LSI (Lightning and Sprite Imager)


  JEM-GLIMSでは,雷発光と高高度放電発光を天底観測する。スプライトは雷放電発生後に約1 ms程度の遅延時間をもって発生することから, ビデオフレームレートで画像取得するカメラを用いた天底撮像観測では,両者を時間的に分離することができない。しかし, 異なる観測波長帯を2台のカメラによって撮像観測することで,これらを分離することが可能となる。このため, 検出器にCMOSセンサを用いた雷・スプライトカメラ ( LSI : Lightning and Sprite Imager) を2台搭載する [Sato et al., 2011a]。 Fig.1にLSIの写真を,Table 1にLSIの仕様をまとめる。

Picture of GLIMS Instruments
Fig.1 雷・スプライトカメラ (LSI)

Table 1 LSIの諸元
Item Values
Wavelength (LSI-1) 740 - 830 nm
Wavelength (LSI-2) 762 ± 5 nm
FOV 28.3°×28.3°
Optics F1.4, f=25mm
Detector CMOS (STAR-250)
Pixel Numer 512 × 512
Sensitivity 6.9 × 106 W/m2
Resolution 10 bit
Spatial Resolution 0.55 km/pix
Time Resolution 34.5, 8.6, 2.1 ms (selectable)
Dimension 185 × 87 × 75 mm3
Mass 0.7 kg
Power 0.8 W

  Fig.2は,雷放電の発光スペクトルを表す。 雷放電発光は可視域全体にわたってスペクトルのピークが出現するが,波長 740 - 830 nm の帯域にも窒素原子と酸素原子による発光輝線が存在する。 一方,Fig.3は,モデル計算により予測されているスプライトの発光スペクトル(黒線)と,大気の透過率(赤線)を示している。これによると, 波長 762 nm 付近の発光は酸素分子によって吸収され,大気の透過率が0.2程度と低い。また,波長 762 nm の窒素分子の発光はスプライト発光のなかでも最も強度が高い。 つまり,低高度の雷放電発光は酸素分子によって吸収され発光強度が減衰するが,酸素分子による吸収がほとんど寄与しない高高度で発生するスプライト光は, 発光強度がほぼ減衰しない。以上のことから,1台のカメ ラには波長 740 - 830 nm の広帯域フィルタを装着し,主に雷光を検出する。 もう1台のカメラには波長 762 nm で FWHM = 10 nm の狭帯域フィルタを装着し,主にスプライト光を検出する。このようにして,雷発光とスプライト 発光を同時に分離検出する。 このため,JEM-GLISMでは2台のカメラを開発し搭載することとする。カメラの検出器にはSTAR-250のCMOSセンサを用いる。このセンサを使うことのメリットは, 300 kRad の線量に耐えるほど圧倒的に耐放射線性に優れることと,能動的に冷却する必要がないので低消費電力を達成できることである。 CMOSセンサのピクセルサイズは512×512であり,高度400 kmのISS軌道上から視野28.3°×28.3°の範囲を観測した場合,1 ピクセルサイズの空間分解能は0.5 kmであり, これによって要求仕様である1 km/pixの空間分解能を達成する。光学レンズに関しては,F1.4, f=25 mmの民生品C-マウントコンパクトレンズを使用し, この光学系の前面にフィルタを装着する。また,CMOSセンサの画像トリミングをコマンドであらかじめ設定しておくことによって,撮像時間分解能を最高2 msまで上げることができる。


Picture of GLIMS Instruments   Picture of GLIMS Instruments
     Fig.2 雷放電発光スペクトル。           Fig.3 スプライト発光スペクトルと大気透過率。

  Fig. 4に,LSI-1, LSI-2のそれぞれのフィルタ透過特性を示す。

Picture of GLIMS Instruments
Fig.4 LSIのフィルタ透過特性