TGFs (Terrestrial Gamma-ray Flashes)


  地球起源のガンマ線放射 (TGFs: Terrestrial Gamma-ray Flashes) が存在するという衝撃的な事実は,ガンマ線天文台(CGRO)衛星に搭載されて いるBATSE (Burst and Transient Source Experiment) によって1994年に初めてもたらされた [Fishman et al., 1994]。Fig.1にBATSE によって観測された地球ガンマ線の例を示す。太陽や銀河起源のガンマ線バーストの継続時間は数msecから1000 sec以上のものまで様々であるが,BATSE の観測によると,地球ガンマ線については数msec以下という非常に短時間の現象であり,ほとんどがシングルパルスであった。また,ガンマ線はエネル ギー分散をしていることも判明した。


Fig.1 TGFの観測例。[Fishman et al., 1994]   Fig.2 エネルギースペクトル。[Smith et al., 2005]

  その後,RHESSI衛星の観測によって500例以上の地球ガンマ線が検出され,平均すると2日に1事例という高い頻度で発生していることが分かっ た [Smith et al., 2005]。また,Fig.2にはRHESSIで観測された地球ガンマ線のエネルギースペクトルを示すが,これによるとガンマ線 のエネルギーは20 MeVという宇宙現象としても小さくないエネルギーに達することも判明した。また,Fig.2には35 MeVの単一エネルギーを もった電子から制動輻射によって放射される,理論的に予測されるガンマ線のエネルギースペクトルを波線で示している。観測スペクトルと比較すると, 極めて良い一致を示しており,電子が非常に高いエネルギーまで加速されていると示唆される。またFig.3は,白色×印で示されるRHESSIで観 測された地球ガンマ線発生分布と,赤色コンターで示される雷放電の発生頻度分布を表している。これらを比較すると,地球ガンマ線の発生は雷多発域 上空に集中していることが明らかである。

  これらの事実から地球ガンマ線は,スプライトの発生にも寄与していると考えられている,逃走電子によって生成したガンマ線であると当初考え られた。つまり,Fig.4に示されるように,宇宙線が生成した雷雲上空の2次電子が,大規模な正極性CGによって発生した準静電場によって上向 きに加速され,逃走電子となった高エネルギー電子が大気と衝突し,制動輻射を起こすことによってガンマ線を放射したと考えられた。

Occurrence Types of TLEs
Fig.3 TGFと雷放電の発生分布。[Smith et al., 2005]

Occurrence Mechanismof TGFs
Fig.4 TGFの発生メカニズムを示す概念図。

  ところが近年,地上で展開する雷起源の電磁波観測によって,地球ガンマ線を発生させる雷は必ずしもスプライトを発生させるような大放電エネ ルギーをもつ雷ではなく,むしろ雷放電の放電エネルギーには相関がないことが明らかになっている [Cummer et al., 2005]。これは,地球ガン マ線のデータは衛星で観測されたもの,雷放電のデータは地上観測や他の衛星によるものであるため,観測機器間の時刻同期精度が数ミリ秒以上あり,そ れらの時間的,空間的な対応が確実なものではないことが要因であると考えられる。地球ガンマ線の発生源とメカニズム明らかにするためには,雷のどの 放電プロセスと地球ガンマ線とが相関しているのかを検証することが唯一の方法である。