴う相の変化は1200 K でのFe-S-O 系の相図(Lewis 1982)に従うとした.これにより得られたFeO と MgO と 他の元素については,ノルム計算の規則に従うものとした.鉱物をマン トル,核に分別し,各層の質量比と平均密度から慣性能率を求めた.

結果:Feが全てFe-FeS からなる系から出発し,徐々に系のOの割合を増 加させると,マントルとコアの組成および慣性能率の変化は,主に 4 つ の段階に分けることができた.3 段階目である FeS がすべて酸化され, 次に FeO が酸化されてマグネタイトが生じる段階で,現在求められてい るイオの平均密度と慣性能率にに近い値を示した.太陽系元素存在度か ら推定した鉱物組み合わせの酸化還元状態を変えることにより,イオの 平均密度と慣性能率を示すことができる可能性が示された.

発表資料:

http://www.ep.sci.hokudai.ac.jp/~dm2semi/2005/0511/pub/index.html


06/01 (水) 13:30- 光田 千紘

タイトル:

初期火星における二酸化炭素氷雲の温暖化: 雲面密度の推定

要旨:

地形学的証拠から約 38 億年前の火星は液体の水が地表面で安定に存在で きるほど温暖であったと推測されているが, そのメカニズムについては未 だ解明されていない. 当時の大気は現在と同様に光化学的に安定な二酸化 炭素が大部分を占めていたと考えられる. しかし, 火星が厚い二酸化炭素 大気を持っていたとしても, 当時の暗い太陽の下では二酸化炭素自身の凝 結潜熱によって大気上層の温度が上昇し, その結果, 雲の放射過程を無視 した場合には温室効果が弱まり温暖な気候は再現されないことが指摘され ている(Kasting, 1991). そこで近年注目されているのが, 二酸化炭素氷 雲による散乱温室効果である(Pierrehumbert and Erlick, 1998).

従来の研究では氷雲による温室効果は大気圧のみならず雲パラメータ(雲 粒半径, 雲面密度)に強く依存すること, 適切な雲パラメータの場合には 温暖湿潤な気候が再現され得ることが示された(Pierrehumbert and Erlick, 1998; Mischna et al, 2002; Yokohata et al, 2002). しかし, 実際にどのようなパラメータ値が実現され得るのかにつ いてはこれまでほとんど調べられていない.

そこで本研究では放射伝達計算から雲の凝結潜熱を求め, 凝結蒸発平衡の 条件を課すことにより雲面密度の推定を行い, 温暖湿潤な気候が再現され る為に必要な大気圧条件について検討した. その結果, 温暖湿潤な気候が 再現される為にはおよそ 1 気圧以上の大気圧が必要となることがわかっ た.

発表資料:

http://www.ep.sci.hokudai.ac.jp/~dm2semi/2005/0601/DM2_20050601.pdf
http://www.ep.sci.hokudai.ac.jp/~dm2semi/2005/0601/DM2_20050601.mov


06/08 (水) 13:30- 北守 太一

タイトル:

Toigo et al. (2003) による火星用非静力学モデルを用いた火星ダストデビル再現実験

要旨:

非静力学モデルは鉛直方向の運動方程式に静水圧近似を施さない流体モデルである. そのため, 非静力学モデルは対流現象を陽に表現することができるという特徴がある. この非静力学モデルを用いて火星大気における対流現象にアプローチする研究が近年行われている. 本発表では火星用非静力学モデルを用いた計算の一例として Toigo et al. (2003) によるダストデビルの再現実験を紹介する.

発表の前半ではまず導入として, 火星用非静力学モデルについての解説を行う. 具体的には, 非静力学モデルの概要と火星用非静力学モデルである Mars MM5 (Toigo et al, 2002) について触れる. また, 我々が現在開発している非静力学モデルである deepconv/arare についても触れる.

発表の後半では Toigo et al. (2003) によるダストデビル再現実験の内容を紹介する. 背景風の強さを変えて計算を行ったところ, 背景風の有無に関わらずダストデビルが発生した. この結果から Toigoらはダストデビルの発生に関して背景風の存在はあまり影響しないであろうことを示唆している.

発表資料:

http://www.ep.sci.hokudai.ac.jp/~dm2semi/2005/0608/html/dm2semi_2005-06-08_kitamo.html


06/22 (水) 13:30- 小松 研吾

タイトル:

地球放射線帯の研究 ‐「つばさ」観測とモデリング‐

要旨:

放射線帯は、地球磁場に捕らわれ、地球の周囲にドーナツ状に分布す る高エネルギー粒子が集まった領域であり、主に数10keVから数MeV の電 子や数100keVから数10MeVの陽子からなる。放射線帯は1958年にVan Allen らによって発見された。発見当初、放射線帯は一般には安定に存在してい るものであると考えられてきたが、その後の人工衛星による観測によりそ の構造は地磁気の変化に伴って空間的にも時間的にも非常に激しく変動し ていることが明らかになってきた。

放射線帯粒子フラックスの変動(特に電子) について、これまでに多くの 研究・観測がなされ、粒子の生成・消滅のメカニズムが提案されてきた。 例えば、外部領域から地球方向への粒子の流入・拡散やそれに伴う加熱、 電磁場の擾乱によるその場での非断熱的な加熱・冷却、プラズマ圏内の波 動-粒子相互作用に伴うピッチ角散乱による粒子の大気降下などがあげら れる。しかし、どの過程が、どういった状況で、どのくらい支配的である かといった定量的な問題については未解明である。この問題を解決するた めには、さらに多くの観測データの解析や数値シミュレーションを行う必 要がある。

本研究ではまず、2002年2月4日に打ち上げられた衛星「つばさ」(MDS-1) による放射線帯粒子フラックスの観測データの解析を行い、放射線帯の全 体像と磁気嵐に伴う放射線帯粒子環境の変動について調べた。また、これ までに最もよく調べられている電子放射線帯に関する拡散係数や消滅率を 用いて1次元 Fokker-Planck 方程式を用いたradial diffusion モデルの 数値コードを作成し、外帯電子フラックスについて数値シミュレーション を行った。この結果と「つばさ」で得られた電子放射線帯のデータと比較 し、その再現性を調べた。

発表資料:

http://www.ep.sci.hokudai.ac.jp/~dm2semi/2005/0615/pub


06/22 (水) 13:30-15:30 小西 丈予

タイトル:

球面/回転乱流の研究

要旨:

回転球面上での流れのパターン形成について考える. 惑星規模の流体運動は, 惑星の自転効果や密度成層の効果のため, 準水平 2次元的となっており, 流体を回転球面上の 2 次元流体にモデル化することが考えられる. 発表の前半では, 回転球面上の 2次元乱流に関する数値実験の結果について, これまでの研究を紹介する.

また, 木星には惑星規模の東西方向帯状流が観測されている. その成因については, 浅いモデルと深いモデルの二説が唱えられており, 両方の立場を支持する研究が現在も行なわれている. 発表の後半では, 木星の帯状流を意識して最近行なわれた研究について紹介し, その問題点と課題について考えたい.

発表資料:

http://www.ep.sci.hokudai.ac.jp/~dm2semi/2005/0622/pub/


06/29 (水) 13:30- 15:30: 中神 雄一

タイトル:

タイタン大気進化過程のおさらいと H2 原始大気の可能性

要旨:

まず、タイタン大気の起源/進化の従来からのシナリオについて、 過去から現在へ順を追っていくつかの物理過程に注目しながら紹介 する。そして、これらの物理過程から予想される組成、同位体比と、 Cassini-Huygens より得られたデータを比較し、シナリオの妥当性 を検討する。

次に、従来のシナリオでは考慮されてこなかった、タイタンが原始 土星系星雲内で集積、形成した場合を考える。このとき、『H2 ガス の捕獲を伴う原始大気形成』、『太陽 EUV 放射による H2 大気の大 規模散逸』という二つの過程を新たに検討する必要がある。本発表で はこれら二つの過程について紹介し、従来のシナリオにおいてどのよ うに位置付けられるか議論したい。

発表資料:

http://www.ep.sci.hokudai.ac.jp/~dm2semi/2005/0629/pub


07/06 (水) 13:30- 15:30: 山田 学

タイトル:

電離圏起源重イオンダイナミクス研究の現状

要旨:

近年の衛星観測やレーダー観測から極域電離圏からは酸素イオンや窒 素分子イオンなどの重イオンが 流出しており, 地球近傍プラズマの 重要な要素となっていることが明らかとなってきた. 例えば, 磁気 嵐時のリングカレントにおいて, 電離層起源である酸素イオンが多く のエネルギーを担場合があり, 時としてプロトンよりも多くのリング カレントエネルギーを担うことがわかってきている. このことは, いままで H+ を中心に考えられてきた地球近傍のプラズマ環境の枠組 みを大きく変える可能性を秘めている.

いくつかの原因が複合的に絡み合い, 重イオンを磁気圏へと運んでい ることは確かであるが, 統一的な見解はない. どのように加速・加 熱が行われ, どこに輸送されるのか. その結果, プラズマ環境にど のような影響をあたえるのか. 酸素イオンを含んだプラズマは不安 定性を起こしやすくなり, サブストームの発生頻度が増加するという 理論研究がある一方, その傾向は見られなかったとする観測研究もあ る. このように電離圏起源の重イオンに関する研究は数多くの未解 明の問題がある.

今回の発表では, 以上のような重イオンのダイナミクスを知るために どのような研究が行われているのかを概観する.

発表資料:

http://www.ep.sci.hokudai.ac.jp/~dm2semi/2005/0706/dm2semi-20050706.pdf


07/13 (水) 13:00- 15:00: 山田 由貴子

タイトル:

赤道域降水階層構造の観測と数値実験

要旨:

地球の現実大気の赤道域降水構造及びその階層性は, 1970 年代の衛 星観測データや客観解析データの登場とスペクトル解析手法の導入, 1980 年代後半の観測データ高分解能化, 大気大循環モデルにおける 数値実験による示唆, によって認識されるようになった.

一方, 大気大循環モデルで表現されるべき降水構造については, 現在 もなお一致した見解が得られていない. 1980 年代後半に行なわれた 数値実験 (Hayashi and Sumi, 1986) では, 赤道域階層性を鮮やかに 示したが, その後行なわれた数多くの数値実験から, モデルの実装や そのパラメタに大きく依存することが分かっている.

本発表では, 赤道域降水構造に対する観測の歴史とモデルで表現され る降水構造の例について紹介する. また時間が許せば, 我々の研究目 的やこれまでの取り組みについて紹介したい.

発表資料:

http://www.ep.sci.hokudai.ac.jp/~dm2semi/2005/0713/pub


10/06 (木) 13:30- 15:30 ; 中神 雄一

タイトル:

原始 H2 大気散逸を想定したタイタン大気進化モデルの提案

要旨:

現在のタイタン大気は主成分の N2 が 1.5 気圧, CH4 0.06 気圧と N2 に富み, C, N の同位体比の研究からも過去においても N2 rich であったことが示唆され ている(Lunnine et al.,1999, Lammer et al.,2000). 一方で想定される大気起源 物質中の存在度は CH4 が N2 よりも大いことから, 大気進化の過程で両者の存在 度を逆転させるプロセスが存在したはずである. また、近年タイタンが形成した 土星系 subnebula の H2 分圧は従来の予想よりも高いことが指摘されており (M osqueira and Estrada,2003), subnebula の H2 を捕獲して形成される原始大気 は最大で数百気圧の地表面気圧を持つと見積もられる. この厚い原始 H2 大気は, subunebula の消失, 原始太陽からの EUV 加熱によって大規模に散逸可能性があ る.

本研究では N2, CH4 の存在度の逆転を説明するために subnebula 消失および EUV 加熱による H2 散逸フラックスを求め、CH4 が H2 に引きずられることによ って選択的に散逸する可能性を検討した. subnebula 消失に伴う散逸では大気は 静水圧平衡が維持されると仮定し, 大気上端の H2 分圧と大気質量の関係から散 逸フラックスを見積もった。一方, EUV による H2 散逸フラックスは、EUV 加熱 を考慮した一成分流体方程式を CIP 法で解き求めた. CH4 および N2 の散逸可 能性は、H2 と共に散逸できる最大の質量であるクロスオーバマス Mc (Hunten et al.,1987) から判断した. その結果 CH4 の選択的散逸の可能性があるのは, subnebula 消失時の散逸で, EUV 加熱による散逸は D/H の同位体分別を与える 程度であることが明らかとなった.

以上の結果から, 原始 H2 大気散逸を考慮したタイタン大気進化モデルを提案 する. このモデルでは N2, CH4 の存在度の逆転は subnebula 散逸時に生じたと 想定している. 発表では同位体比や N2, CH4 以外の大気組成からの制約踏まえ, このモデルの妥当性について議論したい.

発表資料:

http://www.ep.sci.hokudai.ac.jp/~dm2semi/2005/1006/pub/


10/13 (木) 13:30- 15:30 ; 杉山 耕一朗

タイトル:

木星雲対流モデル構築に向けた雲微物理過程に関するレビュー

要旨:

本発表では, 我々が現在制作中の木星雲対流モデルの現状と, それに組み込む予定の雲微物理過程を俯瞰する.

発表資料:

http://www.ep.sci.hokudai.ac.jp/~dm2semi/2005/1013/pub/


10/20 (木) 13:30- 15:30 ; 山田学

タイトル:

金星探査計画(PLANET-C)の概要と紫外イメージャ(UVI)開発の現状

要旨:

金星は軌道, 惑星半径などが地球に近いため, 姉妹惑星と呼ばれるこ ともあるが, 大気や地表の環境は全く異なるものである. 金星でどの ような物理が支配的であるのか? なぜ今の姿になったのか? こういっ た疑問に答えることは, 地球での知見を不偏化し, 未来の地球を知る 手がかりになると考えられている. しかしながら, 金星は厚い雲に覆 われた惑星であるために, 火星などと比較して, 雲より下の大気情報 が圧倒的に少ないのが現状である.

宇宙科学研究本部(ISAS)による金星探査計画(PLANET-C)は, この状態 を打破し, 金星大気の謎を説き明かすことを目指す世界初の本格的惑 星気象学ミッションである. 本発表では, PLANET-C のミッション概 要と, 北大惑星物理学研究室が担当している紫外線イメージャ(UVI) の開発現状を説明する.

発表資料:

http://www.ep.sci.hokudai.ac.jp/~dm2semi/2005/1020/dm2semi-20051020.pdf


10/27 (木) 13:30- 15:30 ; 小松 麻美

タイトル:

南極昭和基地の局地風

要旨:

この研究の目的は南極昭和基地周辺の局地循環を理解することである。

氷の塊の大陸や非常に低温な環境など他には見られない特徴を持つ南 極では局地風が重要な役割を担っている。しかし南極は地理的条件な どから観測点が少なく、現業天気図も少ない。そのため南極域では総 観場の理解に非常に有用な客観解析データの精度があまり良くないと されている。

南極大陸は斜面下降風であるカタバ風や、低気圧の影響を受け壁とな る山脈に沿って吹くバリア風などの局地風が顕著である。大陸沿岸に ある昭和基地でもこれらの局地風が吹いているが、これまで昭和基地 での局地風の詳しい解析はあまりなされてこなかった。

本研究では守田(1968)のカタバ風抽出条件を用いて昭和基地における カタバ風を調べた。その結果、一般的にカタバ風が多いとされている 冬以外の季節にもカタバ風が多く抽出された。夏季は日射の日変化に 伴い、高さ150〜200mの接地逆転層が夜間生成され、昼間に解消され ていた。夏季のカタバ風の時間スケールは小さかった。一方冬季は下 層の安定層が高く(高度5km以上)、高さ1.5〜2kmの強風層が数日間持 続している事例が多かった。 ゾンデ観測データから地上1〜2.5kmの 下層強風帯が冬季に多く検出されており、地上から250hPaまでの 10m/s以上の風速の極大の多くは高度1.5km 以下であった。

更に日本気象庁の全球客観解析データ(GANAL)とアメリカ環境予測セ ンター(NCEP)の再解析データを観測データと比較し、その精度を調べ たところ、昭和基地では地上を除きNCEPの方が誤差が少なかった。

発表資料:

http://www.ep.sci.hokudai.ac.jp/~dm2semi/2005/1027/pub/


11/17 (木) 14:00- 16:00 ; 福井 隆

タイトル:

原始太陽系における水と有機物の挙動

要旨:

この 30 年程の間に, 太陽系形成の素過程がかなり詳細に調べられてきた. これらの素過程を積み重ねることにより構築された惑星系形成論は, 現在 の太陽系の姿を大筋で再現することに成功している. その一方で, 形成論 がいまだ説明できていない太陽系の特徴もかなり多く残されている. その 1 つの例は, 始源的隕石の物質科学的な特徴である. 始源的隕石は多様な 化学的・同位体的特徴を示すが, それらの起源については不明な点が少な からず残されている. 本研究の目的は, 始源的隕石に見られるこれらの特 徴を制約条件として, 原始惑星系円盤の化学的・同位体的進化モデルを構 築することである.

今回の発表では最初に, この研究を行う上で基礎となる隕石学の知識をま とめる. 次に, 多岐にわたる始源的隕石の性質のうち, 酸素同位体組成と 酸化還元状態に関するもの (どちらも酸素, すなわち太陽組成において固 相で最も存在度の大きい元素) をピックアップし, それを再現し得る円盤 組成進化モデルを提示する. このモデルから得られる円盤組成進化のタイ ムスケールは, 隕石年代学から示唆される値と調和的である. また, 円盤 降着率が十分速やかに減衰する場合, 円盤最内縁部に一時的に還元的な環 境が生まれ, そこで SiC が形成される可能性がある. この物質の不均質 な付加が始源的隕石の酸化還元状態の多様性を生む一因になったと推測さ れる. 尚, これまでに見つかっている SiC は全て (?) 太陽系以前に起源 を持つものとされているが, 本モデルは太陽組成の SiC が存在すること を予言する.

時間に余裕があれば, 修論へ向けての課題や, ライバル研究者 (と私が 一方的に目している人々) の動向についても触れる予定である.

発表資料:

http://www.ep.sci.hokudai.ac.jp/~dm2semi/2005/1117/DM2_0511.pdf


12/01 (木) 14:00- 16:00 ; 樋山 克明

タイトル:

イオの酸化還元度と熱的状態

要旨:

  従来のイオのモデルの多くは地球の内部構造の常識を意識し たものになっており,マントル組成にMg rich なかんらん石を 代表させ,コア組成に金属鉄または Fe-FeS の共融組成を仮定 している(Anderson et al. 1996, Sohl et al.2002).しかし, これらのモデルには 2つの問題点がある.1つ目は Mg,Si の太 陽系元素存在度の問題である.太陽系元素存在度ではMg,Si の 量比はほぼ等しいので,かんらん石よりも輝石がより自然であ る.2つ目は Fe と S の酸化還元状態の問題である.そこで本 研究では酸化的な物質を考慮に入れたイオの組成と熱的状態に ついて考察した.

 まず主要な金属元素に太陽系元素存在度を与え,酸化還元度 を変えて鉱物組み合わせを計算した.その鉱物 を地殻,コア, マントルに分配して各層の密度から慣性能率を計算し,イオの 平均密度,慣性能率と比較した.酸化的な原材料物質を考える と,イオの平均密度を説明する組成として,コアにマグネタイ ト (66 wt %),トロイライト (32 wt%),マントルにエンスタタ イト(92wt%, Mg# = 97),地殻に MgSO4 (66 wt %), 長石 (30 wt %)という結果が得られた.イオ内部の温度圧力条件で,こ れらの組成が各層で存在できるかどうかを検討する.

  まず地殻に大量に存在する MgSO4 であるが,分解曲線とイ オ地殻の P-T 曲線 が近いため,MgSO4として存在でき,SO2 の 供給源になりうるであろう.マントルがエンスタタイトのみか らなるとすると ,リキダス温度は〜1800[K]である.観測され ている最高マグマ温度(1700[K] < 最高マグマ温度 < 2000[K]) と比較すると,高温マグマの生成可能といえる.コアでは, Fe3O4-FeS の共融組成の融解曲線を考える.今回の組成比での 融点は〜1800[K] である.圧力による融点の上昇は,< 100[K] とわずかであり,最高 マグマ温度と融点を比較すると,液体 の外核と固体の内核が存在しているかもしれない.温度をパラ メータにして,どのような核の組成になるか確かめてみる.

発表資料:

http://www.ep.sci.hokudai.ac.jp/~dm2semi/2005/1201/pub/


12/14 (水) 13:00 - 15:00 ; 北守 太一

タイトル:

火星CO2雲対流計算における雲物理の扱いについて

要旨:

火星大気にはドライアイスの雲が存在することが理論, 観測の両面か ら示唆されている. このドライアイスの雲は現在, あるいは過去の火 星の気候に対して重要な影響を及ぼしていると考えられている.

火星に限らず一般的に雲について理解する上で対流場の効果を考慮する ことは重要である. この効果についての知見を得るため, 現在, 非静力 学モデルを用いて火星の雲対流を計算しようと試みている.

本発表ではこの雲対流計算における雲物理の扱い方について解説す る. まず最初に基本的な気象学の教科書に記述されているレベルの雲物 理を簡潔に解説する. 続いてこれを火星大気に適用し, 簡単な雲物理 モデルの枠組の構築する. ここで凝結時間, 雲粒落下のスケールについ て簡単な見積もりを行い, 雲物理モデルを簡略化した. 最後に, 雲物 理モデルを数値計算する際の実際の手順についていくつかのポイントと なる事項を紹介する.

発表資料:

http://www.ep.sci.hokudai.ac.jp/~dm2semi/2005/1215/pub/dm2semi-20051215_kitamo.html


01/12 (木) 14:00- 16:00 ; 小松 研吾

タイトル:

放射線帯の研究 review

要旨:

放射線帯とは地球磁場に捕らわれた高エネルギーの荷電粒子が集まっ た領域である. その領域は高度約1000 kmから50000 km以上にわたって広 がっており, 主に数100 keVから数10 MeVの陽子や電子からなる. 放射線 帯はVan Allenらによって1958年に発見され, その後の衛星などによる多 くの観測から, 特に電子放射線帯に関しては, 磁気嵐などの磁気圏環境の 変化に伴いそのフラックスが空間的にも時間的にも激しく変動することが 知られるようになった. 放射線帯粒子の起源や加速・消失のメカニズムは これまでに多くの研究により様々な提案がなされているが, 定量的な側面 についての理解が未だ不十分である.

本発表では放射線帯の基本的な構造や変動の特徴について紹介し, 放 射線帯粒子の起源や加速・消失のメカニズムについてこれまでの研究 で提案されているものをまとめる. また, 最後に私の研究の進捗状況 について簡単に述べる予定である.

発表資料:

http://www.ep.sci.hokudai.ac.jp/~dm2semi/2005/0112/pub/


01/19 (木) 14:00- 16:00 ; 光田千紘

タイトル:

二酸化炭素大気をもつ古火星の気候メカニズムと雲による影響

要旨:

火星古気候は現在の寒冷乾燥な気候とは異なり, 液体のH2Oが地表面 に安定に存在できるほど温暖湿潤であった可能性が地形学的証拠から 示唆されている. 当時の太陽は恒星進化の理論から現在よりも暗かっ たと考えられており, その下で今よりも温暖な気候が示唆されている という矛盾は「火星版暗い太陽のパラドックス」として広く知られた 惑星気候学上の問題である.

古火星は, その光化学的安定性から現在と同じ二酸化炭素大気を保持 していたと考えられる. 二酸化炭素大気は窒素大気とは異な り, 大 気主成分が凝結可能であり, そのことが気候へも大きな変化を及ぼす と考えられる.

本発表ではまず二酸化炭素大気の一般性とその特性を窒素大気と比較 しつつ解説する. それをふまえ, 火星古気候研究について先行研究を 紹介し, 問題点を整理する. 最後に構築中の放射対流"凝結"平衡モデ ルの作戦と開発状況(と困っている点)について述べる予定である.

発表資料:

http://www.ep.sci.hokudai.ac.jp/~dm2semi/2005/0119/pub (DCPPT ver)
http://www.ep.sci.hokudai.ac.jp/~dm2semi/2005/0119/DM2_20060119.pdf (PDF Ver)


02/09 (木) 13:30- 15:30 ; 山田 由貴子

タイトル:

大気大循環モデルで表現される赤道域降水活動の構造解析

要旨:

地球の赤道大気には, 観測により階層的な構造 (Madden-Julian 振 動, クラウドクラスター, スーパークラスター) が存在すると言わ れている (Nakazawa, 1988). しかし大気大循環モデルで表現される 赤道域の降水分布パターンは, 解像度, 数値スキーム, 物理過程の 実装に強く依存することが分かってきており (Aqua-Planet Experiment workshop, 2005), また階層構造を形成する力学的機構 として一致した見解も今だ得られていない.

本研究では, 大気大循環モデルで表現される赤道域降水分布パター ンの多様性を探る試みのひとつとして, 水惑星条件における大気大 循環モデルのパラメタ依存性調査を行なっている. 大気大循環モデ ルに AFES を用い, 単純化の為に積雲パラメタリゼーションを排し て行なった水平解像度変更実験では, 解像度を T39L48 (水平格子間 隔 330 km 程度) から T159L48 (水平格子間隔 80 km 程度) へ上げ ると, 東西スケール 5000 km 程度の東進する降水構造とこの構造に 内包される東西スケール数 100 km 程度の西進構造, という階層構 造が, より明瞭に見られるようになった.

我々はこれまでに, 東進する降水構造の生成維持機構として Kelvin 波, 西進する降水構造の生成維持機構として, 西進重力波, 及び偏 東風による移流の効果を念頭において解析を行なってきた.

今回の発表では, 高解像度 (T159L48) 実験について行なった Wheeler and Kiladis (1999) に基づく時空間スペクトル解析, 高時 間分解能のデータを用いた赤道上鉛直循環構造のアニメーション, Wheeler and Kiladis (2000) を参考にして行なったスペクトルフィ ルターコンポジット解析の結果を紹介する.

発表資料:

http://www.ep.sci.hokudai.ac.jp/~dm2semi/2005/0209/pub


02/16 (木) 15:00- 16:30

タイトル:

RDoc を用いた Fortran90/95 プログラムのドキュメント生成

要旨:

ドキュメント自動生成ツール RDoc の Fortran90/95 ソースコード 解析機構の改良を行った. この改良された RDoc を用いることで, Fortran90/95 ソースコードから HTML 形式のリファレンスマニュア ルを自動作成できるようになる.

ドキュメントの整備は, 第三者へ提供可能なソフトウェアとして必 要であるのみならず, 開発及び保守の効率化にとっても重要である. しかし, 一方でその整備は非常に面倒な作業であり, そのコストの 軽減化に関しては様々な試みが行われてきた. Fortran90/95 におけ る試みの 1 つが, Ruby のライブラリの1つである RDoc の Fortran90/95 解析機能を使うというものである. RDoc 付属のソー スコード解析プログラムによってソースコード自体を解析し, HTML 生成プログラムによってコメント文に記載された文書と合わせて HTML 形式のドキュメントを作成する. しかしこの方法では関数や変 数などを抽出できないなどの問題がある.

本研究では RDoc の Fortran90/95 ソースコード解析機構の改良を 行い, 生成されるドキュメント (リファレンスマニュアル) に記載 される情報量を充実させた. 改良した RDoc は, Fortran90/95 ソー スコードからモジュール, サブルーチン, 関数, 変数, 定数などを 抽出し, それらの直後に書かれたコメント文と併合して HTML 形式 のドキュメントを自動生成する. モジュール間の依存関係も自動的 に解析してハイパーリンクとして反映する他, サブルーチンや関数 の引数の型なども自動的に解析される. この RDoc Fortran90/95 ソー スコード解析機能強化版は http://www.gfd-dennou.org/library/dcmodel/ にて公開されている.

発表資料:

http://www.ep.sci.hokudai.ac.jp/~dm2semi/2005/0216/pub/ [ PDF ]


10/06 (曜) 13:30- 15:30

タイトル:

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要旨:

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発表資料:

http://www.ep.sci.hokudai.ac.jp/~dm2semi/2005/0419/


最終更新日: 2006/02/17 森川 靖大